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第24話「食事会は清らかな聖女達と③」

【大門寺トオルの告白⑫】


 「緊急事態だ!」と、

 困り切った俺が発した救援要請を何とか受けてくれたアランであったが……

 俺に対して従順な、いつもの奴の態度とは全く違う。

 これまた嫌な予感がしたが、心配していても事態は好転しない。


 当事者フレデリクさんも入れ、相談しなければならないが、

 さすがにリンちゃん達、聖女様の前で作戦会議を行うわけにはいかない。


「俺達、ちょっと、トイレ行って来ま~す」


 席を外す為、俺はまたも、おどけて宣言する。

 ああ、俺は硬派キャラから完全におとぼけキャラに変貌だ。

 

 それにしても、3人一度にトイレへ立つなんて……

 あまりにも不自然過ぎる。

 だが、幸い女性陣は深く追求せず、笑顔で見送ってくれた。

 

 俺から離席を切り出したのは、フレデリクさんもアランも

 そのような事が言えるキャラではないからだ。


 『オトボケキャラ』といえば……

 こんな時、一番年下の後輩のカミーユがフォローしてくれれば、

 全くいう事はないのだが……

 

 奴は最近合コンにおいて、

 マイペースまっしぐらの、『困ったちゃんキャラ』に変貌する。

 

 そう!

 今夜もだ!

 あれだけ、(さと)したのに……

 俺との『約束』など、カミーユはすっかり忘れている。


 先輩3人の様子など全く気にしてはおらず、フォローなど一切しない、

 自分の幸福のみを追い求める、『罪深い男』になっていたのだ。

 これでは、どちらが先輩なのか、分かったものじゃない。


 だが、神様は居る。

 カミーユは聖女様の中では、血統書付きのお嬢様、枢機卿の孫娘、

 最年少のミリアン殿(推定20歳)に目を付け、

 先ほどから必死に口説いている。

 

 だが、対面に座る彼女から、

 「カミーユなど全く好みじゃない!」という反発オーラがばりばり出ている。

 まともに相手にして貰えず、適当にあしらわれているようだ。


 それを見て、ちょっとだけ溜飲(りゅういん)が下がった。


 そんなこんなで……カミーユを残し、俺達3人はトイレに向かう。

 でも頑ななフレデリクさんの『教育』などに、時間をかけてはいられない。

 俺がそっと見ていると、相変わらずアランの機嫌がすこぶる悪いから。


 勝負事には、流れと決め時のタイミングがある。

 それを無理矢理中断させた俺とフレデリクさんは……

 アランからしてみれば、とんでもない『妨害者』だということになる。

 『赤い流星』の怒りは尤もなのだ。


 しかし、フレデリクさんは相変わらず、『空気読み人知らず』……である。


「おい、クリス。一体何だ? 急に中座して。女性達に悪いではないか」


 あ、あの……フレデリクさん、一体、何を仰っているのでしょうか?

 場がしらけた、原因を作っているのは……貴方! ……なのですよ。


 アランも、俺と同じ思いらしい……

 こんなフレデリクさんの『寝惚け言葉』を聞いて、

 怒りがMAXに達しようとしていた。

 「寝言は寝てから言え!」 と、憤怒の顔に書いてある。


 もう怒りの限界という感じで、アランの頬が、ぷるぷると震え出した。

 正直言って怖い!


 そして、凄い怒りのあまり、能面のように無表情になってしまったアラン。

 抑揚のない口調で言う。


「隊長……」


「おお、何だ?」


「改めて、お聞きしましょうか。今夜のセッティングをしたのは、一体、誰でしょう?」


 アランの口調だけは冷静だ。

 しかしその口からは、

 今にも竜の息(ドラゴンブレス)が吐き出されそうな恐ろしい雰囲気が漂っている。


 しかし、フレデリクさんは、全く分かっていない。

 アランの怒りと、その原因を……


「そりゃ、お前さ、アラン」


「結構! では、ここまでの経過は、認識していますよね?」


 ここで、フレデリクさんが、ふいっと目をそらし、「ぽつり」と言う。


「ああ、お前がさ、男の数が足りないから、ぜひ、来てくれと頼んで……」


 その瞬間。

 とうとう、アランの様子が一変した。

 

 普段、明るく朗らかな青年は、

 『女性』という餌をお預けになった『飢える狼』へと変身したのだ。


「おい! 違う! 断じて違うだろぉ!」


 え? 

 おい?

 敬語じゃなく、ため口?


 それもだろって!?

 寸止め、手加減なし、

 本気度100%の暴言が、さく裂だ!

 

 ああ、一旦怒ったら、上司にも容赦がないんだ、こいつは。

 今更ながら、アランの本性が分かって来たぞ。


 しかしフレデリクさんも、部下からこのような口の利き方をされ、当然怒るかと思いきや違った。

 今回の件では、アランに対し、弱みがあるのだろう。

 意外にも、ひたすら低姿勢なのである。


「わ、分かった、アラン! じょ、冗談だよ」


「…………」


「俺がぜひ、連れて行って欲しいと、お前に頼んだのだ」


「だったら、隊長! 約束してください、副長の指示に、言う事には絶対に従うと!」


 そう言うと、アランは俺を指差した。


「僕は副長へ、隊長のサポートを頼みました。不器用な僕よりも、ずっと適任だと思ったからです」


 はい~?

 不器用な……僕?

 んな、馬鹿な!!!


 俺は思わず、アランの顔を、まじまじと見つめてしまった。


 だって!

 彼は、ルナール王国王都騎士隊勤務の隊士、アラン・ベルクール様だよ。

 愛用の赤い革鎧が似合う伊達男で、

 『赤い流星』というふたつ名を持つ、超有名人だよ。

 常人の10倍の速度(スピード)で、女の子を落とせる恋の達人なんだよ!!!


 その彼が不器用???


 しかしアランは、俺の無遠慮な視線など完全スルー。

 平然と、話を進めている。


「最近知りましたが、実は副長って、こういう宴会の達人です」


「え? クリスがか?」


「はい! 僕なんかより女子との会話に慣れていて気配りが出来る方です。羨ましい限りなんです」


 あはは!

 嘘くさい!

 『でまかせ』にもほどがある。


 俺は思わず苦笑いしそうになった。

 だが、頑張って表情が出ないよう、何とか押し止めた。

 

 このような時に平気で笑うほど、俺は『空気読み人知らず』ではない。


 アランは怒った後に、困惑顔となる。

 上司のフレデリクさんに対し、懇願していると言っても過言ではない。


「隊長、良いですか? 今夜の僕は自分の事で精一杯なんです。素直に副長のサポートを受け、頑張って下さい」


「で、でもさ、クリスったら、とんでもないぜ」


「とんでもない? どこがですか?」


「女性の飲みかけのエールを飲むとか言うし、俺にも飲めって、強引に勧めるんだ」


 ダンっ!

 みししっ……


 凄い音がしたのは……

 アランが思い切り、トイレの壁を叩いた音だ。

 あまりの威力に、壁には無数の亀裂が走る。

 

 当然、フレデリクさんはビックリした。


「わっ!? ア、アラン、ななな、何だよ?」


 アランの顔は、またもや一切の感情を表さない、能面のようになっている。

 こ、怖い!!!


「隊長、騎士の精神を言ってみて下さい」


「何だよ! 上司に向かって偉そうに!」


「良いから!」


「分かったよ! 忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、そして奉仕という精神だろう?」


「正解! 加えて年配者、女性、子供に対して親切であれ! これも常識ですよね。では困った女性がそんなに飲めないよ~、というエールを代わりに飲んでさしあげる行為のどこがいけないのですか! 残ったエールを無駄に捨てろ! というのですか? 勿体無い!」


 ああ、凄い!

 怒ってはいても、アランの話は理路整然としている。

 その上、立て板に水。

 これは、俺もぜひ見習いたい。


 案の定、フレデリクさんは、虚を衝かれたようになる。


「う!?」


「これは騎士の誓いのうち、奉仕の精神そのものです。副長はこの場で、しっかりその精神を発揮したのですよ。実に見事じゃあないですか」


 やっぱりアランは口が立つ。

 フレデリクさんは、ずっと押されっ放しだ。


「ぐうう……」


 話し始めてもう5分が経った。

 アランは、そろそろ頃合だと見たようである。


「この事ひとつ取っても、副長の判断は的確です。今夜の隊長をきっと幸せにしてくれます。さあ、僕の話は終わりです、今夜は副長の指示に一切従う! 分かりましたね?」


 有無を言わさない、アランの一気呵成な『指導』に対し、

 フレデリクさんは仕方なく頷くしかなかったのである。

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