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第32話「号泣と殴打」

【大門寺トオルの告白⑭】


「ジョルジェットさんは、創世神様に仕える聖女様ですよね。お仕事は大変でしょう?」


「ええ……とてもね……聖女って、大変な仕事なんです……」


 俺の(いたわ)りを聞き……

 少しは元気が出ると思いきや、何と!

 逆に一気にトーンダウン!

 急に元気がなくなったジョルジェットさん。

 

 ああ!

 何なんだ!?

 こんなのあり?

 

 でも!

 こ、これは……この状況は非常にまずい!


 と、なれば!

 ここは『聞き役』に徹する。

 それが長年愛の伝道師として活動した俺の経験則。

 

 なので俺はいつもの通り、聞き役を申し出る。

 とても、小さな声で。

 

 後から考えると、これが更にまずかったのかもしれない。

 俺がまるで、ジョルジエットさんと内緒話をしているように聞こえたのかも……


「ジョルジェットさん、仕事のストレスが溜まっているのであれば、遠慮なく愚痴って下さい」


「え?」


「他の騎士達には……絶対に他言しないよう、俺から堅く口止めしておきます。だから構わないですよ」


「……優しいのですね、クリス様」


「ははっ、愚痴聞き役なら、任せて下さい」


 たま~に、さえないおっさんがもてたりするケースがある。

 そのような人は、『聞き役』に徹する事が出来る人じゃないかと俺は見ている。

 

 更に上手な人は、その場の空気に合った、最高の台詞(セリフ)が吐ける人であろう。

 そんな『ジゴロ』には、深く悩んでいる女性なんて……イチコロだ。


 しかしここで俺は、必要以上に囁いたりしない。

 何せ相手はアランの『彼女』なのである。

 もっぱら聞き役に徹し、専守防衛作戦だ。


 ジョルジェットさんは、ホッとした表情をしている。


「だったらお言葉に甘えようかしら。……最初からお話しして構わないですか?」


「どうぞ、どうぞ」


 話が長くなりそうだが、俺は相槌を打った。

 それに聖女様の『裏事情』を知るのは大いにメリットがある。

 これから同じ聖女のリンちゃんと付き合う上でとっても大切だ。


 それにしても、ジョルジェットさんの目は真剣だ。

 結構、悩みは深いらしい。


「私が創世神教会に入ったのは、崇高(すうこう)(こころざし)があったからです」


「そうでしょうね」


「聖女となり、ひとりでも多く命を救いたい! 怪我(けが)(やまい)に苦しむ人を癒したい。その一念でした」


「分かりますよ、素晴らしい志ですね」


「ありがとうございます。日々の病気の治療は確かに大変ですが、戦場よりはまだましです」


「戦場? もしかして?」


「はい! 騎士であるクリス様は当然ご存じでしょうが、今は殆ど他国との戦争がありません。代わりに果てしない魔物との戦いが続きますよね」


 既に述べた通り、戦争無き今の時代、騎士の仕事は殆どが人外たる魔物との戦いである。

 ゴブリンやオークなどは勿論、許されざる不死者(アンデッド)との戦いは寒気が止まらないくらい怖ろしい。

 

 不死者(アンデッド)のまき散らす凄まじい腐臭、

 そして腐りかけた外見が、もしも目の前に晒されたら……

 戦慣(いくさな)れしている俺だって、

 「おわぁ! 勘弁してくれ!」と、大声で叫びそうになる。


 そんな奴らと戦う、王国の騎士や従士など、王国軍が出兵する場合……

 さっきも言ったが……

 回復役は、創世神教会の聖女様達が受け持つ。

 

 それに異世界の看護師、創世神の聖女様=治癒士の方々は、

 怪我の手当てにとどまらず、動けない兵隊の『下の世話』までするらしい。

 

 とっても大変だと思った。

 看護師同様、お金じゃない。

 この仕事が好きでなくては、絶対に出来ないと思った。

 本当に頭が下がる。

 

 もしかして……

 リンちゃんが聖女様に転生したのも、その縁?


「お疲れ様です!」


 俺は、思わず声に出して言う。

 心からの賛辞である。


 ジョルジェットさんは、俺の言葉を聞いて力なく笑う。


「はぁ……傷の惨さを見るのと、伴う治療、そして様々なお世話など、聖女として仕事は何とかこなしていますが……」


 大きく溜息を吐いたジョルジェットさんは、途中まで話して……口ごもる。


「瀕死となった方の……命を助けられなかった時の(むな)しさ……そして、亡くなられた方のご家族や身内の方から、お前みたいな能無しは、聖女をやめろ! っという罵倒。そんな時は……どこか知らない世界へ行ってしまいたくなります」


 え?

 罵倒?

 それって酷いな。

 

 聖女様だって一生懸命やっているのに。

 彼女達は、素晴らしい癒しの力を持つけれど、けして万能ではない。

 

 愛する家族が亡くなって、辛い気持ちは、確かに分かるけど……

 いくらなんでも、全てを聖女様のせいにして、罵倒するなんて酷い。

 

 ジョルジェットさんは結構、煮詰まっている?

 でもアランの脇で、俺が必要以上に慰めちゃ、まずいかもしれない。


 その時、視線を感じた。

 リンちゃんが、潤んだ瞳で俺を見つめている。


 そうだ、こんな事を考えている場合ではない。

 落ち込んだジョルジェットさんを、俺がしっかり力付けないと!


「元気を出して下さい。ジョルジェットさんは、一生懸命、頑張っているじゃあないですか!」


「…………」


 俺の励ましを聞いても、ジョルジェットさんは無言だ。

 

 そうか、まだまだ励ましが足りない!

 もっと、もっと!

 熱く力付けないと、駄目だ! 


「人間は創世神様ではありません! 全てが常に上手く行くなんてありえません!」


「え?」


 俺の物言いを聞き、驚く、ジョルジェットさん。

 

 よし!

 気持ちをこめた俺の言葉が、少しは彼女の心へ届いたみたいだ。

 どんどん、行こう。


「治癒を担う聖女様は素晴らしい仕事だし、ジョルジェットさんは、常にベストを尽くしています!」


「は、はい! 私なりに精一杯やっています」


「ならば! 胸を張って良いのです。酷い事を言った人も、後できっと分かってくれますよ」


「クリス様! あ、ありがとうございますっ!」


「はい! 前向きに行きましょう! もし聖女様が居なければ、生死を彷徨う大怪我をされた方は、絶対に助かりません」


 おお、ジョルジェットさん、少し元気が出たみたい!

 と、思ったら!


「あ、ありがとうございます。私……私……うわあああああん!!!」


 ああっ!

 号泣って!

 まじで!?


 その瞬間!


 がっつん!


「がは!」


 顔に激痛が走り、俺は壁まで吹っ飛ぶ。


 ジョルジェットさんを力付ける俺を、本気で殴ったのは……

 鬼のような形相で、激怒したアランであったのだ。

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