表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
双頭の蛇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/115

30

ジャンと、部隊が押し入った先には、もう誰もいなかった。


「一足遅かったか、くそ!」


尋問に駆けつけたジャンが、少しだけ回復してきた魔力を全力で放って、この男の最も恐れる幻影を(この男の場合は、足の多い、地に這う虫の類が、一番恐ろしいものだったらしいのだが)見せる魔術を展開したのだ。


思考過敏症であるジャンは、人の思考に干渉するのが得意だ。

拷問に使われる、この厳しい魔術をモロに受けた男は、双頭の蛇の、隠し倉庫として使われている部屋を、吐いた。


「あの男、双頭の蛇に殺されますね」


双頭の蛇の秘密を明かしたのだ。放っておいても、この男には命はないだろう。


「あいつは違法薬物の使用者だ。この後、誰も脱走できない王都の牢で懲役に着く。牢にいる方が、双頭の蛇に捕まる可能性のある街中より、よほど安全な場所だろうさ」


隊員たちが、ジャンの後ろでヒソヒソと会話をするが、ジャンには聞こえない。


尚、ここは、伯爵が春の間に猟に使う為の小さな小屋だ。

湖のほとりに建ててある小ぶりな小屋で、シーズン以外では空き小屋になっている。

この小屋の地下は、水路になっており、城からの緊急脱出の経路として、有事の際は利用される。

その隠し部屋の一つが、倉庫として双頭の蛇に利用されていたのだ。


非常に自尊心が強い伯爵は、伯爵家の施設が犯罪に利用されたという事実に怒り狂い、伯爵家の誇りにかけても、なんとしてでもニコラの身柄の安全を確保する、と全面的な協力を申し出でくれた事は、つい先ほどの出来事だ。


小さなこの小屋は、本来であれば猟で狩った獲物を、一時的に保存しておく場所で、温度が一定で、ひんやりと夏でも涼しい。

この部屋にニコラは「一時保管」されていたらしい。


「徹底的に探せ!なんでもいい!手がかりになるもの、全てだ!!」


普段とても穏やかなジャンが、大声で、厳しい口調で隊員に命令する。


「は!!!」


隊員達と、憲兵は組になって、徹底的に倉庫を洗う。

ごろごろと置かれた違法な薬物が詰まった箱、違法魔獣の入れられている檻や、盗難が報告されている大きな美術品が、忘れられた夢のように転がされていた。

ニコラを縛るのに使ったのだろう、荒い麻縄の残りが、無造作に、箱の上に投げられているのをジャンは見つける。


(あんな細い、白い腕を、こんな荒い縄で縛ったのか。。痛かったろうに・・)


ジャンは、ニコラの家の食料庫の、本当にちまちまとした食糧を思い出す。あんな折れそうに細い腕を、こんな荒い縄で縛ったら、真っ赤になって痛がっているだろう。


・・そして、何かに気がついた。


(・・これは、魔法の使われた痕跡・・)


縄の投げられていた箱のそばに、放置されていた荒い麻布の下に、本当に、小さな小さないものだったが、魔力をジャンは感じたのだ。


ジャンは、麻布をひっくり返す。


麻布の下の、冷たい石の床にあったのは、小さな、小さな魔法の痕跡だった。


おそらく三刻よりも前に発動されたものだろう、魔力の残滓で、ふんわりと、まだ暖かい。


「見つけたぞ!!」


ジャンの叫び声で、狭い部屋は静まり返る。

隊員達は、整列し、魔力の残滓の前でひざまづく、ジャンをグルリととり囲んだ。


「隊長!」


ジャンは、隊員達が見守る中で、小さな魔力の残滓に、その両手をかざす。


ーー思考過敏症の、ジャンの、その能力の真価だ。

ジャンを尊敬してやまない隊員達、そしてその名高い能力を、まだ目にした事のない憲兵達が固唾を飲んで見守る。


(ニコラ、ニコラ、頼むから間に合ってくれ・・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ