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052 やはり領主は忙しい

洞窟を後にしたソウは、領主の館へと向かっていた。

夜遅くで今回はアポも取っていないため、急な来訪は迷惑に繋がる。だから伝言は明日の朝にしようかとも思ったのだが、急な呼び出しに対応するなら余計早く伝えたほうがいいと考えての行動だった。


「これで領主に外せない予定が入ってたらソフィアはどうする気なんだか」


信仰心が強そうなので、彼らは無理やり予定を変更させてでも向かう気はしているのだが。

取り敢えずソウとしてはソフィアの伝言を伝えられれば問題ない。

その後については当人達の問題だ。こちらが関与すべきものではないだろう。

ゴンドラを使い、いつもの船着き場に降りたソウ。

無論、案内人は立っておらず無人だった。

道を覚えてはいるものの、一応マップで確認しながら進んでいく。特に迷うことなく無事に門の近くまでは歩いていけた。


「さて、問題は門番が誰かだな」


先日話し相手をしてくれた人ならば顔を覚えてもらえているだろうから話を通しやすいのだが、そうでないと一悶着あるかもしれない。


「堂々と歩いたほうが怪しまれないか……」


ソウは悠然に門まで歩いていくと、やはり知らない門番が立っていた。

彼はこちらを観察するかのように視線を投げ掛けてくる。

別に怪しまれるようなことはしていないので、そのまま近づいていく。


「止まれ」


やはり、制止の声が掛かった。

彼は再度こちらを見回すと、顔をしかめて尋ねてくる。


「見たところ冒険者のようだが、この時間に来訪の予定は聞いていない。用件は何だ?」

「それは……」

「おや、ソウ君じゃないか。夜分遅くにどうしたんだい?」


こちらが理由を言う途中で、端から遮る声があった。

そちらを見れば、門番と同じ鎧を纏った人が二人立っている。

夜のうえフルプレートで顔が見えなかったが、頭上を見れば名前が分かる。片方は先日出掛けるまで相手をしてくれた人だった。

どうやら巡回の帰りだろう。


「お疲れ様です、隊長。こちらの冒険者は知り合いですか?」


この人、隊長だったのか。彼らは頭の防具を取ると、脇に抱えた。


「ああ、彼はうちの隠れた要人だよ。 ……ダーロン様関連のな。一応顔は覚えておいて」

「はっ!」


ビシッと敬礼で答えた。前領主の名が出て納得がいったようで、彼はこちらに振り向くと、


「知らぬとは言え無礼を働いたこと、申し訳ありませんでした!」

「いや、門番としては正しいことをしているのだ。顔をあげてくれ」

「はっ!」


何か、急に暑苦しくなったな。体育会系のそれを感じる。取り敢えず、話が通りそうなので用件を説明しておかねばな。


「夜分遅く申し訳ない。領主宛に伝言を頼まれたのでな。迷惑とは思ったのだが何分急用なもので、出来れば領主に取り次いでもらいたい」

「おうそうか。ちょっと待ってな」


門番は腰から吊るしてあるこぶし台の玉を握ると、じっと動かなくなる。

少しして彼はソウの方へ向くと、


「アロス様がお会いになるそうだ。入館を許可するよ。もう少し待ってりゃ迎えが来るってよ」


どうやらあの玉は通信の道具だったらしい。俺らプレイヤーはフレンドならコンソールから通信が可能で、そのような道具は必要なかったので見ていて新鮮だった。


「感謝する」

「おう」


門番たちと適当に会話をしつつ待っていると、


「ソウ様、お待たせいたしました」


そちらを向けば、声の主はメイドだった。

先日迎え入れてくれたときに並んでいたひとりだった気がする。


「いや、急に押し掛けたのはこちらだ。気にしないでくれ」

「では、私ではなく主様へそのようにお伝えくださいな」


そう言ってメイドはニコリと微笑むと、すたすたと館へと歩いていった。門番たちに礼を言ってからソウは彼女の後をついていった。

館に入ると、先日同様の応接室へと通された。


「こちらでお待ち下さい」

「承知した」


ソウが頷くと、メイドは音もなく部屋から去って行った。

本来であればお茶などが用意されるのだろうが、こちらが渡り人であるために食べ物は出てこない。なんせ味がわからないので、出されたとしても楽しめない。それが分かっているからこその対応であった。


「やあ、お待たせ」


少しして、アロスがメイドを同伴で入ってきた。

彼はソウの対面に腰かけると、そっと紅茶が用意された。茶葉の落ち着いた香りが、ソウの鼻を擽った。

なぜ、匂いは反映出来て味は無理なのか。技術的なことはよく分からないが、なんというかお預けをくらっている気分だな。

こちらの内心が伝わったのか、アロスは申し訳無さそうな表情を浮かべていた。本当に優しい人だな。

ソウは無言で促すと、彼はカップに手をかけて紅茶を口に含んだ。

やはり、疲労が見えるな。領主とは激務なのだろう。一息ついたのか、カップをソーサーに戻すとアロスはソウを見た。


「さて、ソウ君。言伝があるんだってね? 誰からだい?」

「ソフィアから」


その名が出たとき、アロスはハンドサインをメイドに送った。すると、彼女はお辞儀をしたのち部屋から出ていった。

人払いか。


「ごめんね。で、精霊様はなんて?」

「明日の夜に彼女の元へ来るように。そう聞いている。用件は知らん」

「そっか。また急だねぇ」


アロスは渋い顔を隠すことなく言うと、こちらに断ってから熟考を始めた。恐らく明日の予定を調整しているのだろう。


「ああ、うん。どうにかなりそうかな」

「そうか」

「で、他にはあるかい?」

「いやないな」

「ああ、本当にそれだけのためにソウ君を使ったのか。お疲れ様」


アロスは苦笑混じりに労ってくれた。


「まあ、こうして来てくれたんだし少し付き合ってよ」

「確かに、これだけで帰るのも癪ではあるが……忙しいのでは?」

「忙しいのは事実だが、適度な休憩は取るものだよ」


真顔で言われ、返す言葉はなかった。

結局、アロスの愚痴を延々と聞き続けてその日はログアウトしたのだった。



「で、蒼は領主に付き合った結果こうしてぐったりしている訳ね」

「ああ……」


いつものラウンジで課題をやりつつ、互いの進捗状況について話していた。

PCを起動させたはいいが、やる気が起きん。


「水精霊には無事会えたのね。それで何か起こったのかしら?」


キーボードを叩きつつ鈴香は蒼へ投げ掛ける。


「進展したが、爆弾になるかはまだ分からん」

「しれっと新しいものを手に入れた報告はするのね……」

「それが何かは」

「教えん」

「ですよねー」


その場に居る蒼を除いた全員が苦笑を漏らした。

秘密主義は今に始まったことでは無いので、慣れたものだ。


「じゃあよ。蒼がそう言うってことはそれが広まる可能性があるのか?」


購買で買ったクッキーを摘まみながら、康太郎が呟く。

そっと啓子がクッキーに手を伸ばしているのを尻目に、蒼は答えた。


「その可能性はありそうだ」

「まじか」

「ただ、それがプレイヤーにまで反映されるのかは不明だがな」


万能薬のレシピをどうするかはアロスの采配次第だが、少なくともNPC達の間では変革が起こるだろう。

それがプレイヤーにまで及ぶかは、現段階では何とも言えなかった。


「まあ、それは運営の告知待ちということで」


PCを閉じた琢磨は、手早く荷物をまとめ始めた。


「うん? 琢磨どっか行くの?」

「ああ、次の講義で先生の手伝いをすることになってね。その打ち合わせ」

「ふーん、いてらー」


ひらひらと力なく手を振って、啓子は琢磨を見送った。


「でさー、蒼は今日どうするの? ログインする?」

「いや、今日はバイトがあるからしないな。するとしたら明日の夜になるか」

「そうなの。では明日アジーラを発つのかしら?」

「一応、そのつもりだ」

「そっか! やっと会う気になってくれたみたいだね!」


よほど会えることが嬉しいのか、啓子のテンションが高めだ。


「ま、アジーラからサートリスまで一本道だし、迷うことはないべ」

「そうね。分岐点は解放されてないし…… ねえ、蒼。もし途中で分かれ道を見つけたら連絡して貰えないかしら?」

「それは、俺が第4の街へ行ける可能性を持っていると言いたいのか?」

「あなたのことだから可能性はあると思っているわ」

「嫌な信頼だな」


これまで人とは違う道を歩み続けた影響だろう。

幼馴染に疑われるのは仕方ないとも言える。


「もし開通されていたとしても、まずはサートリスを目指すさ」

「だといいけど」

「信用されてないな」

「これまでの行いを振り返ってから言えよ……」

「康太郎に正論を突かれるのはなんか釈然とせんな」

「なんでだよ!」

「わかるー」


横で啓子は大きく首を振って頷いていた。


「何にせよ、真っ直ぐ来なさいな。貴方に会えるのを皆楽しみにしているのよ?」

「こうして毎日会っているだろうに……」

「それとこれとは別よ」

「ねー」


ため息を吐くと、気を引き締めてPCへと向かった。こうして何気ない会話でだるさが抜けていくことに、我ながら現金なものだと思った蒼であった。

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