055 ようやく合流
「はぁ!」
「グェ!!」
砂利を蹴り上げて飛び掛かってくるロックリザードの頭を水晶玉で殴り、地面へ叩き落とす。
次の行動へ備えるべく数歩引いたソウだったが、敵は千鳥足となっており視線が定まらず目を回していた。水晶玉がクリーンヒットしたことで一時的な混乱状態を付与できたらしい。殆どダメージの無い水晶玉であっても当たり所次第で状態異常を起こせるというのは今更ながら収穫だった。
それが切れぬ間にソウは右手に持つ鉄の直剣を首へと振り下ろす。
頭が胴体から離れたことで、ロックリザードはポリゴンと化した。
顔前にはwinの文字が浮かび、経験値が入ったことを告げるアナウンスが響く。
「さて、もうそろそろか」
マップを見れば、目先の広場がセーフティエリアとなっているのが確認できる。現在、アジーラを出てからリアル時間にして約2時間ほど経過している。どこかで休憩したいとは思っていたが、思いの外セーフティエリアが見当たらなかった為に仕方なくここまで進んでくることになった。
パーティーであれば半分の時間で進められそうだが、こちらは生憎ソロだ。
全てが新しい敵で、検証も兼ねて戦っていた為にかなりの時間を費やすことになってしまった。その分、後半につれて狩りの効率が上がったのは成長だろう。
やはりと言うべきか、占い師がソロで動いているのは珍しいようで度々視線を感じる。
近くにいるプレイヤーに奇異な目を向けられるのは仕方無いのだが、ソウとしては余り気分のよいものではなかった。
外套によって外見を誤魔化していなければ直ぐにでも俺の情報が広まっていったことだろう。
武器をインベントリに仕舞い、ソウは軽く視線を下げて周りのプレイヤーたちに紛れると一刻も早くセーフティエリアに向けて歩いていく。
軽い上り坂を進んでいくと、もう到着だった。
パット見て、そこはキャンプ場に似ていた。各々プレイヤーたちは野営のためにテントを張っていたり、岩場に背を預けてログアウトしていたりと様々だった。
気になるのは、ソロのプレイヤーは身近な場所に頭サイズの黒い箱が置かれていることだ。
「あれは何だ?」
魔除け―― いやそもそもセーフティエリアにモンスターは湧かない。だとすると……
ひとつ思い当たるものがあり、ソウは顔を青くした。
すると、
「みぃつけたぁ!」
後ろから両肩をがっしりと掴まれる。不意打ちに思わず驚いて、ビクリと身を震わせた。
「スモちゃんが見逃すわけよね。新しい外套を渡していることを伝え忘れた私にも責任があるけど……」
その声を聞いたとたん、ソウは身構えていた身体の力を抜いてこう言った。
「別に逃げはせぬよ」
「今まで逃げてる自覚があったの?」
「特には」
「そうよね。貴方は意外とお気楽な所があるものね」
嘆息とともに肩から手が外されたので、ソウは振り返る。視線をやや下に下げると、青い髪が目に入ってくる。そして、端麗な顔立ちがはっきりとソウの目に映った。
「こうして対面するのは久しいな、スルメイカ。装備には随分と助けられた」
「ええそうね。久し振り、ソウ」
ニコリと微笑む姿は大人の美しさがあった。しかし、それとは別に何か含みのあるものも混ざっている気がするのは気のせいだろうか。
「さて、あれだけ堂々としたスモちゃんを見落とすとはどういうことかしらね?」
「何のことだ?」
「……その反応は、本当に見えてなかったのね」
やれやれと首を振って、入口の方向を指差した。その細い指を追えば、大きな岩の上でじっと入口を見つめる幼馴染の姿があった。
茶色い軽装の小さな彼女は、現実同様ベージュの髪を風になびかせている。度々入口にやってきた新規のプレイヤーが驚いている様子も見える。
「なるほど。俺はずっと視線を下げていたから発見できなかったのか」
あれほど目立つ場所にいるというのに気づかないというのはおかしい。イカの言い分も尤もだ。あえてスルーしたと言われても文句は言えんな。
「その様子だと、本当に見えてなかったようね…… スモちゃんも可哀そうにね」
「あまり目立ちたくなかったので仕方なかったのだ」
「なんにしてもログアウトされる前に見つけられてよかったわ。ほら、行くわよ」
俺の首根っこをグムッと掴んで、彼女の元へ引きずるように歩くスルメイカ。身長に反してSTRが高いようで、難なく引っ張られてしまう。生産職は戦闘向きでないというだけで、ステータスはそこそこあるのだろう。
「ちょ、分かったから。自分で歩くから勘弁してくれ」
外套が脱げないようにフードを手で押さえて、スルメイカに抗議する。
こんなところでバレてたまるか。
「そう?」
ぱっと手を放されて、たたらを踏むソウ。外套の位置を直したあと、スルメイカに並んで彼女の元へと歩いて行った。
「おい、あれ誰だ?」
「あん? お前知らんの?」
「スルメイカは知ってるが、横の外套だよ」
「顔が見えないんだから分かるわけがないだろうに」
ひそひそと傍で見ていたプレイヤーたちの会話を耳にして、ソウはげんなりとした。スルメイカは言わずと知れた有名生産職だ。そして、俺の幼馴染もまたこの界隈では有名だ。目立たないわけがない。
「本当に他者の視線が苦手よね」
「いや、目立ちたくないだけだ」
「ならどうしてそんな目立つ職を取るのよ」
「効率2割、プレイスタイル4割、ロマン4割」
「全て嘘ではないでしょうけど、割合はもう少し偏ってそうね?」
バレてらっしゃる。現在の効率は2割を切っているが、それでも誤差だろう。占い師というジョブは一見汎用性に欠けるが、オールラウンダーになりうるポテンシャルを秘めている。使い様でいくらでもあるジョブだとソウは確信している。他のEXも同様に秘めるものがあるとみて間違いないだろう。でなければわざわざ制限を設ける必要がない。
スルメイカは岩場の手前にある野営スペースに向かって歩く。てっきりスモポンの方へ行くのかと思ったが、そうではないらしい。
「ただいま!」
元気よく入っていく小さな姉貴分の後をソウも続いた。
中に入って納得した。そこにはいつも見る幼馴染達の姿があった。入ってまず目にしたのはタロウだった。その巨体は嫌でも目に映る。彼もこちらを怪訝な目で見た後、納得したとばかりに悪い笑みを浮かべた。
「私はスモちゃん呼んでくるから、皆よろしく」
「ちょ、ちょっとスルメイカ!」
何も説明無しで出て行ったスルメイカを呼び止めようとしたのはベルカだったが、もう遅い。どうせ大した距離ではないので直ぐに帰ってくることだろう。
さて、どう切り出したものか。イカがスモポンを連れてくるのを待つべきか?
いや、むしろ急に現れた怪しい奴を幼馴染達はどう対処するのか見てみるか。
「えーと、イカ姉が連れてきたってことはそういうことかな?」
「多分、そういうことだとは思うわ」
「いや、ぜってーそうだろ?」
前言撤回。こいつら俺だと確信して茶番かましてやがるな。
目の前でわざと聞こえる声音でコソコソ話を繰り広げるという煽りスキルを発動させるんじゃない。正直ベルカも乗るとは思わなかった。
「はいどーん!」
「ぐはっ」
いきなり背中に衝撃を感じ、つんのめるソウ。首に腕を回され、がっちりとホールドされる。
先日も似たようなことをされたな。あれはもう少し軽かったが。
「みんなー。この人なんかエッチなこと考えてると思うんだー」
「そんな棒読みで宣言されてもな」
「「「「うわー、変態だー」」」」
揃ってこちらを煽る煽る。しれっとイカも混ざってるのは腹立つな。
鎧で女性的な柔らかさなど微塵にも感じないし、それを分かって弄っているのだから性質が悪い。
やがて、満足したのかスモポンは背から降りると、
「御開帳!」
俺のフードを脱がしやがった。
いつの間にか彼女は皆の横へ立っていた。流石盗賊なだけあって身軽だな。
「ほら、皆に何か言うことがあるんじゃない?」
じれったく思ったのか、イカに催促されてしまった。この世界においては似つかないが、それでも回答はひとつだろう。
ソウは身なりを正して、幼馴染達へ告げた。
「ただいま」
「「「「「おかえり!」」」」」
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