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目の前に置かれたのは、子供がいなくなった現場に残されたという、非常に価値の高そうな、ずっしりと重い金のボタン。この失踪事件の、犯人の遺留品だと思われる。
「どこかの貴族の仕業でしょうね、このボタンを見る限り、平民の仕業とは思われない」
オットーの部下のショーン近衛兵が、つぶやいた。
「と、なると怨恨の路線か」
オットーは、ジャンの報告書と合わせて、大体の犯人の当たりをつけている。
転移の魔法陣は高価だ。そもそも庶民に購入できるような値段ではない。
報告書の始末をあらかた終えた、ジャンが部屋に入ってきて、オットーと握手を交わす。
よく現場で一緒になるらしい、旧知の間がらの模様。
「ごめん。ニコラちゃん、随分待たせて。今からじゃお肉食べにいく時間はなさそうだ・・」
ジャンは、自分の仕事が終わるの待たせていた事を悪く思っていた様子で、バツが悪そうに頭をかく。
また食事の約束がパー・これで何回目だろう。
「・・・・・」
ニコラの返事はなかった。
別にニコラは拗ねていた訳ではない。
ニコラは美しい眉に皺を寄せて、深い考えに浸っていたのだ。
ニコラは魔女育ちだ。騎士団や近衛のような箱入り息子達よりよほど現実的だし、考え方のベースが、汚い。
(そんな下手、打つかしら?)
どうも、ニコラの目には、この犯罪、やり方が不自然なのだ。
魔女は非常に面倒臭い生き物だ。
一度ニコラは、岩場の魔女のテリトリーに咲いている植物を手に入れるために、岩場の魔女のテリトリーに忍び込んだことがある。
バレたら間違いなく、血祭り以上のややこしい事になるのであるが、どうしても満月の魔女が作るポーションに必要な植物だったのだ。
満月の魔女と立てた作戦は、絶対にニコラと満月の魔女がテリトリーに入った証拠を残さない、その上で、念の為誰が別人がテリトリーに入った偽の証拠を出しておいて、こちらに目を向かせない。
岩場の魔女が、万が一自分のテリトリーに誰かが侵入した跡を見つけたら、その執念深さで、絶対に誰が侵入したかを突き止めて、その上で、情熱的なまでのねちっこさで報復をするだろう。
満月の魔女は、100年ほど前に、ポーションの代金を支払わなかった商人の3代後の後継をしている男を、使うことにした。(魔女がいつまででも恨みを覚えておくのは、こういう時に身代わりに使うためだ)
満月の魔女ではなく、その男が岩場の魔女のテリトリーに侵入したように見せかけるために、その男の使っている靴の靴跡だの、弁当箱だのをわざわざガメてきて、証拠として用意しておいたのだ。
結局岩場の魔女は、侵入者に気が付かず、ニコラは無事植物を手に入れ、準備も無駄に(男の無事を意味する。先祖がポーション代金を払わなかったツケを、物凄い利子をつけて払わされるところだったのだ)終わったのだが、もしもニコラが犯罪を犯すとしたら、大体こんな感じの準備は、最低しておくのだ。
要するに、同じ犯罪者の目線から見ると、この犯罪者の仕事が荒すぎて、怪しいのだ。
誘拐は、大罪。平民なら死罪、貴族なら、国外追放だ。ニコラなら、絶対もう少しアシが付かない工夫をする。
オットーが差し出した、金のボタンに目をやる。
(うーん、金貨2枚半ってとこね。上流の貴族か。モノ自体は普通すぎる。どういう事なのかしら・・)
そうしているうちに、扉を叩く音がした。
「オットー様、ドワール隊長、伯爵よりご挨拶と」




