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ベランダに一人座する  作者: 桜木恵
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コンプレックス

 藤田(とうだ)ヒマリ。

 十九歳。

 現在休学中。

 日々なんとなくで生きている女。


 私なんてこれだけの情報で十分だ。

 何も語ることはないし、語れるだけの何かを持っているわけでもない。


 目的があって生きているわけではなく、この世に生を受けたからそれに従っているだけ。

 人生に意味を見出すだけ無駄ってものだ。



 親の反対を押し切って家を出て、現在1Kに一人暮らし。

 八畳のロフト付きの部屋にキッチン、トイレとお風呂は別で、私一人が生活するには十分だった。


 住んでいるマンションは六階建てで、私は四階に住んでいる。

 周りに障害物はなく、大変見晴らしのいい部屋だった。



 私の母は専業主婦で、大学在学時に父と出会い、卒業と同時に結婚。

 二年後に姉を出産し、現在三児の母だ。


 バイト経験無し。

 就職経験無し。

 ただひたすらに家庭をを守り続けてきた。

 家の中に閉じ込められていたとも言える。


 「何かしたいことないの?」と聞いたとき、「そろそろリフォームしたいわねぇ。少し飽きてきたわ」と、能天気とも取れる言葉を貰った。

どこまでも家に囚われている。



 父はアメリカ生まれ、アメリカ育ち。

 日本の文化を学ぶために留学したのち、母と出会い結婚。

 その後、アメリカに戻ることなく日本に移住した。


 私が言うのもなんだが、容姿端麗で金髪長身。

 若い頃はモテたんだろうな、と感じる。


 現在は、有名な企業で営業マンとして働いている。

 五十歳を超えているにも関わらず、部長でも課長でもない。

 毎日自分の足で日本中を走り回っている。


 同僚が昇進した、と言うのが口癖で、そのくせ昇進する素振りは微塵も見せない。

 意外と今の地位に満足しているみたいだ。



 四歳年上の姉はモデルで、雑誌で表紙を飾るほど人気……らしい。

 そんなに興味がないので詳しいことは知らなし、雑誌を買ったこともない。

 先日「パリコレ決まった!」と連絡が来たが、大してテンションは上がらなかった。



 一歳年上の兄は大学三年生で、同時に俳優だ。


 高校一年生のときにスカウトされ、月九ドラマでデビュー。

 現在朝の連ドラに主演で出演していて、学業を疎かにしていると母に叱られていたのを聞いた。

 それを父が宥め、兄にエールを送るのが通例だ。


 兄は、なぜ大学に進学したのか不思議になるぐらい俳優業に没頭していて、早く辞めればいいのにと思う。

 学費だけ払って通わないのであれば、金を無駄使いしているに過ぎない。


 それで言ったら私もなんだけど……。




 普通とは少しだけかけ離れた家庭。


 凡人とは言い難い父と母から、こんなにも有名な子どもが生まれたのは必然だ。


 けれど、どうやら私は例外らしかった。


 一体どの遺伝子が変わってしまったのだろうか。

 なぜ私はこれほどまでに普通なのだろうか。

 周囲とかけ離れたものが、どうして私にはないのだろう。


 ……いや、私にもあるのだ。

 見た目で分かる、人と違うところが。



 私はそれが大嫌い。

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