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005 予想的中

 すっかり懐が寂しくなったが、これで準備は整った。

 ソウは森を目指して大通りを歩く。幸いなことにすぐに街を抜けられた。

 街を出るとマップが切り替わり、広いフィールドのみが映されているだけでその先は記されていなかった。


「これは自分で行って確かめろということか」


 ゲームによっては全体マップが表示されているのも珍しくはないが、こちらの方がソウにとっては好みである。

 ソウは水晶玉と獣骨の短剣を手にして森に入っていく。

 イベントの影響からか、プレイヤーもかなり見るようになったな。

 街ではNPCが多くてあまり気にしていなかったが、こうして戦闘可能フィールドに出てみると多くのプレイヤーがいることが分かる。

 ちょうど戦闘をしているPTがいたので参考がてら遠目に見学させてもらうことにした。

 片手剣を装備した剣士と魔法師の組み合わせだ。

 相手はウサギのようだな。

 名前は……ホーンラビット。角が生えたウサギとは安直な。

 プレイヤーネームは非表示のため不明。俺も表示消しておくとしよう。

 コンソールを出して手短に操作して名前を消すと、改めて二人の戦闘へ視線を戻した。

 剣士の少年はすばしっこく動くウサギを無暗に追わず、移動先を見据えて位置を調整しているようだ。僅かなスライド移動ののち、横スイングした剣の先にウサギが丁度突っ込んでいる。吸い込まれるように頭から剣先に飛んだウサギはやってくる直剣の刃に両断されてしまった。

 分かれたウサギはポリゴン化ののち消えてしまった。ドロップ品は自動でインベントリに送られるので拾う作業はない。

 魔法師の少女はどうだろうか。

 そちらに目を向けると魔法で石を飛ばしてじわじわとウサギのHPを削っていた。結局彼女はウサギを寄せ付けることなく、あっさりウサギを倒していた。大体、3ヒットほどでウサギのHPを削っていたのを確認。初心者フィールドということもあり、初期魔法で難なく削れる体力設定になっているのが分かる。

 戦闘はこんな感じなのか。

 戦闘を終えた二人がこちらに気付いたので、軽く会釈をした。

 あまり見ているのも悪いだろう。

 こちらが旅立ちセットということもあり、向こうも首肯を返してくれたのでソウはその場を去った。

 各々装備も旅立ちセットではなくそれらしいものを着ていたし、戦闘も手馴れていたので新規勢ではない。攻撃力の目安は当てにしない方がいいか。

 さて、俺も目的の獲物を探すとしようか。


「おっ、薬草発見」


 しばらく歩いていたソウだが、不意にしゃがみ込むと木の根元に生えていた草を根本から毟る。

 【観察眼】というスキルがある。これはモノを探すときに補正が付いて目当てのものを示してくれる頼もしいものだ。本来の使い方は敵の弱点などを探るのに有効なものな気がする。

 これは長いことメルダの話を付き合ったお礼ということで渡されたスキルである。

スキルの獲得は条件を満たすと自動で生えてくるか、魔法師ギルドで売っているスクロールでの付与など取得方法は様々だ。今回はイベント報酬という形で手に入れたスキルということだ。

 【鑑定】とは違い、設定されたレア度はわからない仕様となっている。

 このスキルのおかげで、難なく薬草を規定分集めることができた。

 

「さて、次は亀なわけだが……」

 

 かれこれ一時間ほどフィールドを回っているが、目的の亀というよりも湖が一向に発見出来ないでいた。これほどまでに苦労するなら、癪だが使ってみるか。

 ソウは【未来視】を発動。MPは10でやってみる。

 

「【未来視】発動。対象はモノシス周辺にある湖の場所」


 すると、身体が硬直し水晶がほのかに光った。


「あ、これスキル硬直があるのか!」


 戦闘中にやらなくてよかった。知らずにやっていたらモロに攻撃食らうところだった。

 そして、水晶の輝きが収まると脳内に何かが浮かんできた。

 それは映像だった。

 木々に囲まれてその中心には確かに湖が広がっている。向こうから人がやってきた。 ……俺だった。俺が水辺に近寄ると背後から何かに突き飛ばされて湖に落ちるという内容だ。

 何に当たったのかはわからない。湖に落ちたところで映像は途切れてしまった。


「どういうことだ?」


 いや、未来視というのだからこれが正解か。

 場所の判明は追跡とか別のスキルでありそうだし、後の事象を見せてくれるのが特徴であるためこれが正しい。

 スキルで得られた映像は10分間、インベントリに保管することが出来、経過すると自然消滅するようだ。

 ソウはもう一度映像を呼び出して再生した。

 周りは森……ん? 木の上の奥に建物が見える。ここからでも見えるということは結構な大きさだが、この建物見覚えがあるな。

 拡大して見てみると、きらきらと太陽の光を反射するガラスのようなものが建物の上部に嵌め込まれている。また、屋根上には十字のようなものも見て取れた。

 

「……教会。ちっ、逆方向じゃないか」


 反射しているのはステンドグラス、つまり教会の裏側である。

 完全に行く方向を間違えているな。いや、マップを埋めたという点ではプラスか。

 こうしてはいられないと、ソウは身体を反転させてきた道を戻っていく。

 途中で例の角の生えたウサギと遭遇。初めての戦闘となった。

戦闘に入ると、ウサギの上にHPバーとレベルが表示された。ホーンラビットのレベルは3だ。


「ちい、急ぎたいというのに」


 頭突きをするために突進してきたウサギを前転で回避すると、背中に向かって肉薄する。ウサギはこちらに振り向いて、シャーッと小さい牙を見せて威嚇をしてきた。と思ったら、額の角が飛んできた。


「それ、飛ばせるのか」


 ソウはとっさに向かってくる角の進行方向へ水晶玉を向けた。すると、飛んできた角は水晶玉によって弾かれ、あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。


「…………」


 その光景に、ソウは普段はあまりしない悪い笑みを浮かべた。


「想像通りでなにより」


 水晶玉はダメこそゴミだが、破壊不能オブジェクト。すなわち耐久値∞である。

 範囲こそ狭いが、対物理では絶対的な盾となるのではないか。そう考えていたソウの予想は見事的中した。


「よし、これで奴は怖くない」


 速さは向こうに分があるものの、飛び道具が使えない以上は接近して倒す必要がある。だからウサギは絶対に距離を詰めてくる。

 角が利かないことを悟ったウサギはやはり近づいてきた。

 ソウは何度か回避を織り交ぜながらウサギの突進を避けてはいい位置を探し、先ほどの剣士のように突っ込んでくるタイミングで水晶ガード。止まった横っ腹に短剣のカウンターを入れていく。刃渡りが短い分両断とはいかないが、それなりにダメが入っているのを確認。

 以降はそれの繰り返しで何度か短剣で切りつけたところでウサギのHPが無くなりポリゴン化した。切りつけ6回ということは180ダメ。防御値がどうなっているか分からないが目安にはなるか。

 気になったので短剣の耐久値を見ると97となっている。ウサギ2回切りつけるごとに1減っている計算だ。ここのウサギを今のように相手をするとしたら約200羽は狩れる。ウサギのドロップ品がどのような値段かによって収支が変わってくるが、多分プラスだろう


「よし、戦える」


 目の前にはwinの文字が浮かび、経験値の入る音とスキルレベルアップ・ドロップ品を入手したというアナウンスが聞こえた。

 思った以上にこの戦闘で疲弊してしまったため、ソウはステータスを確認することなく大急ぎで街に戻ると占いギルドへ移動した。大水晶に触れて薬草を納品し、クエストクリア。

 500マーニを受け取ると、その場でログアウトした。


「ふぅ…… なかなか濃いものだった」


 現実に戻ってきた蒼は満足げに頷くと、VR機器を頭から取り外してベッドから降りる。流しへ向かい、横の洗い物籠からコップを手にすると水を汲んで飲み干した。運動後に飲む水のように感じて、現実ではないというのになんだかおかしくなった。

 意外と集中力が必要な蒼の戦闘スタイルはリアルでも結構な労力として反映されてしまうようだ。

 初めてというのもあるだろう、続ける以上は早く慣れておきたいものだ。

 時計は0時を回っており、明日も2限から講義だ。明日の準備はもう済ませているため、蒼はベッドに戻ると深い眠りについた。


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