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「あんたね、アコギな商売してるのは!」
ニコラはものすごい切り口で、部屋に入るや否や、そこにいた非常に老齢の、青びょうたんに間違いない、青くて長い顔の司祭にいきなりこんなえげつない声をかけた。
司祭も、いきなりやってきた客に二コラの顔を認めると、憤怒の形相で二コラにどなりつける。
「神を惑わすもの、やってきたか!心を改めよ!」
司祭は、いきなり二コラにむけて小瓶から聖水をぶっかけるが、二コラにひょいとよけられて、後ろにいたジャンにかかってしまった。
どうやら二人は知り合いらしい。
ニコラが知り合いを連れてきたなど、思いもしなかったのだろう。司祭は焦って、平謝りだ。
「ああ!こ、こここれはこれは!お客様をお連れとは!申し訳ない、この魔女はいつもこうやって哀れな魂を惑わすのです。二コラ、このお方はどなただ!」
この場にふさわしくない、身なりのいかにも貴族然とした貴公子におどろき、またその貴公子にいきなり聖水をぶっかけてしまった事に恐れおののく。
「私の恋人よ!」
二コラはぷんすかと、そして鼻が高そうにジャンを紹介する。
「たわけ!このような立派な貴公子が、お前のような悪魔の申し子の恋人のわけがあるか!」
司祭はニコラにそう怒り狂う。
ジャンは少し肩をすくめて、
「前触れも送らずに失礼、私は魔法機動隊第一団長、ジャン・ド・ドワールと申します。王都で発生している事件に関して、少し事情を伺いたく、私の婚約者にこちらまで案内を」
そう聖水でビシャビシャながら、丁寧にあいさつをした。
司祭は、ジャンの言葉にしばらく言葉もなく、ただ立ち尽くしていたが、赤くなったり青くなったり、最後に白くなって、二コラにまた、怒鳴りつけた。
「この・・魔女め!お前はどうやってこんな立派な貴公子をたぶらかして、」
ほとんど倒れそうなほど激高している司祭の前に、今度はフォレストが静かに歩み寄り、興奮が抑えきれないながらも丁寧な礼をした。
「御高名なるアーネスト司祭ですね。ご高名は、かねてよりお伺いしておいrます。お会いできた幸運を、神に感謝いたします」
ジャンの傍らから今度は二コラが質問する番だ。
「フォレスト、このアコギの事知ってるの?」
こてん、とその非常に美しい顔を傾けて上目遣いでフォレストを見つめる二コラは、本当に見てくれだけはどこぞのお姫様のごとくで、二コラの中身がどうしようもない銭ゲバと知っているフォレストですら、一瞬息が止まってしまう。
(か、かわいい・・)
一瞬二コラの美貌に心を奪われて、声につまってしまったフォレストは、わざとらしい咳払いをして、
「ああ、二コラちゃん。このお方は元は辺境伯の三男のお生まれであったのにも関わらず、貧民の救済に人生を賭けて生きておられる聖者だ。「福音の使者」と尊敬されているんだよ。私も何冊もこのお方の伝記を読ませていただいた。天国に最もちかいお方と称されている。今はこの町に布教においでてしたか」
少年の頃はこの男のごとく、何もかも投げ打って貧しい人々に布教を、なんぞおぼっちゃま丸出しのドリームを持っていたこの男、ガッツリ実家が金を持ってることに罪悪感を感じるタイプだ。
何一つ不自由のなかった身を投げ出して、貧しい人々のなかを布教しているというこの男の事に憧れを持って、その生き方を描いた書籍だのなんだのは全コンプリートしているとか。
アーネスト司祭、とよばれたこの司祭、フォレストが自身のファンだと気がついて、居住まいを正して、聖者に相応しい腰の低さで話し出す。
「いかにも私はアーネストです。ですが、辺境伯の元に生まれたのははるか昔の話です。今はただ、一人の神のみ使いとして生きる、ただのアーネストです。この町には3年前から、神の導きで。神の元に召される人々の安らかな旅路をお手伝いしております」
そう深くフォレストに礼をした。
出会いがしらに二コラに聖水をぶつけにかかってきた頭のおかしい男とは、えらい違いだ。
「そんな高名なアーネスト司祭が、なぜ、二コラちゃんと・・?」
フォレストの疑問は最もだ。そしてどうやらこの二人、知り合いらしいが仲は非常に悪そうだ。