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[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
魔の森から出られない訳
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月が満ちる日は、市の立つ日だ。


ニコラは、朝早くに谷間の村までジャンの薬を卸すと、その足で城下町に向かう。

かなりの荷物で、かなりの距離移動するのだが、ニコラは野生児なので、どうという事はない。


ここの所、国境にある聖地への遠征が、この領の兵士に増えている。

聖地をめぐる戦争が隣国と勃発するのではないのではないかと、まことしやかに囁かれているが、ニコラにそんな難しいことはわからない。わかるのは、最近ポーションだのの売り上げがいい事だ。


「気をつけてね、聖地って島なんでしょ?遊びに行けるところがないから、退屈しそうね」


ニコラは馴染みのおじさん兵達に、解毒剤を渡しながら呟く。

おじさん達は、1ヶ月は聖地への派遣が決まったらしい。


「ああ、退屈ならいいんだけどな、ニコラちゃん知ってるか。この隣国との関係が緊張してるドサクサに紛れて、違法薬物を取り扱う犯罪集団が、最近王都で、また出だしてるらしい。前に一度、王都の騎士団が壊滅させたのに、やっぱり物騒だね。」


「そういう訳で、ポーションやなんかの取締りが今厳しいんだ。妙な魔力反応のあるポーションや、違法な植物を利用した、紫タバコなんかは見つかったらすごい罰金取られるんだぜ。ニコラちゃんも、注意した方がいい」


おじさん達は、別にニコラの薬草に怪しいものが入ってると言いたい訳ではないが、宮廷の魔術師達のやり方とは違う方法で魔女の薬学は発達してきた。よく思わない連中は、魔女の使う材料を違法に定めて、魔女の薬が一般に流通しないようにしてきた歴史があるのだ。


魔女達が市に出てこないのは、魔女達が怠惰だという理由が一番だが、こういった面倒ごとを魔女達が嫌うからだ。


・・・そして、実際にニコラも結構スレスレの薬を提供していたりする。


「ありがとうおじさん達、怖いわね」


にっこりと、虫も殺せないような顔をしたこの娘、怖いなんぞ言いながらも、さっさと商品からいくつかの瓶を引っ込める。

スレスレの材料を使っている、強壮剤だ。

儲かるが、もしも罰金になったら儲けなど吹き飛ぶ。


祖母譲りのアコギなスタイルの商売をしてきたニコラは、引き際も鮮やかだ。


(プロだな、ニコラちゃん・・)


娼館に遊びに行く前に購入する紫の丸薬が、ささっと商品から引き上げられそうになる前に、他の兵士がいくつか注文する。しばらくほとぼりが冷めるまで、ニコラは、この丸薬も市に出さないだろう。


こういう所が、ウラ若いニコラでも一流の商売人たらしめているところ。


(しばらくの間は、当たり障りのないものだけ出しておいた方が良さそうね・・)


ニコラが馴染みの客達と、のんびり会話をしていた時だ。


「そこを退け!」


野太い、大きな声が上がる。

遠くから砂煙が上がって、こちらに向かっている。

よく見えないが、騎士が騎馬で、誰かを追いかけている様子だ。


先ほどまで会話していた兵士のおじさん達が、顔色を変えて、ニコラの腕を掴む。


「ニコラちゃん、上に退避しろ、あれは憲兵が犯罪者を追ってるんだ!巻き添え食ったらただじゃ済まない!」


木の上にニコラをひっぱりあげると、兵士の顔に戻った馴染みの客は、加勢すべく皆、騒動の方向にかけてゆく。


どうやらこの騒ぎの先頭にいる男は、こちらの方向に向かって馬で走って逃げている様子だ。

その後を追いかける騎馬隊は、領主の直属の、憲兵だ。後ろからいくつもの捕獲魔法を放っている。


先頭の男は、血走った目をして、青い顔をしていた。

確か、この男は、領地で、私立の貴族の子弟を教える、魔法学校の教師だったはずだ。


(あれは。。中毒者の顔!!)


ニコラには、この青い顔に見覚えがあった。

違法薬物の摂取過多による、中毒者の顔に、間違いない。

この薬物は、摂取すると多幸感が得られ、疲れや痛みを感じなくなるが、摂取し続けると精神の均衡を崩し、最終的には廃人となる。この薬物は、所持するだけでも重罪だ。


砂埃が朦々と、ニコラの避難している木の側近くからも立ち上がる。


「観念しろ!!」


憲兵の一人が放った捕獲魔法が、男の腕に絡まった。


もしもこの男が、違法薬物の常習者だとしたら、死罪は免れない。


「クッソ! つかまってたまるか!!」


男は追い詰められて、手の中で攻撃魔法を練り、事もあろうか、憲兵隊に放ったのである。

だが、魔法伯の所属である憲兵隊は、対魔法に非常に長けており、日々訓練を受けている。

瞬時に憲兵の一人が対攻撃魔法の盾を張り、男が放った赤黒い魔力の火の玉は、四方八方に飛んで言った。


見守っていた街の皆が、ほっと胸を撫で下ろそうとした、その時である。


ヒョコヒョコと、目の前に3歳位の幼児が、手に持っていたボールを追いかけて、歩いて道に出てしまっていたのだ。ニコラの店の、向かいのパン屋の双子の片割れだ。

パン屋のおかみさんの手をすり抜けてしまったのだろう。


憲兵隊に弾かれた、赤黒い魔力の玉は、真っ直ぐに幼児に向かっていく。


後ろに、お腹の大きなパン屋のおかみさんが、絶叫する声が響く。

事態に気がついた憲兵隊は、一斉に防御の魔法を子供に放とうとするが、詠唱が間に合いそうもない。


一部始終を木の上から見ていたニコラは、ある、非常に大きな決断を迫られていた。

今ニコラが、木の上から結界魔法を放てば、おそらく間に合う。

だが、それは満月の魔女との約束も、両親の願いも、裏切る事になる。


(おばあちゃん・・・ごめんなさい!!!)


だが、ニコラは目の前の子供を助けないという選択肢を、持ち合わせてはいなかった。

ブチ、と足首につけていた細い鎖をちぎると、全身の魔力を全て放出して、結界魔法を放った。


ニコラの頭の中に、満月の魔女の最後の言葉が響く。


「可愛いニコラ。絶対に、何があっても、魔の森を離れた所で、魔力を使うんじゃないよ。」




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