054 サートリスに向けて
占いギルドを出たソウは、ゴンドラを使って中央に出ると装備屋に向かった。そこで手ごろな直剣を購入してから西へ向かう。
西にあるフィールドを越えると、サートリスへ続く道に出るからだ。
「思ったより長く居たな」
ソウはフィールドと街の境に立ち、街側へ振り向いた。
常に水路が目に付くこの街は活気が有れど、全体の雰囲気としては逆に落ち着いており、のんびりと暮らすには過ごしやすい場所だと思う。出会う人たちも温厚で話しやすく、もし現実でこのような場所があれば真っ先に移住の候補へ挙がるだろう。
本来であれば素通りする予定だったが、偶然とはいえ立ち寄れてよかったと今なら思う。
「そういえば、結局ギブンのプロポーズは成功したのだろうか?」
ソウはあれから一度も彼と会っていないので、クエストが進行中のままになっている。
ギルドで受注するクエストとは別枠の為、手持ちの受注枠を圧迫することはないので今まで気にしてこなかったのだ。
うまく成し遂げていればいいが……
サートリスへ向かう手前、今から彼を探しに戻るという選択肢もあるが、どうせ今後も往復するはめになるのだから会えた時に聞けばいいだろう。
ソウは身を捻り、フィールドへと足を踏み入れた。
舗装されている道を行けば、岩山へ続く坂道が見えてくる。そこを抜ければサートリスへ辿り着くと幼馴染から聞いていた。
途中でいくつかのモンスターと遭遇したので、面倒ではあったが全て倒していく。こちらのフィールドは東と違って仲間を呼ぶ習性を持つモンスターは出ないので、単体撃破を繰り返せば問題なく通過出来る。
「強くなったものだ」
己のゲーム経験を活かしたスタイルであっても、最初は火力不足で1体倒すのにかなりの時間が掛かっていたことを考えると大きな進歩であろう。
「ぬ、やはり新樹の短剣よりは切れ味が悪いか」
新規購入した直剣で攻撃行動によって隙ができたウォーターベアに振りぬく。確かなダメージは入るものの、やはり物足りなさがあった。
・鉄の直剣
DV:190
AT:75
鉄で鍛えられた直剣。剣を志す者ならば誰しもが手にする通過点。
店売りの手頃な値段かつ耐久力重視で選んだものだから仕方ない。新樹の短剣もさすがに耐久値が心もとなくなってきたので、いざという時のために温存しておきたいから繋ぎとしてこの剣を買ったのだ。まだ鎧の精算も済ませて無いが、こればかりは仕方のないことだった。
ゴル爺に会えればベストだが、現状は烏賊経由で頼むしかあるまいか。しかし、借金が嵩むのはいただけないのでせめて鎧の分を払い終えてからにすべきだな。
「武具の養分となりたまえ」
激昂したウォーターベアは力が強くなる代わりに動きが単調になるために回避を繰り返せば楽に討伐できる。怒りに任せた攻撃をソウは紙一重で回避し、巨体に近づくと真横に一閃する。残像が走り、レッドゾーンのHPは0になった。
ウォーターベアがポリゴン化し、経験値とドロップ品の入手情報がアナウンスされた。
「出来れば戦闘は避けたいものだ」
経験値・素材共においしくはあるが、早く突破したい時に限ってよく遭遇するのはいただけない。
イベント時のワイルドボアや道中の依頼と何かと足止めを食らうのは運命なのだろうか。
直剣をインベントリにしまうと、周囲に追加の敵がいないことを確かめてから道を進んでいく。
少し歩いたところで森を抜けて広々とした場所に出た。地面は乾燥しており、岩肌が目立っていることから全く別のフィールドへ出たことになる。今までは緑が中心だったが、ここからは土気色の景色が続いていくのだろう。空気も澄んだものからどこか埃っぽいものへと変化しているのが面白かった。
遠くには緩やかな坂が見えており、その奥は山に続いている。
「あれを超えればサートリスか」
ソウと同じくサートリスへ向かうプレイヤーたちの姿があった。
森に比べて遮るものが少ないので、ここでソウはインベントリから茶色の外套を取り出して装備の上から羽織った。景色と同化出来るので、遠目であれば気付かれ難いだろう。近づけば目立ちはするが、身バレ防止には繋がるので別に問題はない。SNSでは灰色と出回ってるはずなので、この姿で直ぐにソウと結び付くことも無いだろう。
ソウは改めて、新規フィールドに足を踏み入れた。
初のフィールドの為、情報収集をしつつのんびりと歩いていく。よく見ればトカゲのようなフォルムの敵と戦闘をしている様子も伺える。
周りに視線を泳がせながら、一本道をゆっくりと進んでいった。
自然湧きしているモンスターの中にはファンタジーお馴染みのゴーレムの姿もあった。
何度かモンスターとすれ違って確信してきたが、ここは精霊の森同様プレイヤーから攻撃しなければ戦闘が発生しないタイプのようだ。
ゴーレムを相手に戦うのはありかもしれんな。
サートリスまではゴーレムを相手にすることが増えると予想したソウは、近場の岩に腰かけて動かないゴーレムに攻撃を仕掛けるべく近づいていく。すると、ゴーレムの上に何やら動く影が見えた。それが一瞬で消えると、今度は左肩に現れる。ソウは気になってよく見てみると、野良のゴーレムの肩にリスのような小型のモンスターが複数乗っかって追いかけっこを繰り広げているではないか。
なんというか、討伐するのは心苦しい光景だな。あのゴーレムたちと相対するのは野暮か。
ほんわかとした光景を見たソウは戦意を飲み込むと、ゆっくりと道のりを散策する作業へと戻った。土の匂いが鼻をくすぐり、これまでとは違ったフィールドに新鮮な気持ちになった。
ソウの願いが聞き届いたのか、彼らの横を通り抜けても戦闘態勢に入らなかった。
やはり、こちらから仕掛けなければアクティブにならんか。
内心でソウは安堵すると、坂道に差し掛かる。ここから山道となり、マップも切り替わっていた。
ここからは戦闘が多発している区域だ。ソウは鉄の直剣と水晶玉を取り出して、いつでも対応できる状態で坂を上っていった。
*
「とりあえずここで待機してるけど、来るかねー」
自身の3倍はあるであろう岩の上に座り、スカートから伸びるロックリザードの防具に包まれた足をプラプラさせながらスモポンはぼやいた。
「さぁ、どうだろ。アジーラに来た時みたいに裏道を通られると、ここで張るのは無意味なんだけど」
「でも、そんな話は聞いてないんでしょ?」
「今のところは」
トーは苦笑しつつ彼女に返した。彼とてソウの行動を全て把握している訳ではないので、明確な回答を出せる自信はなかった。
彼らがソウを待ち伏せしている場所は未解放の街へ続くと思われる分岐点より前にあるセーフティエリアだった。昨日のうちに到着は済んでおり、今日は皆ここでログインして集まったのだ。
特殊な条件でない限り、サートリスに向かうには誰しもが必ずこの場所を通過する。
ここまで来る為であれば道中の敵もさほど怖くないので、ソロであったとしても割と簡単に到達できる場所だった。
「昨日はあいつバイトでインしてないんだろ? だったら動くなら今日からだろ。さっきまで一緒に居たんだから、ここに辿り着くのはまだ先じゃねーか?」
スモポンの斜め下で岩に背を預けて腕を組んでいるタロウも珍しくスモポンを宥める側に回っていた。
「話をした感じ、直ぐに出そうな雰囲気だったから今日中には会えるのではないかしら?」
「うーん、ベルちゃんが言うならそうなのかもー」
「おい」
「まあまあ」
「あ、また新規さんだ」
スモポンの視線の先には、一本道によって繋がっている入り口がある。そこに4人組のパーティーが現れた。彼らはスモポンに気付いたものの、近寄って来ることはなく遠くで野営の準備を始めた。
こうしてソウの来訪を監視しているわけだ。
スルメイカは用事が入ったらしく、一度ログアウトしている。直ぐに終わると言っていたので、そのうち戻ってくることだろう。彼らがここで待ち始めてまだ30分と経っていないが、それなりにサートリスへ向かう人はいるようだ。中には坂道を登っていきなりスモポンが見えるものだから彼女を知らなくても驚くプレイヤーが続出している。
掲示板ではサートリスのツチノコ発言と相まって独自クエストの一環と思われているのだが、当人たちには預かり知らぬ所であった。
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