057 山道の戦闘
次の日の夜。講義を終えて大学から帰宅した蒼は、携帯のランプが光っていることに気付いた。
確認するとグループチャットが届いたようで、スルメイカからのメッセージだった。どうやら諸々終わらせてログインできるのが20時頃とのこと。
前のメッセージを見てみれば、康太郎がすでにログインしているようで少しすれば啓子と琢磨もやってくると書かれている。
今は19時近くで全員集合は1時間後となる。
「課題をするにしては微妙だしログインして時間を潰すとしようか」
折角合流したことだし、向こうで話すのも悪くないだろう。
明日の準備を整えてから蒼はWEOの世界へと潜った。
*
意識が一度途切れて、再度意識が戻ったのを感じ取りソウは目を開いた。まず映るのは無機質な緑色のテントだった。
直に床で寝ていたので身体を起こしながら凝りを取るように適度に動かしていく。現実ではないので身体が固まるようなことはないのだが、なんとなくだ。
「おう、来たのはソウか。早かったな」
声の方を見れば幕を持ち上げてタロウが中を覗いていた。
「急ぎ片付ける用事もなかったし、お前が居るのが分かっていたから潜ってきた」
「そっか」
タロウは笑みを浮かべると、親指で外を促した。ソウはまだ寝ている幼馴染達を踏まぬように外側を移動して、外套のフードを被るとテントを出た。
夜の為暗視補助が働いているが、それが無くとも十分に辺りを見渡せるほど明るい。空を見上げれば星が輝いていており、月がいつもより近くにあった。だから明るく見えるのだろう。
こちらは特にファンタジーな要素が無く、ただ綺麗な夜空が広がっている。ソウたちの住む場所は都会でないにしてもここまではっきりと夜空が見えることは稀なので、この景色が造りものであっても魅入られるものがある。
「綺麗なものだな」
「ああ。リアルじゃこうもはっきりと見えんし、たまには天体観測なんていいかもな」
タロウから思いもよらない意見が出たことで、ソウは怪訝な視線を向けた。
じっとしてられない性分のこの脳筋が天体観測なんぞ柄ではないだろうに。
「なんか言いたそうだな?」
「突然どうした? 頭でも打ったか」
「はん! 異常なんぞないわい」
似合わん事を言ったのは自覚しているようで、そっぽを向いてしまった。地味に顔を赤くして照れているようで、それが屈強な見た目に反して可愛く思えた。
そんなやり取りをしていると、テントの中から誰かが起きた音が聞こえてくる。
幕を持ち上げて顔を出したのはトーだった。
「やあ、さっきぶり」
「お、う」
どこかぎこちない返事のタロウと、ソウは右手を小さく上げて返事をした。
いつもと違う雰囲気にトーは首を傾げたが、それも一瞬のことで彼はテントから出て来ると会話へ混ざった。
「奇しくも男性陣が揃ったわけだけど、女性陣を待つ間にソウは何か僕らに聞いておきたいことはある? 久々のPT戦でフルダイブは初だからさ」
「そうだな……」
トーに言われて、ソウは過去のPT戦を思い出す。このメンツであれば司令官兼バフデバフを担うエンチャンターと今回はヒーラーをベルカが担当。前衛はアタッカーのタロウとスルメイカ。場合によってタロウはタンクに回るだろう。回避盾の俺、スモポンと役割が被っているので、どちらかがサポーターに回ると良さそうだ。で、後衛アタッカーがトー。少し前のめりな編成である気がするが、ランカー候補の塊であればそれほど苦労しないだろう。
編成のポジションを二人に確認したうえで、俺はどう動くべきか。
こちらが困っていると、トーが提案してきた。
「そうしたら、スモポンをサポーターに回すからソウが回避盾をすればいいと思うよ」
「そうだな。あいつは色々と小細工が出来るから、それがいい」
タロウも乗ってきた。何処か含みのある笑みなのはいつもの仕返しだろうか。どうせ後でバレて痛い目を見るのは明白なのだが、それは伝えぬが花というものだ。
「説得は任せた」
「了解」
トーが頷いたところで、テントから一気に人が出て来た。
「おや、珍しい。男性陣が揃っているわ」
「ほんとだー」
こちらを見て目を丸くしているスルメイカとスモポンだった。
予定より早い時間にログインできたようだ。
その二人に続くように長い髪を垂らして、テントからベルカも出て来た。
「あら、私が最後ですか。お待たせしました」
「私たちも今来たところよ」
「そうですか」
これで全員集合した。
トーとベルカで野営用のテントをインベントリに仕舞うと、編成の話へ戻った。ここでのソウの実力がどの程度なのか不透明であったが、いつも通り回避盾として採用されることとなった。
意外だったのはスモポンがサポーターに自ら志願したことだ。面倒なことを嫌う彼女であったが、我儘を通した手前なるべくこちらを手伝うと彼女自身が決めていたようだった。
回復アイテムに関しても各々準備万端であるが、彼ら言ではそこまで使わないとのこと。ソウはソロであることから回復アイテムに頼って生活している面があるので、そこは流石としか言いようがない。
「では、行きましょうか」
ベルカの号令によって、一行は山頂へ向かうためセーフティエリアを出発した。
道中は岩道で、木など緑が一切見えない殺風景な様子が続いている。山頂に近づくほど空気が薄くなっているのは現実に似通っている。また埃っぽいのも演出として凝っている。
所々にゴーレムが闊歩しており、基本的にこちらから仕掛けなくてはアクティブ状態にならない。だが、中には領域を犯したとして攻撃をしてくる個体もあるようで。
巨大な拳がタロウ目掛けて振り下ろされる。
それをタロウは大剣の腹で受け止める。ゴン! と、金属と岩のぶつかる音が響いた。
と、同時にタロウの背から腰を落としたスルメイカが颯爽とゴーレムに肉薄すると柄の長いハンマーを頭上で一回転させた後、横スイングでゴーレムの左足を叩き割った。
ボロボロと左足が崩れ落ち、バランスを失ったゴーレムは倒れて両手で地面をついた。移動できないゴーレムなどただの的である。それからはもう、フルボッコだった。ひたすらにハンマーと大剣によって砂へと解体されている様は、見ているだけで虚しくなって来る。
「なんというか、俺らいらなくないか?」
「そうだねー」
「むしろ攻撃する方が邪魔かな」
嬉々として突っ込んでいった前衛二人を見やり、やれやれと肩をすくめる。
少しして、目の前にwinの文字が浮かんだ。PT戦のため、何もしてなくても経験値が入るようだ。無論貢献度順に配分されているのでソウに入ったのは微々たるものだ。
武器を担いで、二人が戻ってくる。その顔は満足げで、清々しいほどの笑顔だった。
「動いた動いた」
「いやー、何かごめんね。おかげでいいストレス発散になったよ」
「では、先を行きましょうか」
それからもゴーレムを相手にすると前衛の二人が叩き潰し、チビテラが来たときはトーが先制したのち、スモポンとともにデバフアイテムをばら撒いて地上へと落としてから全員で蛸殴り。ロックリザードマンとの戦闘では槍に対して水晶玉が非常に有効で、全ての攻撃を水晶玉で捌いていたところ、皆から大爆笑された。ベルカだけは笑わずに居てくれたのが救いだろうか。
火力が他にあることで、ソウは攻撃を捌くことに集中できるのはPTの強みだ。
また、ひとりひとりの担当が少ない分武具の耐久値の減りも緩やかなのもいい。戦闘狂のタロウについては知らん。
なんだかんだ各個撃破が主になっていたのだが、連携という意味ではきちんと纏まっている。懐かしいものだ。数年前もこうしてPTを組んで戦っていた。だが、それはフルダイブではないのでPCから見たアバター達によるものだ。それがこうしてリアルに顔を突き合わせてやれているのだから面白い。
「ロックリザードの群れがいるよー。多分、リザードマンヤったからこっちくるんじゃない?」
スモポンが額に手を当てながら言った。
「ハズレか。仕方ねー付き合ってやっか」
ロックリザードマンはロックリザードのまとめ役という裏設定があるようで、個体によってはロックリザードを引き連れている場合があるようだ。また、数は様々だが、殲滅できない数を引き連れているということは無いようでそこは安心できる。
ロックリザードであればソウも楽に相手が出来るので、それほど負担はない。
「んじゃ、殲滅しましょー」
スモポンが近づいてくるロックリザードの群れへ毒袋を投げ入れた。
アクティブ状態となり、戦闘を知らせるアナウンスが響いた。
「さっさと仕留めてしまいましょうか」
「あいよ」
ざっとひとり3、4体といったところだろう。
タロウ、スルメイカ、スモポンの3人はロックリザードの群れへと突っ込んでいった。
ソウも鉄の直剣を握り、彼らの後を追うようにロックリザードへ近づくと、鉄の直剣を叩きつけて地道に数を減らしていった。
瞬く間に殲滅が完了し、一同は先を進むのだった。
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