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線路

作者: 丙 司

線路の前に立つ。朝の清浄な空気の中、沢山の人々が横に並んでいる。これまで何千回も繰り返しこれからも続けるだろう風景だ。ルーチンワークに熱意を持たないのは仕事も日常も変わらない。脳は半分、寝ている様だ。

足元には黄色い線が引かれている。凹凸は視覚障害者の為の物らしい。線路を速度を落としながら列車が滑り込んでくる。待っていたものだが嬉しくはない。勿体ぶる様に視界に入り込んで来た。

次の瞬間、体が前に流れた。誰かに押されたのか。

具合が悪くなったのかは自分でも分からなかった。

踏み出した足が宙を掻く。甲高い悲鳴を上げて列車が体の上を通り過ぎて行った。

体を震わせながら気を取り直した。左右には眠そうな顔をした人々が並んでいる。咳払いをしながら姿勢を正した。こんなところで居眠りなど。線路に落ちたら洒落にならない。下腹に力を込めて背筋を伸ばす。

列車が入ってきた。足元から振動が伝わる。

気を張っていたはずだった。体が前に流れた。

まるで重力の方向が変わったかの様に線路に向けて落ちて行った。

目を覚ました。線路の前に立っている。隣にはサラリーマンと二人組の女子高生が立っている。我ながら親父くさいと思うが他の呼び方を知らなかった。

流石にこの場所に立ち続けるのが縁起が悪く感じられた。後ろに下がろうと思う。どうせ早く乗った所で特典がある訳でもない。足を踏み出そうとする。だがまるで接着された様に動かなかった。体を後ろに倒す事さえ出来ない。なりふり構わず隣の人に助けを求める。声を掛けたのは隣のサラリーマンだった。

潜めて声を掛ける。しかし何の反応もない。名前も知らないのだから当然かもしれない。少し声を大きめに掛けるが反応が無い。おかしい。目ぐらいは向けても良いはずだ。怒鳴る様に声を掛けても反応は無かった。他の人達もまるでテレビの向こうの様に反応を示さない。線路に電車が入って来る。体が前に流れた。


朝の構内。人々が犇いている。制服姿の少女が語り合っている。箸が転んでもおかしい年頃。周りに漂う気怠い空気を吹き飛ばす様に話し続けていた。

「そう言えばさ知ってる?」「何」「この間さ此処で飛び降りがあったじゃん」「知ってる、でもあれってさ事故じゃ無かったっけ」「どっちでも良いじゃん。あれからさ出るんだって」「幽霊?」「そう、それそれ」「誰から聞いたの」「ごめん、今作った」

笑い合う少女達。列車が入って来る。その時、何処かで悲鳴が聞こえた様な気がして一人の少女が振り向いた。しかし何事も無く開いた扉へ足を踏み入れた。


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