5 人生の左手
僕がうずくまっていた時に、その人は言った。
「君は、人生の左手だ。左手は、右手ほど器用ではないけど、きちんと練習すれば、右手と同じように使うことができる。君のお母さんのように」
僕には、その意味が全然わからなかった。
そりゃあ、オレの母親が、左手を使うことは知っている。
左手は、右手ほど器用じゃないけど、右手にはできないことができる、と言っていた。
知らないよ、そんなこと。
オレは、気が付くと入院していた。
シンナーのせいかもしれないけど、脳に行く酸素が一時的に薄くなって、倒れてしまったものらしい。
皆に「ありがとう」「ありがとう」と言いながら、カッコよく、この世を退場したつもりだったが、救急車で、病院に搬送されただけで、息を吹き返した…
気がつくと、ベッドの上だ。
カッコ悪いこと、この上ないわ。
まだ、脚にはマヒが残っているので、優雅な車椅子生活だ。
オレは、顔はニコニコさせながら、その実、心の中では、ぐれていた。
母親が見舞いにも来ないのが、その原因の一つかもしれない。
オレが入院して、家を出て行って、嬉しいって?!
そんなに嬉しいか、顔も見せないほど…
「このままリハビリもせずにいると、一生車椅子生活になるよ」と医者が言った。
単なる脅しだとオレは思った。脅せば、リハビリみたいなカッコ悪いことを、オレが慌ててやるだろうと思っているんだな。アハハハハ。
オレは、車椅子が気に入ってるんだよ、楽だし。みんな、親切になるし。気を使ってくれるし…




