おばけたちのかくれんぼ
※幼年童話風のホラーですので、そこまで怖くないと思います。怖いお話が苦手なかたも(たぶん)お楽しみいただけると思います(^^♪
「おばーけ、ばけばけ♪ なにしよう?」
「おばーけ、ばけばけ♪ なにしよう?」
「おばーけ、ばけばけ♪ いたずらしよう?」
「おばーけ、ばけばけ♪ いたずらしよう!」
くらい夜道に、ふわりふわりとまんまるおばけたちが集まって、なにやらお話しています。
「おばーけ、ばけばけ♪ いたずらしよう!」
「おばーけ、ばけばけ♪ いたずらしよう!」
「おばーけ、ばけばけ♪ どんないたずら?」
「おばーけ、ばけばけ♪ どんないたずら?」
「おばーけ、ばけばけ♪ かくれんぼしよう!」
「おばーけ、ばけばけ♪ かくれんぼ……かくれんぼ?」
おばけたちのなかで、一番小さくって一番まんまるい、おばけの『マル』がいいました。ほかのおばけたちはみんなぶるぶるとふるえだします。
「ダメだよかくれんぼは! ぼくたちおばけは、かくれんぼしちゃったらそのまま連れていかれちゃうんだよ?」
おばけたちのリーダー、大きくてちょっぴり細長い『バケバケ』がいいました。マルはまんまるいからだをまぁるくしてから、バケバケに聞きます。
「連れていかれちゃうって、どこに?」
「どこにって……。そりゃあお前、お空の上さ。ぼくたちおばけは、お空の上に連れていかれちゃうと消えちゃうんだよ」
消えちゃうと聞いて、マルはぎゅうっと小さくなってぶるぶるします。バケバケは白いからだをうねうねと動かして、マルに続けていいました。
「だからさ、かくれんぼなんて絶対ダメだよ。さぁ、他に楽しいいたずらがあるから、みんなで考えよう」
明るい声のバケバケに、みんなもしかたがなさそうにうなずきます。でも、マルは小さくてまんまるいからだをぎゅうっとちぢめて、それから顔をフルフルと横にふります。
「でもさ、でも、おいら、かくれんぼ好きだから……」
フルフルするマルを見て、他のおばけたちもじーっとバケバケを見つめました。バケバケはうぅっとあとずさりしますが、そのとき「ザッ……ザッ……」と足音が聞こえてきたのです。
「あっ、人間だ、みんなかくれろ!」
バケバケにいわれて、みんなスーッとやみにとけて消えていきます。おばけたちは、やみにとけると人間に見えなくなるのです。もちろんおばけ同士はちゃんと見えるので、やみにとけてもみんなバケバケをしっかり見ています。
「……ねぇ、バケバケ。おいらたち、かくれんぼしてない?」
ふいにマルが、バケバケに聞きました。バケバケが「えっ?」と聞き返します。
「だってほら、おいらたち、あの人間からかくれてるよ? かくれんぼしてるじゃん」
「いや、これは人間からかくれてるんであって、ぼくたちでかくれんぼはしてないだろう? だから連れていかれたりはしないよ」
しどろもどろになりながらも、バケバケがマルに答えます。ですが、マルはまだなにかいいたげで、口をもごもごさせています。
「でも……でも……。ねぇ、バケバケ、あのさ……。みんなで、あの人間とかくれんぼしない?」
やっとでマルがバケバケにお願いします。バケバケは細長いからだをうねらせました。
「あの人間と? どういうこと?」
「ほら、おいらたち、やみにとけたら見えなくなっちゃうじゃんか。いつもは、そのまま「バァッ!」て出てきておどかすよね? でも今日は、ちょっとだけ出てから、誰が最初に見つかるか、かくれんぼしよう?」
マルの言葉に、いたずら好きな他のおばけたちも大喜びです。みんな浮かれ騒いで、チラチラとそのすがたがやみに躍り出ます。人間の足音がぴたりと止まりました。
「バケバケ、面白そうだよ! やろう!」
「かくれんぼじゃなくて、いたずらだからいいだろう?」
「あの人間に誰が最初に見つかるかなぁ?」
大盛り上がりになるおばけたちに、だんだんとバケバケもうれしそうに、うねうねとリズムに乗り始めました。そして……。
「しょうがないなぁ、よし、やろう!」
「やったぁ!」
ついにバケバケがうなずいたので、みんないっせいにくるり、くるりとやみのなかを踊って騒ぎます。うかれるみんなに、バケバケはぴしゃりといいました。
「よし、それじゃあかくれんぼ始めっ!」
バケバケの声に、みんないっせいにすがたを消しました。再び「ザッ……ザッ……」という足音が聞こえてきます。
息をひそめるおばけたちのところへ、小柄な若い女の人が歩いてきました。バッグをぎゅうっと抱きかかえて、眼鏡の奥の目をふせがちに、そろり、そろりと歩いてきます。
「……それじゃあ、最初はぼくが……」
バケバケが、頭の部分だけをやみから出して、うねうねと生き物のようにうねらせます。女の人のからだがわずかにビクッとします。ですが、バケバケのほうは見ずに、「ザッ……ザッ……」と変わらず歩いていきます。
「セーフッ!」
おばけたちの声がやみの中にこだまします。もちろん人間には聞こえませんが、女の人はさっきよりも顔を引きつらせているように見えます。
「バケバケ、危なかったね。さぁ、次はおれだぞ!」
「あっ、ずるいわ! 次はわたしよ!」
「待て待て、ぼくが次だっていったじゃないか!」
「ダメよ、あたしよ!」
バケバケに続いて、おばけたちが我先にと名乗り出ます。興奮して、からだがちらりちらりとやみに浮かんでは消えていきます。そのたびに女の人は顔をそむけて、祈るようにうつむいたまま早足で歩いていきます。
「よし、それじゃあ次はおれだ!」
おばけの手が、やみの中にゆらめきます。
「さぁ、次はわたしよ!」
長い髪の毛が、きらきらと輝いてそよいでいきます。
「やった、次はぼくだぞ!」
なにもないところから足が、すたすたと歩いて消えていきます。
「やっとあたしのばんだわ!」
冷たい二つの目が、見すえるように光を放ちます。
みんな思い思いのかくれんぼを楽しんで、ようやくマルの番になりました。
「みんな上手にかくれたなぁ。おいらも見つからないようにがんばるぞ!」
マルははりきって女の人の前にパッと現れます。ハリキリすぎたためか、顔だけを出そうとしたところを、からだ全部がやみからすがたを現してしまいました。
「ッ……!」
悲鳴をあげそうになりながらも、女の人は口を押さえてこらえます。そして、マルのほうをちらりとも見ずに、そのまま駆け足になっておばけたちに背を向け逃げてしまったのです。
「やったぁっ! おいらも見つからなかったぞ!」
マルが小さいからだをいっぱいにして、やみの中を飛びはねます。他のみんなも歓声をあげました。
「面白いいたずらを考えたなぁ、マルは。次に人間がきたときも、またかくれんぼしようよ。いつものいたずらの何倍も面白いよ、これ」
バケバケの言葉に、他のみんなも大賛成です。あちこちで飛びはね、やみの中にすがたを見せながら、ふと、マルが不思議そうに顔をかたむけます。
「……そういえば、あの女の人、一度もみんなに気づかなかったけど、どうしてかなぁ?」
「あぁ、多分だけど、霊感がなかったんだよ」
バケバケがからだをうねらせながら答えました。
「レイカンって……なぁに?」
「霊感っていうのは、ぼくたちおばけを見るための力だよ。人間には、この霊感がある人と、ない人があるんだ。ある人だったらぼくたちが見えるけど、あの人はなかったんじゃないかな。だからぼくたちがかくれんぼしてても、見つかることがなかったんだよ」
バケバケの説明に、マルは「ふうん」とうなずきました。
「……ッ……、ハァッ、ハァッ、ハァ……。ふー、怖かったぁ……」
ようやく明かりのある大通りに出ると、美紀は大きく息をはきました。
「なによあれ、ゆらゆらいろんなものがゆらめいて、手や足や髪、それにあの目……。最後には変な丸顔まで現れて、どうなってるのよ? 見えないふりしてたけど、もし見えてるって知られたら……」
まだドキドキが鳴りやまない胸を押さえて、美紀はもう一度ため息をつくのでした。
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