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そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけたジャンが部屋に入ってくる。
ニコラの山のように作ったクッキーを頬に一杯詰め込んで、もしゃもしゃと幸せそうだ。
夕食の時間はとうに過ぎている。
これを見越して、ニコラは携帯食として、クッキーを山ほど持ってきたのだ。
二人の時間がない、と文句はグタグタと言うが、ニコラはジャンの仕事に、割と理解がある。
ついでに、結構上手にクッキーを焼くので、ニコラの素朴なクッキーはジャンの好物だ。
ジャンは、キョトンとこの騒ぎを見て、にっこりと、そして軽やかに爆弾発言をする。
「ニコラちゃん、どうしたの?汚い小銭でも見つけた?」
(な、ナナナ何て事をご令嬢に!!!!)
ショーンは、このジャンのとんでもない発言に、ひっくり返る所であった。
このたおやかな貴族の美少女に、この名高い魔法騎士は、なんという無礼な事を言うのだ!
だが、ショーンが顎が外れそうになって固まっているうちに、ニコラはまたその天使のような笑顔をジャンに向けて、また大きめの爆弾を落とす。
「嫌だわジャン様。緑にサビてる小銭だったらよかったのですけどね!それよりはつまらないものですけど、犯人の手がかりを見つけたのですよ!」
汚い小銭を磨きたおすのは、ニコラの最大の趣味だ。
その中でも緑の錆が出てるやつが大好物。
この美少女、自分の家が違法占拠してる、博物館の中庭の、側溝のドブ攫いこっそりやって、緑の錆が出てる小銭をガッツリ手に入れてウヒウヒしていたのだが、人の目を忍んで、たおやかな美少女がそんな汚れ仕事をしていた事がバレてしまい、なんだかニコラは、心正しき薄幸の美少女扱いを近所で受けているのだ。
ニコラは、猛スピードで取りに行った、手の中の獲物をジャンに見せた。
きったねえ、猫のぬいぐるみだ。
だが、この汚ねえ猫のぬいぐるみを目にした瞬間、ジャンの顔色が変わった。
ニコラが、金の匂いのしないものを見つけたのだ。
ニコラの鑑識眼は凄まじい。この家の、金のハーモニーにそぐわない、異質なものを見つけたのだ。
ジャンは口いっぱいにほうばっていたクッキーを無理やり飲み込んで、残留魔力の鑑識に入る。
赤い猫だったのだろうが、黄色っぽくなって、目は半分取れている。
どこからどう見ても、既製品で、安物で、それから子供が大事にしているのだろう、よだれでべっちょべちょだ。
どう見ても、この部屋にふさわしくはない。
それはまた、部屋の隅っこに、一目に触れられないように、大切に隠されていた。
ニコラの実に繊細な銭の匂いへの違和感への感性がなければ、この部屋にふさわしくない、この小汚い猫のぬいぐるみは見つからなかっただろう。
まだニコラとジャンの発言で、半目を向いているショーンを尻目に、ニコラは続ける。
「ジャン様、これが手がかりです。犯人は、おそらく、この猫が鍵を握っています。」




