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「こいつはいつも私の商売の邪魔をしようとするのよ!」
二コラはイー、とその可愛い顔をゆがめてアーネスト司祭に向ける。
アーネスト司祭も、全く負けていない。
「悪魔の申し子め!この銭ゲバめ!この町の病気が治らない病気だと知っているのに、貧しい人々に薬を売りつけるなど悪魔の所業!ワシが神に代わって成敗してくれる!」
「最後まで薬を買いたい人に薬を売りつけるのの、何が悪いのよ!治らないけど、死ぬのがちょっと遅れるんだから、価値はあるわよ!それにあんたは身寄りのない患者が薬を買って、教会に残される銭が減るのがいやなんでしょ!それにさっさと天国とやらに送り込んだ方が、天国でのポイント利子が溜まりやすいとか、どうせあんたの卑しい根性はそんな事考えてるんでしょ!どっちが銭ゲバよ!」
「どうせ死ぬんだ、早く神にめされてこの苦しみから解放された方が、良いではないか!薬でこの苦しみ多い世の中に人の子を縛り付けて、苦しみのなき清浄な神の家から遠ざけているのはどこの誰だ!」
尊敬されてしかるべきのこの高名な司祭も、ニコラに対してまるで親の仇のごとくの剣幕だ。
二人はどうやら、思想の違いが著しいらしい。犬猿の仲なのだろう。
きゃんきゃんと二人は罵り合いが止まらない様子。
ジャンは頭からかぶってしまった聖水を風魔法で乾かしながら、二人の会話をじっくりと聞いていた。
(なるほど、二人ともそれぞれの言い分はあるみたいだ・・)
そこで二コラが最初に言っていたことを思いだす。
「それで、二コラちゃんは、どうしてこのアーネスト司祭の所にやってきたの?事件に関係あると思ったの?」
どうどう、と怒りに興奮している二コラを落ち着かせようと、話しかけるが、ニコラはきゃんきゃんと、止まらない。
そうしているうちに、ジャンは気が付いた。
二人のいがみ合いを見守っていたフォレストが、暗い、沈んだ顔をしていたのだ。
ジャンの視線に気が付いたフォレストが、ジャンに目線で小さな合図を送った。
フォレストの合図に導かれて、その目線を追ってみると、事務所の奥に積まれている、ガラスの材料。
銀の鎖が入っていたのだろう、まだラベルがついたままの、木の箱。ペンチ、金具。
(これは・・黒だ)
フォレストは、深いため息をついていた。
首飾りの、材料だ。それも大量の。
聞くまでもない。状況証拠は黒。なぜニコラは、思い至ったのだろう。
尊敬していた司祭の悪行の証拠に、フォレストは暗い顔で、静かに魔法の縄をなう。
(・・だが、なぜだ)
アーネスト司祭の実家は、辺境伯家だ。
金にこまった話など聞いたことはないし、そもそも司祭は、実家の反対を押し切って、貧しき人と信仰に生きるみちを選んだ、聖者のはずだ。金欲しさに、違法の装飾品を作る理由が、みあたらない。
司祭の作業机に目をやった。
司祭は、組み立ての作業を机で行っていたのだろう、魔力の小さな反応を確認したのだ。
(・・なぜ)
ジャンはニコラの傍らを離れると、机に向かう。
残骸魔力に、ジャンは手をかざした。
残骸魔力から、思考を、読むのだ。