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久しぶりの二人の逢瀬だと思ったら、また依頼が入った。
ニコラはため息だ。
(今日は一緒に小銭を磨いてくれるっていう話だったのに・・)
ニコラの不満は募る一方だ。
今回は、子供の失踪に関する事件だというので、ニコラだって、今日は違法薬屋を早めに閉めてまででも、もちろん協力は惜しまない。最近銭の実入りがいいのだ。チャリンチャリンと、床下の銭カメが一杯になっていくのを、毎晩イヒイヒ楽しんでいる。
物価の違う王都では、銭の入り方が違う。ニコラのご機嫌は最高だ。
だが、それにしても仕事ばっかりじゃないか。
とりあえずチョコレートのクリームの入ったパンを送っておけば機嫌が良いだろうと、ジャンは毎日山ほどニコラの家まで、王都で一番美味いと評判のパン屋から、配達を取り付けてくれるのではあるが、それにしても仕事ばっかりだ。
悔しい事に、またそのチョコレートクリームの入ったパンが、桁違いに美味く、機嫌など最高によくなってしまうのが、悔しいったらない。
そうこうしているうちに、ニコラの家の方向に向かってくる、黒い馬が一騎見えてくる。
ジャンだ。
腹立たしい事に、遠くから見るだけでも麗しい姿と、黒い馬に騎乗した姿に、うっとりと見惚れてしまう。
本当に悔しい。
やがて黒い影は少しずつ大きくなり、馬の嘶きは、ニコラの家の前に到着する。
彫刻のごとく美しいその顔を、大きく破顔させて、ジャンは口を開く。
「ニコラちゃん、待たせたね!」
黒い髪に黒い馬に騎乗したニコラの恋人は、それだけ言うと、いきなりニコラに馬から引き摺り下ろされて、口づけを見舞われる。ハタからは、大変情熱的に見えるのだが。
口づけから解放されると、少し気まずそうな顔をして、
「・・ごめん。」
ジャンは気まずそうに、この小さな娘に、謝る。
非常に便利な、ジャンの能力。
「そうよジャン様。待たせすぎ。日が暮れるまでにくるって言ってたじゃない。」
ジャンは思考過敏症。
口づけで、微量の魔力を感じ取ることにより、ニコラの思考が全部読めてしまうのだ。
ニコラは最近では口にするのも面倒なので、文句がある時はジャンの首を掴んで口づけして、勝手に考えを読んでもらうという手抜きを編み出したのだ。
「遅れてごめん。それから、また仕事で連れ回してごめん。でも・・」
ニコラはよく知らないのだが、ジャンは実に、細かいところまで、思考が読めてしまうのだ。
ニコラが腹を立てている事も、ジャンに見惚れてしまった事も、ジャンに会えて嬉しいと、喜んでいることも、全部だ。こ
(こんな可愛い思考で怒られてたら俺、なんだってしちゃうよな・・・)
叱られていながら、ニヤニヤが止まらないのだ。
ニコラはそんなジャンに呆れて、待っている間作っていたのだろう、クッキーの入ったバスケットを片手に、ひらりとジャンの馬に乗り込む。
「いいわよジャン様、さっさと行きましょう。」




