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「いたぞ!捕まえろ!」
キン、キンと剣を重ねた音と男達の怒号。立ち上る黒い煙。
普段は水を打ったように静かな魔の森の西が、今は不穏な喧騒で満ち溢れている。
(やはり隠れていたか・・!)
ジャンは唇を噛んだ。
情報通り、魔の森の西に、アジトがあったのだ。
隣国からの間者は、王都のデビュタントの夜会を狙って、王宮内部に入り込む準備をしていたのだ。
太刀筋から判断するに、粒揃いの精鋭ばかりだ。
隣国が、真剣に開戦の準備を始めているというまことしやかな噂が流れていたが、この男達の実力を見るに、噂は間違いではなさそうだ。
10人足らずの男達を、ジャンの隊が一気に仕留めにかかる。
ジャンの真後ろから、殺気を感じた。
振り返るその間もなく、切り込んできた男の刃を、髪一筋の間で、受ける。
ジャンが今、剣を戦わせている男が、おそらく頭領だ。
腕は相当立つが、残念ながら相手が悪い。
この国で、ジャンと一対一で剣を組み交わして、勝つことのできる実力者など、片手で数える事ができるくらいだ。
ジャンが剣の力で組み敷いて、逃げられなくしている間に、部下の一人が拘束魔法を詠唱する。このまま生け捕りにして、王宮に連れてゆき、尋問をかける。
見事なチームワークは、魔法機動隊の御家芸だ。
その時である。
ジャンが組み敷いていた男が、急に不敵な笑いを浮かべて、首飾りをひきちぎって空に投げた。
西の森は一瞬にして、真っ黒な霧に覆われた。
(くそ、魔道具だ! 爆発する!!)
「伏せろ!!!」
ジャンはそれだけ叫ぶと、咄嗟に結界を巡らせて、部下達を守ったが、一足遅かったののか、ジャンの体にには黒い霧がツタのようにまとわりついた。
(くそ、呪いだ。)
黒い霧はジャンの視界を覆ってゆき、次第に意識が朦朧としてゆく。