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[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
ニコラと、ジャンと。

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月が満ちる日。


ニコラは、久しぶりに水辺に向かっていた。


(隊長様は、元気にお帰りになられたかしら)


最後にこの水辺にやってきたのは、隊長の解呪のポーションを作る、材料を取りにきた時だ。

いい品質のポーションを卸した自負はある。

やばい奴だったが、逃げ切れたので、後腐れはなしだ。いい小遣いも稼がせてもらったことだし、あとは、後遺症もなく元気に復帰されている事を、祈るだけだ。


やばい奴だろうが、悪人だろうが、みんな大事な金をくれる、いい客だ。

ニコラも魔女も、金さえ出してくれれば、王様だろうが泥棒だろうが、誰だろうが、同じ扱いをする。


(ジャン様は、今頃王都かしら)


包帯まみれの紳士を思いながら、ニコラは薄暗い森をトボトボと歩く。


たった一人の森での引きこもりの中、ニコラは、毎日銭を磨いて、それから、ジャンと過ごした小さなひとときを妄想のネタにして、心を慰めていたのだ。

お茶の時間に、ジャンと一緒に飲んでいるように、野暮ったいカップを2客用意してみたり、いつジャンが遊びにきてくれても良いように、なんとなく、庭から花をつんで居間を飾ってみたり。


ニコラだって、こんな事はただの妄想のお遊びだとは、知っている。


ジャンは王都の騎士だ。気まぐれに親切にした、田舎娘の田舎の家に、また訪ねてくれたりするものか。

きっと今頃は王都の夜会とやらに参加して、麗しいドレスを纏った貴婦人とダンスを踊っているのだろう。

ニコラの事など、記憶の片隅にでもあれば行幸。


だが、ニコラにとっては、ジャンと一緒に過ごした、たった少しだけの時間が、魔女と二人で暗い森で過ごすだけだった人生の中で、一番と言っても良いほどの、夢のような時間だったのだ。


久しぶりに家の外に出たものだから、ちょっと息切れがする。


道すがら、いろんな薬草や、キノコの類を回収しようと思わず手が伸びて、そして、止める。


目ざとく回収しようとしたそれらは、足が早い。

さっさと売るなり、消費するなりしないといけない類のもの。


(おじさん達元気かしら。あの紫花なら、きっと銀貨2枚の丸薬をにして売れていたわ。市の閉まる前に売れ残っていたら、警備兵の詰所まで行って、お勤め価格なら絶対に捌けていたわ。あっちの釣鐘茸だって、コウモリの目と一緒に一晩も漬け込んだら、いい値段になったのに。)


ニコラは仕方なく、保存が効きそうな、木の実を少しちぎって、手提げに入れる。

ニコラはあまり好きではないが、関節の痛みに良いとかで、満月の魔女は、食後によく、食べていた木の実だ。


ちょっとだけ、ニコラの目が潤んできた。


(寂しくなんか、ないわ。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「絶対に、ニコラを怖がらせないでね。あの子、怖がりなのよ。」


ルイーダによると、「新月」とは、ニコラが自分で名乗っている魔女の名前らしい。

満月の魔女の孫だから、「新月」と名乗ってはいるものの、特に新月に関する力はない。ただのニコラの趣味だ。


平民の薬屋の娘のルイーダが、貴族の、魔法機動隊の隊長のジャンに、まるで羊の扱い方を知らない子供の、初めての羊の面倒を見る日のごとく、かみ含めるように言い聞かせて、なんだか色々と細かい食べ物だのなんだのを、田舎っぽいバスケットの中に詰めてくれる。

どうやら薬局のおかみさん特製の、田舎風のお弁当らしい。


「絶対ですよ、聞きましたか、隊長」


ルイーダと仲がいいだけのフォレストが、ルイーダに乗っかって、出来の悪い下級生の世話役の上級生のような口を利いては、ジャンの髪に櫛を入れて整えてくれている。この男は、確か部下だったはず。


「これが最後のチャンスですよ、本当に手がかかる」


ブツブツと言いながら、ジャンの美しい顔にぐるぐると包帯をわざわざ巻いているのは、リカルド医師。

なお、ジャンのアザは無くなったので包帯は必要ないのだが、この包帯は完全に、ニコラの知っているジャンの姿の再現をして、ニコラを怯えさせない為、ただそれだけの理由。


「俺は振られて逃げられるに銀貨5枚」

「俺は3枚!」


後ろでコソコソ賭け事をしているのは、憲兵達だ。

皆、事情を知った上で、ジャンが振られる方に賭けているのだ。


非常に馬鹿馬鹿しいのではあるが、若者らしい恋情の大暴走で、事件の解決に導いたジャンの行動が領主に非常に気に入られたらしく、事件の後処理やらなんやらのジャンのサポートに、こうして、ジャンの元に領主の私兵である憲兵を送るようになったのだ。


「私も!大銅貨1枚で、ニコラが撹乱魔法で逃げると思う!」

「あ、俺は王都のパン屋のおかみさんの所に逃げ込むと思う」


もう完全に逃げられるという前提で、逃げ方で賭けを始めたのは、道具屋の娘と、郵便局の息子。

この谷の村では、誰もジャンが成功するなんざ思っちゃいない。


「バカだね、あたしゃ岩場の魔女の力を借りて、国境に逃げるに一票だね」


ルイーダの母は、やはり魔女の事をよく知っている。

みんな、ルイーダの母の案が一番現実的だと、関心してしまっているが、良いのかそれで。


ジャンは自分のニコラへの恋情で、使い物にならないアホになってしまっているが、周りはわいのわいのと、非常に楽しそうにこの身分の高い男の不器用な恋愛を応援して楽しんでいる。


実はニコラの今後の処遇についても、ジャンの周囲で詰めた対応が進んでいる事を、ジャンは、知らない。


ジャンの父である伯爵も、この地の領主も、それからニコラの父の所属していた、王都の騎士団も交えて、先日、王の元で、ある話し合いが交わされたのだ。そして、その話し合いには、満月の魔女の後任である、星降る魔女も呼ばれたとか。


あとは、このアホになってしまった男次第。




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