050 vs水龍
迫る龍の頭をソウは横に飛んで回避した。
通過した龍の身体から豪快な水飛沫が散り、ソウの服を濡らしていく。
現実であれば水を吸った服による不快感が襲ってくるわけだが、これはゲームだ。受けた時に僅かだが湿った感触が伝わって来るも、それだけだった。恐らく負荷軽減の処理が働いているおかげであろう。スムーズにゲームプレイが出来るので、リアリティーに欠けていても問題にならないレベルだ。
龍はどうやら湖から完全に出てくることは無いようで、掃除機のコンセント如く身を引いて湖に戻って行った。
もし、攻撃を仕掛けるならここだろうか?
出会った時と同じ位にまで戻った所で、実体の無い赤の瞳がじっとソウを睨んでいる。
その瞳を見返しながら、
「ふむ、こちらの攻撃が当たるのか試してみるか」
敵は水だ。物理攻撃が効かないのであれば、魔法攻撃を使えないソウはお手上げである。
こちらの思考を読んだのか、龍はまた突進を仕掛けてきた。
ソウはじっと龍の動きを見てタイミングを合わせ右に飛ぶ。
横幅のある龍だが、【跳躍】の恩恵でギリギリ避けられている。
洞窟の入り口付近まで伸びた龍が巻き取りを開始したところで、ソウは横腹を短剣で切りつける。
すると、カキンという乾いた金属の音と共に、短剣は弾き返されてしまった。その反動で、ソウも僅かに仰け反った。
「弾かれた!」
バランスを戻すと、今度は体重を乗せた飛びかかりの斬撃を食らわせた。しかし、これもが弾かれてソウは僅かに後退させられてしまう。
「なんて硬さだ」
現実であれば痺れても良さそうなほど、龍の鱗は硬かった。首が近づいて来たところでソウは武器を構えた。しかし、攻撃を受けたのにも関わらず龍は大人しく定位置へと戻っていく。
「反撃を仕掛けてこない……?」
HPバーは減っているようには見えないので、攻撃は届いていないと思われる。
「取り敢えず攻撃は出来るようだが…… これは参ったな」
ソウにとって、新樹の短剣が最高攻撃力である。通常攻撃でダメージが入らないようだと、ジャイアントキリングによるブーストを視野に入れる必要があった。
「こんな序盤からHP調整を始めなくてはならないのか?」
敵としては十分にやる価値がありそうだが、モード移行してない相手にこれでは先が思いやられるというものだ。
また、もうひとつの問題点として敵のレベルが?であること。もし格上で無い場合、ジァイアントキリングの恩恵を受けられないことになる。
そうなると、こちらの攻撃は一生届かないことになるのでは?
そうなったら詰みだ。
「……考えろ」
例え攻撃が通らなくとも、何か突破口が用意されているはずだ。まずはそれを探すべきだろう。
これまでに触れたファンタジーやゲームを思い返してみる。
このような龍を幾度となく見てきているのだが、殆どは物理魔法問わず戦うことの出来る相手ばかり。今回の相手も弾かれはするものの、物理攻撃は可能であることは証明されたので無効耐性持ちでは無いだろう。単純に防御力が高いだけだ。
次に水属性の弱点として鉄板なのは電気系の攻撃だ。しかし本体が水であることが厄介で、例え電気を通したとしてもそれを受ける肉体が無ければ感電しないので意味を成さない。また、土属性の攻撃も有効であると思えるが、どちらにしてもソウ自身が魔法攻撃の手段を持たないので考える意味が無い。
次に考えられるのは核の存在だ。
ゴーレム等に見られるもので、体内に埋め込まれている玉のようなもののことを指す。核に溜め込まれたエネルギーを利用して土や岩などを人型に固めて動かすというものだ。こちらの方が今回のシチュエーションとしてはしっくりとくる。また、同じ考え方として核は無いが、術者による遠隔操作も挙げられる。この場合だと隠れたソフィアがあれを操っている可能性があるわけだ。
「隠れてしまったソフィアを見つけるのか……」
いや、まずは核を探す方が先決だ。かくれんぼはその後でいい。
水龍の全体を観察してみても、其らしいものは目くらいだろうか。だが、目は実体を持たない光であり、あれが核だとは考えにくい。
ソウが首を捻っていると、水龍が口を大きく開けた。口内も精巧に造形されており、歯や舌も確認できた。また、核らしいものも見当たらない。
「吠えるわけでは無いならば、だ」
水龍の口から水の塊が瞬く間に射出された。
「やはりそうか!」
水を飛ばすのは、水属性モンスターの鉄板攻撃である。
放たれるのはソウの顔ほどの塊で、当たるとかなり痛そうだ。しかし、避けるのはそう難しく無かった。
来る位置さえ把握できればこちらのもので、此れまでの経験と【見切り】を活かして落ち着いて対処していく。余計に動くと後続に当たる可能性があるので最小限な動きで躱していった。
感覚的には段幕ゲーだ。その場で留まり、左右にスライド移動して避ける。
「グルゥ……」
当たらないことに困惑したのか、水龍は低音で一鳴きした。まるで攻撃が通じずに落ち込んだような弱い鳴き声であった。
「可愛い所もあるではないか」
正直そんな軽口を叩いていられる状態ではないのだが、自然と声が出てしまった。
依然として突破口は見えていないのだが。
「しかし、何故奴は湖から出ない?」
数度のやり取りだが、まだ水龍の全体を拝めていない。身を出さないことに何か理由があるのだろうか。
「ああ、魔力源ならあるではないか」
遠距離が効かないと悟ったのか、追撃とばかりに突進を仕掛けてくる。
「それはもう通らないぞ?」
むしろ、ソウに攻撃の隙を与えてしまう悪手である。
向かってくる巨体を避けたところで、ソウはあえて攻撃をすることなく湖に走った。
戻って来る龍を気にしつつ、ソウは湖の中を覗き込んだ。
「アリュがいない……」
もしやアリュの魔力を使っているのではと思って見たが、あれだけいたアリュの姿は綺麗サッパリ消えている。どうやら違うようだ。
首が近づいてきたため、ソウは湖から離れて水龍と睨み合う。むこうは特段表情の変化がない。余裕があるから当然と言える。
それからもソウは回避しつつ攻撃を繰り返した。だが、彼の攻撃は一向に通る兆しを見せない。
試しに状態異常系のアイテムを投擲してみるも、効果はないようだった。
それから水龍はのし掛かり、水のビーム、咆哮からの突進など様々な攻撃を披露してくれた。しかし、どの行動も前兆を挟んでワンテンポ遅く発動するため、ソウは回避出来てしまっていた。
ただただ時間だけが過ぎていくことに、流石のソウでも苛立ちを覚えてきた。
「こうなれば、核かソフィアを探すしかないのか?」
まともに戦うことを放棄しそうになり、内心でため息を吐いた。
しかし、何故こいつの攻撃は見切れるほどに遅く設定されているのだろうか?
今までのやり取りからずっと気になっている点だった。これまでの強敵は何れもこちらをヤる気満々で攻撃してきている。しかし、この水龍はそのような覇気を一切感じられない。まるで、ソフィアのようで……
「まさか?」
ソウは【未来視】の結果を思い返してみる。
確か、俺はあの龍に喰われる所で映像が途切れたのだったな。
「であれば、だ」
ソウは水晶玉を前に構え、緩んだ戦意を引き締めながら敵の攻撃を待った。
何かを感じ取ったのか、水龍は一鳴きするとソウへ突進を仕掛けてくる。
「そうだ。そのまま来い!」
ソウは眼前に迫る大きな口に抵抗する事無く、飲まれるのだった。
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