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第18話「奇跡の再会③」

【大門寺トオルの告白⑦】


 何と!

 フルールさんは、泣いている。

 それも号泣(ごうきゅう)している。

 

 非常にまずい、マジでまずい。

 ここまで女子を大泣きさせるって。

 あまりにも目立つ。

 俺が極悪非道な男だと、とられてしまう。

 それ以上に泣いている女子を見るって、

 あまりにも男にとってはダメージが大きい。


 そして泣かせた理由も大が付く問題だ。

 

 フルールさんは絶対に怒っている!

 そうに決まってる。

 事もあろうに、彼女の前で他の女子を引き合いに出したのだから。

 

 ああ、俺の超大馬鹿!

 これでフルールさんに、完璧に嫌われた!

 

 折角、彼女の身内であるバジル部長に熱心にフォローをして貰い、

 結構良い印象を持って貰ったのに……


 もう!

 おしまいだっ!

 

 と、絶望感に染まった俺が頭を抱えたら……

 突如、フルールさんが尋ねて来る。


「クリスさん、変な事を! お、お、お聞きしても……宜しいですかっ!」


 変な事?

 一体、何だろう?

 でも、もういいや。

 開き直ってやれ。

 何でも聞け!

 い、いや……そんなに偉そうなのはまずい。

 どうぞ聞いてくださいませ。


「は、はい……お、俺の事だったら、な、な、何でも聞いてください」


「な、何でもって! クリスさん! ほ、本当ですかっ!」


「はい、本当です……お答え出来る内容ならば」


 あれ?

 変だ?

 おかしい?


 フルールさんの声が……

 怒っていない……ぞ?


 な、何故、怒っていない?


 それよりフルールさん、何か、慌てている。

 盛大に噛んで、声が完全に上ずっている。


 泣き腫らし、真っ赤な目をしたフルールさんは、

 顔を「くしゃくしゃ」にして真っすぐに俺を見る。

 とても真摯な眼差しで、俺を見ているんだ。

 

 そして、尋ねて来る。

 彼女が尋ねる内容が……不可解だ。


「あ、貴方の名前を教えて下さい」


 え?

 どうして名前?

 今更?


「ええっと、クリストフ・レーヌですけど……」


「い、いえ!」


「???」


「ほ、本当は! ち、違う、な、名前なのではないですか?」


 盛大に噛みながら、絞り出す、フルールさんの声……


 な?

 でも?

 

 ええっ?

 本当は違う名前って、何それ?


 俺もフルールさん同様に慌てる。

 何故か、奇妙な感覚に捉われる。

 既視感(デジャヴ)に近いかもしれない。


「……ち、違うって、ど、ど、ど、どういう意味ですか!?」


 盛大に噛んだ俺へ、更に衝撃的な質問が!


「ほ、本当の名前って……意味です」


「は? ほ、本当の名前!?」


「もしも……間違っていたら……」


「ま、間違っていたらぁ?」


 ああ、何だ!

 とんでもない、

 あまりにもとんでもない言葉が告げられる!

 そんな気がする!


 大いなる期待と底知れぬ不安が俺の中で交錯する。


「ごめんなさい……トオルさん」


 あああ、き、来たのは!

 お、大いなる期待の方だ!

 これって!

 き、奇跡が、奇跡が起きたんだぁ!!!

 

「え、ええええっ!? ト、トオルさんって!!! ま、ま、ま、まさかぁ!!!」


 俺がいきなり大きな声をあげたので、周囲で何人もが振り返った。

 「何事か?」と面白半分で、見ている奴も居る。

 

 しかし、フルールさんは動じていない。

 俺も、そんなのを気にする余裕がない。


「やはり! あ、あ、あ、貴方は大門寺トオルさん……でしょう?」


「そ、そ、そういう貴女は、あ、相坂……さん、もしかして、リンちゃん?」


 俺が呼んだあの子の名前に、フルールさんは大きく頷いた。

 はっきり肯定して、力強く頷いた。


 ああ、絶対にありえない!

 そんな奇跡が、まさに起こったのだ!

 

 数百万と人の居る大都会の交差点で……

 前触れもなく、いきなり、ばったりと会うように……

 

 未知の異世界に心が転移し、ぶっつり切れた筈の俺とリンちゃんの運命が……

 今、再び交わったのである。


「トオルさんっ!」


「リンちゃん!」


 俺達は互いに駆け寄って、手をがっちりと握り合った。

 ああ、綺麗で細い指だ、そして温かい。

 この完食、じゃない感触は間違いない!

 昨日、握ったばかりのリンちゃんの手だ!


 俺を見つめる、リンちゃんの声が震えている。


「これって……奇跡?」


 そう言われて、俺は思わず自分の頬をつねっていた。

 ……い、痛い!


「本当だよ、今確かめたから絶対に現実だ」


「本当!? よ、良かったぁ!」 


「でも君の言う通り、凄い奇跡だよ。頼む! 夢ならば、絶対に覚めないでくれ」


 思わず吐いたのは……

 たった今、起こっている事が、幻ではない事を再び確かめる言葉。

 そして、心の底からの本音。


 フルールさん、否!

 リンちゃんは、大きく深呼吸をしている。

 少しずつ落ち着いて来たみたいだ。


 そうだ!

 俺も慌てるだけじゃなくて、しっかり落ち着かないと。

 まずは、お互いの状況を確認して、これからの事を考えなければ。


 リンちゃんが、俺にまた聞いて来る。


「トオルさん……さっきの話って」


「ああ、俺は、気が付いたら、この異世界に居たんだ……王都騎士隊副長クリストフ・レーヌとして」


「やっぱり! 私もなのよ、気が付いたら聖女フルール・ボードレールだったの」


 フルールさんは頷き、更に言葉を続ける。


「……ねえ、トオルさん、ここは人目もあるし、落ち着かないわ。場所を変えて、どこかでお話ししませんか?」


 気になる。

 だって!

 フルールさん、否、リンちゃんはこんなに可愛いんだもの。

 

 まさか!

 彼氏がもう居る?

 

 そんなの、絶対に嫌だ!

 もし彼氏が居たら俺は……


 いや、まずはリンちゃんへ詳しい状況を聞かなければ!

 

 俺はそう考えたが、どうやら彼女も同じように思ったらしい。

 

「じゃ、じゃあ、場所を変えましょうか?」


「はい! 変えましょう、トオルさん」


「こ、この階の上、8階はショッピングモールになっています。そこにカフェがあったはずです」


「うふふ、了解……じゃあこの前みたいに、連れて行ってくださる?」


「りょ、了解!」


 もしかしたら、このようなケースがあるかと思って、

 俺は、この迷宮レジャーランド内の店を下調べしていた。

 

 こうして……

 俺はフルールさんこと、相坂リンちゃんの手を引っ張り、

 起きた奇跡を実感しつつ、夢見心地で魔導昇降機へ乗り込んだのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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