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[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
銭ゲバ薬師・ニコラ
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2

秋口は、魔獣による事故が多い。

秋は恋の季節。王都の宮殿ではデビュタントの夜会を皮切りに、様々な夜会が開催されて、新しい恋が生まれる、そんな季節なのだ。


このリンデンバーグ領の魔の森の、魔獣達にとっても恋の季節だ。


魔の森の近辺ではこの秋口の時期、番を求めて彷徨い歩く、恋に飢えた魔獣に人が襲われる事故が、後を立たない。


そして、魔の森の木々達にとっても、厳しい冬を迎える前に、実りの命を次の世代につなげる季節だ。

魔力のあるキノコは人を襲ってその体に胞子をつけようとしたり、散歩に行った犬が、芳しい香りを放つ、魔力をもつ花に取り込まれたりと、魔の森近くの村では、被害が絶えない。


加えて実に厄介なのは、この魔の森は、非常に扱いが難しい、魔女達のテリトリーなのだ。


魔女の機嫌を損なうと、実に厄介だ。しつこく、陰険な方法で長年に渡りチクチクと復讐してくる。

魔の森の周辺の警備に、王都からわざわざ魔法機動隊の一隊が送られる理由が、これだ。


魔法機動隊にとっては、一年で一番気の休まらない季節だ。


「あ、ジャン隊長、お疲れ様です!蔓に引っかかってた男が一人、魔獣の子供に追っかけられた婆さんが一人。今日は少ないですね」


黒い騎士の制服に身を包んだ騎馬の一隊が、眩いばかりに美しい造形の男に近づいてゆく。


ジャン隊長、と呼ばれたその黒髪、黒目の美貌の男は、黒い制服に身を包み、黒い軍馬の背に乗って、まるで闇夜の使者のごとくだ。その美貌と、その黒い装いから、王都では「夜の貴公子」などと、本人が死ぬほど嫌がっている通り名があるほどの美丈夫だ。


ジャンは、王都の魔法機動隊の第一部隊の隊長を務めている。

第一部隊は普段は王都の王宮宮殿警備を担当して、有事の際は前線で魔法部隊として活躍するが、毎年秋口だけは、デビュタントの夜会の日まで、リンデンバーグ領の魔の森周辺の警備を担当する。


ジャンは、ほう、とため息をついた。


秋口の短い期間とはいえ、この季節は本当に油断がならない。

昨年は、発情期でおかしくなった魔獣に、部下が襲われて大怪我となったのだ。

今年は加えて、デビュタントの夜会を狙った、隣国からの間者が入り込んで、魔の森に拠点地となるアジトを構えて潜んでいるらしいと言う報告もある。


「今年は警らの人員を倍増できて、よかったですね。それに今年は村に駐屯できるから、野営しなくて良くて、当たりの年ですね」


気のいい部下はそう笑って軽口を叩くが、実際は倍増した人員をまとめる機動隊長は、仕事が倍増して去年の倍は多忙だ。


そんな事は、ジャンの部下達もよく知っているが、この連中は明るいのだ。

ジャンも苦笑いして、軽口で返す。


「ああ、その通りだ。女っ気のないお前らの為に、可愛い娘が多いと言うこの村を駐屯に申請したんだ。しっかり成果をあげろよ!」


「ははは、隊長こそ!今年結婚できなかったらもう、強制的に相手決められるんでしょう?ここの警備が済んだら、夜会本気で頑張ってくださいね!」


ジャンは苦笑いする。

ジャンの生家は、まあまあ格式の高い伯爵家で、ジャンはその跡取り息子だ。

その容姿、身分、実力と全て兼ね備えたジャンは、王都の乙女にとっては憧れの男と言っても過言でない。

見合いの釣書書は日々山のように届くのだが、ジャンは重大な理由があって、結婚できずにいたのだ。

ほとんど男の行き遅れにあたるこの年まで。


部下の言う通り、警備対象のこの村に駐屯できた今年はとても運がいい。

夜間でも、魔の森に潜んでいると言うらしいという情報がある、隣国の間者に何らかの動きがあれば、すぐに対応できる。そして何より、この村は飯が美味い。


「さあ、明日は森の西側も回るから、忙しくなる。さっさと駐屯地に帰って、ゆっくり休め。今日の賄いは、油の乗ったマスを村長から頂いたぞ」


「秋口のマスですか!最高ですね!それは無くなる前にさっさと帰らないと!隊長、失礼します~!」


若く食欲旺盛なジャンの部下達は、さっさとジャンを後に、駐屯先に戻ってゆく。


(何事もなければ、いいが・・・)

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