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[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
目覚め

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「これだけ銭があれば、しばらくは大丈夫だね」


満月の魔女が、少し、名残惜しそうに小銭を触ると、丁寧に全てのツボを、床下にしまい込む。


「大丈夫って何が?」


幼いニコラは、不思議そうに聞く。


「アタシが向こうの世界に行ってからのことさ。これだけあれば、お前は寂しくないだろう。銭は、お前の心を温めてくれるさ」


画面は暗転する。ニコラは暗い家の、魔女のベッドの枕元で、泣いている。

魔女を見送った、その夜だ。月はギラギラと輝いて、長い満月の魔女の命を刈り取るその日を告げている。


「いやよ、おばあちゃん、私を置いて行かないで!!」


ニコラは泣く。

魔女は、落ち着いて、ニコラに諭していた。


「大丈夫だよニコラ、お前は魔女ではない。お前は人の領域で、生きるんだ。そのうちお前の呪いを、一緒に引き受けてくれる、そんな男が現れる事だって、あるさ。運が良ければ、子供だってできるかもしれない」


そして、外が騒がしくなる。コウモリがびっしりと窓に張り付いている。時が来たのだ。


「いいかニコラ、銭は大事だ。銭さえあれば、それでいい。だがね、ニコラ。いい男っていうのは、銭を持っている男だとは限らないんだ。お前にどれだけのものを支払えるかっていうのが、いい男の基準だ。銭しか支払えない男は大したことはない。その命をお前に支払えるような男が来たら、その男は、どんな手を使っても、手放すんじゃないよ」


一斉にコウモリが飛び立つ。


ゆっくりと、意識が戻る。どうやらニコラは、誰かの腕の中にいるらしい。

ぼんやりと意識が戻ってくるのに身を任せて、ゆっくりと目を開けると。


目の前には、輝かんがばかりの美貌の青年が、ニコラに口づけをしていた。


(死んでいない・・?なぜ・・?夢の続き?? え、誰・・??)


ニコラは混乱で、息が止まりそうになりながらも、ほとんど本能のごとく、この美貌の青年を一瞬で値踏みする。


その襟についてあるべき宝石の飾りはとれている。この品質のシャツは、最高級品だから銀貨7枚という所なのに、宝石飾りがついていないとは、どういうことだ。


ベルト飾りはどうだ。ベルトがついていない。ついていない?なぜ?


では、ブーツはどうだ。この品質の皮なら、金貨だ。だが踵についているべき宝石飾りがない。

なぜだ・この男は誰だ??



ニコラは体を思い切り起こして、魔女仕込みの体術で、思い切りジャンに頭突きをかますと、なんとかこの美貌の青年の腕から逃げおおせた。


「だ、だだだ誰ですか???」



////////////////////////////////



ジャンはニコラの夢の中にいた。夢の中の、ニコラの心に浮かぶ、思考に乗っていた。


(ああ、そうか、ニコラは愛されていたんだな・・)


ニコニコと汚い硬貨をニコラに手渡す満月の魔女は、優しい顔でニコラを見ていた。

ニコラは嬉しそうに効果を綺麗にして、魔女に褒めてもらっている。


ニコラの心はとても嬉しそうだ。


(ああ、ニコラは、銭が好きというよりも、銭を介した、この魔女との時間が好きだったのだな・・)


(嬉しい、おばあちゃんが笑ってくれた。綺麗な硬貨がたくさんあると、おばあちゃんが笑うの。大好きなおばあちゃんが笑うの)


グロテスクな黒い飲み物を、魔女と一緒に飲むニコラの心に浮かぶ。


(甘いな、美味しいな、いつもいいものは、多い方をくれるおばあちゃんが大好きよ)


画面は暗転し、ニコラの心は悲しみにくれる。

魔女の魂が、彼岸の彼方に呼ばれたその日の夢なのだろう。


(いやよ、おばあちゃん、一人にしないで!!)


悲痛な心に触れて、ジャンは心が痛くなる。

ニコラは、この満月の魔女を、心から愛していたのだ。

魔女は、ニコラを抱きしめて、背中をさすって慰めながら、何かを説いている様子だ。


(・・え?)


ジャンは、夢の中の満月の魔女と、ばちりと目があったのだ。ありえる事ではない。これはニコラの夢なのだ。

だが魔女は、はっきりとジャンの目を見ながら、泣き伏せるニコラに言った。


「いいかニコラ、銭は大事だ。銭さえあれば、それでいい。だがね、ニコラ。いい男っていうのは、銭を持っている男だとは限らないんだ。お前にどれだけのものを支払えるかっていうのが、いい男の基準だ。銭しか支払えない男は大したことはない。その命をお前に支払えるような男が来たら、その男は、どんな手を使っても、手放すんじゃないよ」


そして。


魔女はジャンに向かって何かの魔法を放った!!


(魔女の呪いだ!!)


次にジャンが気がついた時には、ニコラの思考が頭いっぱいに広がっていた。

ジャンが、口づけを介して、ニコラの体の内部に放った解呪の干渉魔法が効いたらしい。


ニコラの意識が少しずつ回復し、夢から戻ってきた様子だ。

ジャンと口づけを交わしている事に、死ぬほど驚いているにもかかわらず、実に正確に算盤を弾いて、反射的にジャンの服装から、収入の見積りを計算して、自分の口づけをしている男が、一体何者なのかを予測しているのが、ジャンの思考に入ってゆく。


(誰この人??襟!ベルト!ブーツ!全部で金貨4枚って所!!衛兵にしちゃシャツが高級すぎるわ!城の下級文官ってところかしら??な、なんで?か、かっこいい・・)



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