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赤い目は、爛々とその光を強くしている。
どうやら、大方の予想通り、とろそうなキャスに犬も狙いを定めたらしい。
少しずつ、赤い光は、目的を持って、ジリジリと窓際に近づいてくる。
「ニコラちゃん、この肉うまいな。なんか食べたことない食感だけど、何の肉?羊?」
優雅に魔獣肉の内蔵を、ワインを嗜みながら食ってるキャスは、自分の食らっている肉が、人を何人か食ったかもしれない魔獣の肉なんぞ、思いもしていない。タダほど高いものはないという事を、この坊やはまだ知らずにいるのだ。
「うふふ、内緒。美味しいでしょ?」
ガワだけはめちゃくちゃ可愛いニコラにそう、こてん、と頭を傾けられて微笑まれたら、ニコラの中身をきちんと知ってるはずのキャスですら、口籠もって、赤くなって、何も言えなくなってしまう。
ガワが美しいというのは、ある種才能だと言えよう。
そんな時だ。
ガブ
窓の外から、黒とも灰色ともつかない大きな犬が躍り出てきて、案の定キャスの肉・・ではなく、ニコラの肉に食らいついたのだ!
「ちょっと! それ私の肉!」
絶対にキャスに飛びつくと思っていたニコラは、キャスの肉に狙いを定めて捕獲魔術を発動する準備をしていたので、一瞬遅れてしまった!
ビューンと遠くにニコラの肉を奪って走っていく犬に向かって、ニコラは捕獲魔術ではなく、追跡魔術を発動させた。
追跡魔術は犬を捕らえ、犬の体は薄く青い光を放って、遠くに駆けて、消えてゆく。
これからゆっくりお食事タイムなのだろう。
ニコラはまあ当初とは違うが、追跡魔術をかけたので、後は魔力を追跡して犬の行方を追うだけなのだが、犬ごときに、キャスよりもトロイと判断されてしまったのが、もう悔しくて悔しくて、怒りが収まらない。
一部始終を見ていた店の連中は、大爆笑の渦だ。
ニコラは悔しくて悔しくて、やっぱり足をダンダンと踏んでいるが、キャスはのんびりと、
「よかったね、ニコラちゃん。あの犬だったんだろう? ところでデザートはどうする?」
と、優雅ナプキンで口元を拭いて、コーヒーなんぞを頼んで、デザートを選び出している始末だ。
「悔しい!!! ムッキー!!」
まだ地団駄を踏んで悔しがって、怒りの収まらないニコラなどどこ吹く風で、
「あ、兄ちゃん、今日はタルトがあるよ。ニコラちゃんの奢りなんだろ?アイスクリーム乗っけたやつ出してやるよ。大盛りな!」
店主は魔獣の乳でできた、魔力多めのアイスクリームを二重盛りにしたタルトをキャスに出してやる。
定食にデザートなんかついていないので、このコーヒーもデザートも、別料金だ。
悠々とタルトにフォークを入れている大男は、ニコラのお財布にお伺いを立ててから、デザートをお願いすべきだろう。腹が立つ。
(悔しー!!このお代も全部ツケて、あの犬の飼い主に請求してやるんだから!!)




