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ルイーダは、結局素敵なデートのお相手はできなかったが、隊員達の何人かとは、良い友人関係と呼べるほどにはなっていた様子だ。
毎日村長の奥さんが班を作って、村の女性達が食事やおやつを隊に提供しているのだが、今日はルイーダの母、薬局のおかみさんのおやつ当番。ルイーダも手伝った、力作だ。
「ルイーダは、ニコラちゃんと仲良いだろう、なんとかならないか?」
ワイワイと珍しいキャロットケーキを頬張りながら、隊員達はルイーダと気安く話をする。
ルイーダと一番仲良くなったのは、フォレストという、金髪の青年だ。
フォレストの父は、宮廷薬師なので、身分は違うルイーダとも、薬の話だのなんだので盛り上がったらしい。
ニコラの事件のあらましは、村の皆には知られている。
と言っても、村人に難しい話など分かりはしない。ニコラが、元は良い身分で、悪者に狙われていて、魔女の所に匿われていた、今回それで襲われた所を隊が助けて、ニコラは怯えて森から出てこない。
その程度の理解だ。決して間違いではない。
「ニコラ?ああ、かわいそうにね。前にああなったのは、満月の魔女が彼岸の彼方に行っちゃった時だったわね。長くなるわよ」
しんみりルイーダは、咀嚼を続ける。
ああなったというのは、魔の森に引きこもって出てこなくなった時の事。
かなりの長い時間、ニコラはたった一人、森で一人で、喪に服していたという。
「事情聴取もあるし、説明もあるから、話だけでも聞いてくれたらいいんだけどな・・」
フォレストは何より、べそべそと毎日いじけている隊長が鬱陶しくも、やはり心配なのだ。
ニコラの為に、命を張って魔女と交渉した男の話を、ちょっとくらい聞いてやってもいいだろうに。
「ああ、でもニコラは魔女式だから、魔女と連絡するやり方で連絡したら、話くらいできるわよ。」
ルイーダは何言ってんのよ、と呆れたように、大きく切り分けた、自信作のキャロットケーキを大口で完食にかかる。
「魔女式?」
「そうよ、魔女には魔女のやり方があるもの。無理やり引っ張っていこうとしたら、嫌われるだけよ」
そう言い放つと、ケーキを切り分けた時についたクリームを一生懸命包丁からこそげ落として食べにかかる。
基本貴族ばかりの、この隊の隊員、皆、耳が痛かったらしい。ニコラに召集の令状を持たせた使者を送ったり、貴族のやり方で、無理やり引っ張ってこようと躍起だったのだ。
少し恥ずかしそうに、皆そっとルイーダ包丁からこそげたクリームを食べ終わって、言葉を続けるのを待つ。
魔女は、一般的には忌み嫌われる存在なので、魔女のやり方など、お貴族様は何も知らない。
魔女と共に生きてきた、魔女の森のそばで生を受けたルイーダにとっては、魔女のやり方には、隣人として、当たり前の敬意を払ってきた。
それは、人として当たり前のことなのだが。
恥ずかしそうに居心地悪そうに、ニコラの次の言葉を待っている隊員達にはあまり気がつかない様子で、ニコラは面白そうに続ける。
「それに、ニコラ、ジャン様っていう、顔を怪我した隊員様に首ったけだったもの、ジャン様が会いたいって言ってたって言ったら、絶対に出てくるわよ」
ルイーダは、うしし、とニコラのような悪い笑顔を浮かべた。
フォレストは、貴族らしく上品にナプキンで口元を拭くと、優雅にカラトリーを横に置いて、深く考えた。
(魔女には、魔女のやり方が。平民には、平民のやり方が。貴族には、貴族のやり方がある。では、私は)
フォレストは、高位の貴族だ。
平民のやり方は知らない。だが、ルイーダは、魔女式の、ニコラのやり方を忌み嫌う事なく、否定する事なく、良き隣人として、寄り添って生きているではないか。
なら、フォレストのできる事は、今のところ、一つだ。
フォレストは、フォレストの知っている(これしか知らないのだが)最もご令嬢に敬意を払う方法で、優雅に膝をついて、ルイーダの手に口づけを贈り、丁寧にルイーダに尋ねた。
「ルイーダ嬢、私に、教えてくださいませんか。」




