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ベランダに一人座する  作者: 桜木恵
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出会い2

 お互いにお腹を満たし一息つくと、私は横にいたモモを見た。


 身長は私の膝程までしかない。

 とても小さくて、一見すると幼児に見える。

 いや、幼児にしか見えない。


 けれど、話し方は私と変わらないほど大人びていて、一人で歩くことだって出来る。

 現に今も、室内を物色するように歩き回っている。


「モモってさ、今何歳なの?」


 閉めた窓から外を眺めていたモモは、振り返って首を傾げた。


「さぁ……。自分の年齢分からないのよね。でも、そんなに年取ってないと思う」


 年齢が分からないなんてことあるのだろうか。

 そう思ったところで、この子は幽霊かもしれないという考えに至った。


 仮に幽霊だと考えれば、親のいる気配がしないのも、年齢が分からないのも説明がつく………気がする。


 それに、おかっぱ頭に赤い着物。

 俗に言う座敷童子にそっくりだ。


 ということは、私に幸運でももたらしてくれるのだろうか。

 だったら、むしろこのまま居てもらう方がいい気がした。


「私、幸せになれるかな?」

「知らないわ、そんなこと。私、未来予知能力ないもの。……神様だけど」

「…………?」


 この子今、自分のこと神様って言った?

 この子が?


「ちょっと! なんか失礼なこと考えてるでしょ?」

「いや、神様って……。冗談やめてよ」


 神様が、こんな一人暮らしの部屋に来るわけがない。

 ましてや私のところになんて。


 そもそも、神様って天にいるものでしょう? 

 地上に下りてくるなんて、そんなこと考えられない。


 モモは再び私の隣に正座すると、まっすぐ私を見つめた。


 大きな目にツヤツヤの肌。

 整えられた眉は羨ましく、長いまつ毛は瞳をより一層大きくしている。

 唇の血色は口紅をしているように鮮やかで、よく見るほどに子どもには見えなくなっていく。


「本当に、神様なの?」

「そうよ。さっきから言ってるじゃない。私は本物の神様」


 本物の神様は、自分のことを「神様」と言うのだろうか。

 そうあろうという思いが強いがために、嘘を言っているのではないだろうか。

 言葉には魂が乗ると言われているし、この考えはあながち間違っていない気がした。


 けれど、こんなことを言ってしまえば、目の前の女の子は傷つくかもしれない。

 私はその虚言と思われる発言に、素直に乗ることにした。


「で、どうして神様が私のところに?」


 私がそう言うと、モモは「よくぞ聞いてくれました!」とでも言わんばかりに、得意げにふふんと鼻を鳴らした。


「私は、葦原中国(あしはらのなかつくに)に研修に来たのよ」

「あし………何?」


 聞きなれない言葉に、私の脳内は「?」でいっぱいだった。


「葦原中国! ようはヒマリが暮らしている世界のことね」

「あぁ、なるほど」


 私が暮らしている世界。

 日本? 

 地球? を総称してそう言うのだろう。


 それにしても、わざわざそんな難しい言葉を使うなんて、幽霊と言うのは些か理解し難い。


「神様が研修なんて、珍しいこともあるんだね」

「珍しいことではないわ。みんなが見えていないだけで、結構下りてきている神様っているのよ」


 それは初知り情報だ。

 神様はいつだって神社やお寺、天に居るものだと思っていた。

 人と一緒に住むなんて、それこそ霊体以外考えられない。


 私が信じられていないということを察したのか、モモは懐から緑の表紙で閉じられた小さな本を取り出した。


 それは書店で見るような本とは違い、右側が黒い紐で纏められている。


 しかし中は真っ白で、本と呼ぶには少し違和感だ。

 どちらかと言うと、ノートのように思う。


 モモは本をパラパラと捲り、真ん中辺りで手を止めた。

 そこには、小さな文字で「人は段ボールに囲まれて生活している」と書かれていた。

 心外だなぁ。


「モモって本持ってるのね」

「これは神書(しんしょ)。書と言っても、まだ真っ白なんだけどね。研修中の神様はみんな持ってるわ」


 地上に研修に来ているたくさんの神様。

 一体何を学びに来ているのだろう。


「研修って、神様は何をしに来てるの?」


 神書を再び懐にしまったモモは、私の問いにそっと顔をあげた。


「私たちは、人の子のことを知るために下りてきているの」

「人の子を知るため?」

「そう。人というものを知らなければ、私たちは正しく願いを叶えることが出来ないの。だから、生まれて間もない神様は、一定期間葦原中国に研修に出されるのよ」




 人の願いを叶えるために、神様は地上に降りてくる。




 私は今まで、神様はずっと天に居て、上から私たちを見守っているのだと思っていた。

 こうして目の前に神様がいるという事実は、正直信じ難い。


 それにしてもよくできた話だ。

 どれだけの時間、この設定を考えていたのだろう。

 緻密に練られた設定は、突いて壊れるほど脆くはない。

 完璧なストーリーだ。


「信じてないでしょう?」

「そりゃぁ……。だって、モモって座敷童子じゃ……」

「私は子どもじゃないわ!」


 すくっと立ち上がったモモは、ぷくっと頬を膨らました。

 怒っているのだろうけれど、その容姿も相まって全く怖くない。


「大人はほっぺを膨らましたりしないよ」

「あら、そうなの?」


 モモはそう言うと、静かに座って神書にさらさらと書き出した。

 そして、書き終えた神書をしまうと、彼女は再び立ち上がった。


「私は正真正銘神様よ。これからお世話になるんだし、その証拠を見せてあげるわ」


 モモはそう言うと、私にも立つように指示した。

 私は大人しく立ち上がり、モモが玄関から持ってきた私の靴を静かに受け取った。


「どっか行くの?」

「帰るのよ」

「帰る?」


 モモは、窓の反対側にあったクローゼットをゆっくりと開けた。

 まだ何も入っていないはずのクローゼットは、奥の壁が一面真っ白に光っていた。


「なにこれ!」

「行くわよ」


 私を置いて光の中に消えたモモを、私は戸惑いながら追いかけた。




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