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その小汚い猫のぬいぐるみを目にした伯爵は、子供の失踪の手がかりになるであろう発見にもかかわらず、非常に不愉快そうな顔をした事に、ジャンは気がついていた。
(なるほど・・)
ジャンには、何か感じるところがあった様子。
「伯爵。失礼ですが、御子息の母は?」
傍で様子を伺っていた、オットーが、静かに取り調べを進め始めた。
捜査が始まってしばらく経過するのだが、まだ母親らしき人間の姿が見えないのだ。
なお、この事件に近衛兵が駆り出されたのは、訳がある。
王宮の外れのこの別荘地は、王の所有地だ。
この王の所有地に別荘を持つ事は、貴族の間では、ある種ステイタスとなっている。
尚、実情は、この別荘地は王宮に近いだけで、他には人工の池と、人工の林があるだけで特に見どころはないのだが、土地柄やたらとお値段が張る。
特に名物も何もない、値段が張るだけの別荘地ではあるが、一応王の所轄という事になるので、この地で発生した犯罪は、近衛兵の手で捜査が行われるのだ。
「あれは、子供が産まれてからすぐに離縁しました。この伯爵家に、所詮平民の娘など、似つかわしくはなかったのですよ。あれが来てから、屋敷が安っぽくなって、いい笑いものでしたよ」
吐き捨てる様に、伯爵はそう言い捨てた。
「・・ほう。平民の娘、ですか」
高位貴族のオットーが、ここで少し違和感を感じたらしい。
「失礼、大変不躾ながら、捜査に関係致しますので、お答えいただけたらと思うのですが・・伯爵様と、その前の御夫人との結婚の馴れ初めは、ではどのような?」
家格だのなんだのが非常に重要となる貴族の結婚だ。
貴族と平民と結ばれるケースは無いことはないのだが、かなり珍しい。
お互いよほど思い合った相手か、と思われるのが、一般的だ。
自分より家格の高いオットーからの貴族的なツッコミに、そこで、この伯爵は少したじろいで、そして、少し恥いったように、小さな声で、白状する。
「・・あれは、この屋敷で働いていた、メイドでした。実家が貴族と付き合いの多い商人の家なので、行儀見習いにうちの屋敷に奉公に来ていたのです。それに私が惚れ込んでしまい、ずっと断られていたのですが、追いかけて、追いかけてやっと結婚まで漕ぎ着けました。ですが、身分を超えて思い合っていたと思っていたのは私だけで、あの女狐は、誰でもよかったのですよ、金さえあれば」
一息に、そう言うと、大きなため息と共に、伯爵はどっかりと、子供のベッドに腰を下ろす。
「・・何があったのか、教えていただけますか」
この手の話は、高位の貴族にはかなり重い内容らしい。
ショーンが、促す。
このショーンの実家もこちらの系の話で、現在進行形で大揉めに揉めているのは、この伯爵も耳にしているはずだ。ある意味お仲間に声をかけられて、少し安心して心を許す気持ちになったらしい。
伯爵は重い口を開いた。
「あれは、もっと金周りのいい男と密通していたのです」




