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「あー、隊長、ニコラちゃん、こっちこっち!」
ニコニコとジャンの隊の若い隊員の、リバーが二人を見つけて、手招きをする。
事件の現場は黄色いロープがあちこちに張り巡らせされており、大勢の隊員が、忙しそうに連絡魔法をかけたり、騒然としている。
ジャンは、ひらりと黒馬から下馬すると、ジャンの後ろに乗っていた、可憐な少女を大切そうに抱えて下ろした。
「リバー、遅くまでありがとう。疲れただろう。それで、私が役に立ちそうな場所はここか?」
ジャンはいつでも物腰柔らかく、そして優しい。
どんな現場でも、まず部下を労う事が、ジャンの当たり前だ。
ジャンの隊は、そういうわけでとても離隊者が少なく、何らかの事情で一旦離職したものも、復職が非常に多い。
この若い隊長は、非常に部下たちから愛され、慕われている。
「隊長こそ、ニコラちゃんと食事の約束だったんでしょう?ごめんな、ニコラちゃん。いっつも仕事で」
まだあどけなさが抜けないリバーは、眉を八の字にして、さも申し訳なさそうにニコラに謝罪する。
「・・いいわよ、リバー。ねえジャン様、早く解決して、お肉を食べに行きましょう」
本当はジャンとの時間をちっとも作ってくれない、この魔法機動隊には文句の一つも言いたいところではあるが、先にこんな悪そうに謝られてしまうと、しょうがないと、気の良いニコラは、諦めてしまう。
・・リバーは家族から大変甘やかされた妹がいるので、機嫌の悪い若い娘の扱いに長けているのだ。
二人が張り巡らされた黄色いロープをくぐると、その先には田舎風の、小さなつくりの貴族の別荘があった。
ここのまだ3歳にしかならない息子が、その部屋から1日前に失踪したのだ。
失踪現場には、転移に使われた魔法陣の貼られた紙と、そして犯人のものと思われる遺留品と、転移魔法の陣が残されていたのだ。
ジャンとニコラが呼ばれた理由である。
「隊長、こちらです」
リバーに案内されて、この田舎風の別荘の二階の、子供部屋にジャンとニコラは案内される。
内部は普通の子供の部屋。少し散らかっているのは、子供が散らかしたのか、失踪時に何かあったのか、まだ断定はできない。子供の乳母が、着替えを取りに行っていた際の、一瞬の出来事だったという。
大切そうにニコラの手を握っていたジャンは、名残惜しそうにその手を離すと、冷たい、硬質な眼差しとなり、目の前に差し出された魔法陣の張られた紙に、手をかざす。
ジャンは、思考過敏症だ。残留魔力に残された、魔力の持ち主の、魔力発動時の思考を読み取り、事件の解決に誘うのが、彼の最も重要な任務だ。
ぼんやりと柔らかい光を放ち、ジャンの掌から解析魔法が発動される。
この能力は高く各方面から評価されており、喧騒の極みであった現場の、警ら担当の軍人や、ジャンの隊の隊員、皆静まりかえって、固唾を飲んでジャンを見守る。
やがて、ジャンは固く結ばれていた口元を動かした。
「・・・利用者は、30代後半と思われる屈強な黒髪の男だ。報酬によって雇われて、ここから西、フォレストヒルズの地に転移されている。雇い主は、金髪の女性。おそらく貴族かと思われる」
感情の共わない硬質な声で、ジャンは宣告する。
一帯は、ジャンの告げる情報を、神託の如く聞き入る。
ジャンの言葉が終わりを告げる頃、いくつかの情報魔法が飛び交った。




