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「・・・そりゃ大変だね。」
おかみさんは、アップルティーを自分の茶色いカップに引き寄せて、大きな溜息だ。
「でしょ。」
ニコラも一緒に、大きな溜息だ。
森からすっ飛ばされてから、ニコラはずっとジャンと一緒だ。
だが、やっと結ばれた恋人的なモードが続いたのは、ほんの数日。
行き遅れそうな息子を一生懸命ニコラにくっつけて、やっと孫の顔でも見れそうだと安心していたドワール伯爵も、頭を抱えているのだ。
ニコラは、今、銭稼ぎで忙しい上に、王都の警備隊から機動隊から、騎士団から、あちこちに引っぱりだこなのだ。
一度ジャンの捜査現場に、偶然一緒に赴いた際に、ニコラの癖が発動してしまった事に原因がある。
ジャンが残留魔力に触れて、思考を読んでいる最中に、ニコラはそこら辺に転がされていた、犯人の遺留品の一般的な手袋と、どこにでもあるような水筒を見つけて、それを、ガメようとしたのだ。
どこにでもあるような水筒ではあるが、ニコラのガメつい目には、外国製であること、そして手袋も普通の白い手袋にしか一見見えないが、ニコラの銭ゲバアンテナがピン!と立ったのだ。(金の匂い!)
一見するとどこにでもあるような品物をこっそりガメようとしたニコラは、同行していたリバーに見咎められてしままい、ニコラは苦し紛れに、「こ、こんな希少な価値のある遺留品ですのよ、こんなところに転がしていないで、少しは丁寧に検分した方がいいのじゃないかしら」と言い訳してみたのだ。
大した遺留品には見えない物に執着しているニコラにを不審に思いながらも、リバーが少し詳しく調べた所、ニコラの言う通り水筒は、市内で一般に出回っているものとほぼ同じ見かけながらも、銀の含有量が多い外国製で、銅貨ではなく銀貨で売れる。
手袋も同じく、一般的な安物の庶民の手袋だが、よく中を見ると、なんと指先に保温のためにだけ、火の属性の魔石の粒が入っていたのだ。
魔石の粒が入っていたなど、高価な魔石が気安く利用できる身分の者、つまりは貴族階級が、庶民に身分を偽っていたケースで有ることは間違いない。
銭の匂いに実に敏感な、ニコラ以外では発見は難しかったであろうお手柄だ。
この事件の犯人は、結局隣国の貴族のドラ息子だった。
このように犯人の遺留物が発見されると、ニコラの磨き抜かれた銭ゲバ眼であれば、一目見ただけで大体その価値が恐ろしい正確さで銭勘定され、銭勘定された遺留物の情報を元に、犯人像の輪郭が浮かび上がる。
銭の観点からの捜査、という非常に下品ながらも、非常に役に立つその能力で、以来ニコラはジャンとセットで、あちこちの犯罪現場に駆り出されているのだ。
一旦本編はここで終了です!
次から、探偵物語方式の新章となります。引き続き応援してくださいね!




