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[完結] 銭ゲバ薬師と、思考過敏症の魔法機動隊長。  作者: Moonshine
銭ゲバ事件簿・偽宝石と、聖職者
103/115

15

ジャンが残留魔力に、魔法を放つ。

あたりはぼんやりと光を受けて、きゃんきゃんといがみ合っていた二人も、その口を閉じて、ジャンを見守る。


ジャンは、その名高い能力で、残留魔力に残されていた、術者の思考の海にたゆたう。

そして、ゆっくりと、遠くからの波が近づいてくるかのごとく、一つの思考が、ジャンの頭の中で、小さな声をあげた。


(・・・この金で、買える)


思考は、ジャンに語り掛ける。


(やはり金が動機か。だが、なぜだ)


ジャンは、迫りくる、次の思考を身構えて待つ。瞳を閉じて、その身をまかせた。


映像がぼんやりと見えてくる。暗いこの貧しさを極めた貧民院の片隅で、司祭は加工された違法黒魔石を、銀の台座に収めてる。青い魔法の炎を指先から出して、台座と石を、接着している様子だ。

司祭の隣には、幾つもの銀細工の違法黒魔石が嵌め込まれた首飾り。

証拠品保管室で、ジャンが見たものと、同じだ。犯人は、やはりこの男。


ジャンはだが、まだ解せない。なぜ司祭は、こんな犯罪行為までして、金が必要なのだ。

ジャンは手のひらに力を入れて、ぐっと、司祭の思考の奥に触れる。


(…水が買える。本が買える。子供達の、パンが買える)


ジャンの頭にへばりついてくる、司祭の思考には、悪意はなかったが、ねっとりとした仄暗い心が不愉快だ。


(炭鉱病の病人に、緑銀石の毒は効かない。神の思し召しだ。神は、この行為を喜んでおられる)


(病人に、緑銀石の粉を使って金を稼ぐ方法を与えたのは、神の奇跡だ。子どもたちに、病人が稼いだ金で、恵みを与えよと、そう仰せなのだ)


ジャンの顔が曇る。

都合のいい、自分勝手な解釈だ。

不愉快そうに、大きく開かれていた手のひらを握りしめて、残留魔力に残された思考から、ジャンはその身を離した。


そして、小さなため息と共に、ニコラに向き直って、言った。


「ニコラちゃん。君は正しい様子だ。司祭は、神の思し召しだと言って、ここの子供たちの為であれば、炭鉱病の病人を働かせて、違法の黒魔石を作って、王都で売ってもいいとの考えらしいよ」


苦しそうな顔をしたフォレストが、なっていた魔法の縄を、アーネスト司祭に掛ける。

憧れていた、尊敬する司祭にこんな役割は、フォレストもごめんだろう。


「どうせ死にゆくしかないここの炭鉱病の大人が、神の恵みによって子供のパンを買ってやれる方法が与えられたのだ!私は司祭として、正しく神の心をこの世に表す義務があるのだ!」


アーネストは、爛々と目を輝かせて、吠えた。極度の興奮状態にいる。

狂信者の類と同じ顔を見せたこの聖者に、フォレストは顔を背けた。


「司祭。間違っています。違法黒魔石が壊れて、緑銀石が空気に触れてしまった事故があったのを、ご存じでしょう。なぜ無辜なるものが、違法黒魔石によって苦しまなくてはならないのです」


ジャンが、淡々とつなぐ。


司祭は吠える。


「その違法黒魔石によって、死人は出たのですか?酷い目には会うが、誰も死んでいないはずだ!だがね、ここの子供は死んでしまうんですよ。神の偉大な教えを理解するそんな命の余裕もなく、汚い水で死んでしまうんですよ!なら、一刻も早く、神の恵みを金に変えて、子供らの水に、本に、パンにしてやればいいではないですか!」


司祭は、もう焦点もあっていない。口角には泡が溜まっている。鼻息は荒く、怒りで青い顔はより青く染まっている。


そんな中、ニコラはシラッとした顔で、淡々と、なんなら同情的に言う。


「死なせるにしても、うまい具合に大人の信者にしてから死なせないと、あんたの神様とやらの、天国のポイントにならないもんね」


ものすごい失礼な事をニコラは言っているのだが、案外にも司祭は、ニコラに同調した。


「ああ、ニコラ、そうだよ。洗礼前の子供が死んだところで、私の手柄にならないではないか」


この生きている聖者と言われた男、一般的な見ようによっては、犯罪行為に手を染めてまで、貧しい子供の命を救おうとしている聖者に見えるだろう。

だが、ニコラの目線で見たこの男は、ニコラと同様の、銭ゲバ。現世の金が欲しいのか、天国のポイントをゲバっているのかの違いで、対して違いはなさそうだ。この二人の仲の悪さは、近親憎悪だ。


フォレストは、半眼になりながら思いだす。


(道理で、どの司祭についての本を読んでも、書いていたはずだ。「私は誰のためでもなく、他ならぬ自分の為に、この行為をおこなっているのです」と)


なんと謙虚な聖者だと、胸を打たれていたフォレストは、司祭が実に、言葉の通りに非常に自己中心的な考えの元で、布教活動をおこなっていた事実に、どんよりとしてしまう。


(私は、一体、何を見ていたのだろう)



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