056 軽めの傾向と対策
幼馴染達はテントに直に円を描いて座り、今後の方針を話し合っていた。
「サートリスへ向かうにあたって注意しておきたいのはとにかく敵が硬くなることだ」
デカくて邪魔とひとり立たされた“MAX”タロウが腕を組みながら言った。
「これまで以上に防御力が上がるのか」
「そうだね。ソウはここまで来るのにどのモンスターと出会った?」
トーが含みのある笑みで問いかけてきた。
今回は特段変な相手と戦った覚えがないので、そんな期待をされてもつまらんだけだぞ。
「ロックリザード、ストーンゴーレム、ロックゴーレム、戦闘していないがリスっぽいやつの4種だな」
リス型モンスターは序盤でゴーレムの上で遊んでいるのを目撃しただけで、その後は一切出会っていない。ここまで一番遭遇率の高いものは意外にもゴーレムだった。その巨体と硬さからソウはまともに相手をしたくないモンスター筆頭でもある。
最初はその遭遇率に頭を抱えたものだ。
しかし、ゴーレムは核を壊してしまえば一撃で倒すことが出来ることが分かり、それからはゴーレムと戦う時には核を探すことから始めた。そこで便利だったのは【観察眼】だ。このスキルによって核を一瞬にして判明させることが出来たのだ。そのおかげでソウは武器の耐久値を温存しつつここまで駆け上がってくることができた。
「コンプね」
「普通だな」
「つまーんなーい」
「お前らの俺に対する認識がよく分かった」
目に見えて落胆を浮かべる幼馴染達に、ソウはげんなりとした。
いつも俺がユニークに会うと思ったら大間違いだ。毎度ユニークに遭遇していたらいくら身があっても足りない。
「あのリスは攻撃してこないものね」
「そうなのか?」
大きめのローブを纏ったベルカが、不貞腐れるスモポンの髪を撫でながら言う。
どうやらリスは非アクティブモンスターのようだ。あの小さい体形だと剣を当てるのが難しいので戦わないに越したことはないのでありがたいものだ。
「あいつを攻撃すると手持ちのアイテムを盗まれるって話だぞ」
……攻撃をしなくてよかった。手持ちには貴重な素材がそこそこあるので、下手に盗まれたらたまったものではない。
「あんなちみっこいやつを相手にするのは骨が折れっから、魔法で焼くのがおすすめだ。盗んだ相手をヤれば盗まれたアイテムをドロップするからな」
「なるほどな。手を出さなくて本当に良かったよ」
まともな攻撃魔法は持ち合わせていないソウからすればある意味天敵だったかもしれない。
「さて、話を戻すけどここから山を抜けるまでに出てくる基本モンスターは確認されている限り6種類だ」
指折りしつつタロウが言う。
「まずはロックリザード、ロックゴーレムは据え置き。これまでとそう大差ない。新規はロックリザードマン、プチドラコ、ロックワーム、サボテーンだ」
大体名前で見当がつくのだが、サボテンは英語じゃないのだな。
どうでもいいことを思いつつ、ソウは手で先を促した。
「名前の通り、リザードマンはロックリザードの人型だ。主に槍を使ってくるから対人戦が有効だ。向こうさんは尻尾がある分一手多いが、大して気にならん。次にプチドラコだが外見はミニのプテラノドンだ。風系の魔法を使って来るので注意だな」
この間のキメラで嫌というほど風の攻撃は受けているので大丈夫だろうな。
「このマップ唯一空を飛ぶモンスターで、基本は後衛組に任せることになるな。落としてくれればフルボッコにできるのでそれまでが肝だ」
「では、トーが頑張ってくれるのか」
「今回はハヤブサが居ないからね。仕方ないけど僕の担当になるよ」
この場にあの後輩が居ないのは、都合がつかなかったというのもあるがパーティ制限に引っ掛かるからという面が強い。今回はスルメイカが居るためにどうしてもひとりあぶれてしまう。それならばと気を使ってくれた結果であった。それが普段の減らず口にも適用されればと誰もが思ったに違いない。後でお礼を言っておこう。
「次はロックワームね。こっちは岩の一部に化けていて、近づくと地中から出て来てプレイヤーを飲み込もうとする厄介な芋虫型のモンスターよ。地中から頭が出て来て初めてアクティブ状態になるから気づきにくいのよ」
面倒よね、とスルメイカが嘆息気味に呟いた。
なんでも一度食われた経験があるらしい。その光景にタロウが興奮していたというどうでもいい情報も付いて来た。その際、周りがドン引きしてタロウひとりでロックワームを討伐させたらしいがそれは仕方ない。
「で、岩肌ということもあり攻撃も弾かれやすいためにプレイヤー全員から嫌われているよ」
ワーム系はどこでも不人気よな。特に女性陣から受けは相当に悪いだろうよ。
「今では擬岩の形状が割れているから、遠距離攻撃で地面から出して戦うのが定石になったわ」
「昔のゲームで、それっぽい龍が居たな」
「そのワーム版だと思えばいい」
攻略法としてはハンマーや大剣などで物理的に岩肌を叩くのが有効ということで、タロウとスルメイカが主に担当することになる。意外に思うかもしれんが、スルメイカは自身と同等かそれ以上の大きさのハンマーをぶん回すスタイルだ。小柄な体系で敵の懐に潜り込みやすいことから隙を突きやすいというのは本人談。ゴ〇ディ〇ンハンマー並みの対比でよくやるものだと常々思っている。
内側の肉さえ露出させてしまえばどんな攻撃も有効打に変わるので、それまでが勝負のようだ。地面に潜る際にも勝手にダメージを受けるとのことで、自滅することが多々あるらしい。
「で、最後のサボテーンだがこれについてはレアモンスターなんで滅多に出てこない。俺らもまだ見たことはねえ」
「そうなのか」
「だから遭遇したら臨機応変に挑むことになるな。一応植物だから火属性が有効なのは確定なんだが、それ以外の情報が出回ってない」
レアモンスターの情報は初期では余り出回らないので仕方あるまい。
「後は…… そうだな。ロックリザードの亜種ってのが居るんだが、これは前に俺らが受けたクエストでしか出ないから除外だ」
「その装備を作るために潜ったやつだな?」
「そうそう。ソウが素材を求めるなら寄り道していく?」
「いや、今回はサートリスへ直行で頼む。必要になったら頼むことになろう」
「了解」
とりあえず、目の前の問題を解決してからだ。
「んじゃ、説明も終えたことだしそろそろ落ちるか」
タロウの言葉に、ソウはコンソールウィンドウを開いて時間を見た。
気付けばもう0時近くに差し迫っている。明日は2限からのため余裕はあるが、落ちるにはいい時間であった。
「攻略は明日の夜からでいいんだよね?」
確認のためにスモポンがスルメイカへと問う。俺ら学生組は予定を合わせやすいが、社会人のスルメイカはそうはいかない。
「大丈夫よ。大きい仕事は終わらせてあるから、急な依頼が来ない限りは時間が取れると思うわ」
「ダメそうだったらいつでも言ってください。うちの後輩を引っ張ってきますので」
「あはは。予定が出来たらそうさせてもらうわね」
じゃ、と言ってその場で横になると、スルメイカはログアウトした。
「俺らも戻るとすっか」
「おうよ」
「じゃあ、また明日大学で」
「おやすみー」
各自、適当に寝転がって順次ログアウトしたのだった。
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