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046 対価はそれなりに

 約束の日となった。

 夜にログインしたソウは、改めて領主の館へ向かう。

 前回同様、ゴンドラを降りたソウに向かって声がかけられた。


「お待ちしておりました、ソウ様」

「ウォークか。先日ぶりだな」


 そう言って歩み寄ってきたのは、領主の使用人であるウォークであった。

 彼はソウの前で整った礼をすると、先日同様に領主の館まで先行していった。

 門の前に到着すると、ソウは門番へ会釈をする。向こうは敬礼で返してくれた。


「では、ソウ様。アロス様とダーロン様を呼んで参りますので、暫しの間こちらでお待ち下さい」

「承知した」


 頷きを返すと、ウォークは館の中へ駆け足で入っていく。その様は走るというより、地面を滑っているような動きだった。やや前傾姿勢で移動するそれは何処となく忍者を彷彿とさせた。

 領主たちがやってくるまで暇だったので、門番たちと適当な雑談を交わして時間を潰すことにした。

 そうして雑談に花を咲かせていると、館の入口から2人が出てくるのをソウは確認した。


「おや、おいでなすったようで」

 

 ソウに釣られて門番も館の方へ視線を向けた。


「そのようだ。世間話に付き合わせて悪かったな」

「いいってことよ。なんせ、常時ここで張ってっから暇でよ」

「それは平和でいいではないか」


 異常事態が起きたときに彼らは必要とされるが、そう頻繁に異常など起きはしない。

 毎日ここで見張りをするのは退屈であろうな。

 とはいえ、それなりに給料はいいようなので辞めるという選択は無いらしいが。


「待たせたの」「待たせたね」


 二人は遅くなったことを謝罪してくるが、それほど待っていない気がする。

 門番との会話が弾んだからだろう。不思議と時間が経っていたようだ。


「いや、彼が話し相手になってくれたので問題ない」

「僕が言うのも何だけど、君は本当に物怖じしないよね」


 ソウの返しにアロスは苦笑しつつ言った。

 現実であればこれほど不遜な態度を取ることはしないが、これはゲームであり一種のロールプレイを貫いているだけだった。それに一応は冒険者の肩書があるので、それを笠に着て振る舞っているに過ぎなかった。


「お望みなら対応を変えますが?」

 

 試しに丁寧な言葉遣いで尋ねるが、それにアロスは微妙な表情をした。


「あー、いいや。何か急に別人に見えてきた」

「面白い奴じゃのう」


 何が面白かったのか、ダーロンは頻りに笑っていた。ソウたちは互いに顔を見合わせると首を傾げたのだった。

 こちらを見たアロスは、ようやくこちらの変化に気付いたようだった。


「装備を変えたようだね。それが戦闘向きの防具かい?」


 アロスはソウの新装備をぐるりと見渡した。

 今のソウの装備は旅立ちセットではなくなっていた。


・ブルーベアースタイル+4

 

 DV:510

VIT:20


【水耐性】水属性の攻撃に対するダメージを軽減

 

 製作者:スルメイカ

 

 この装備は頭を除く4スロを埋めてセット装備となる。頭は空いているものの、別の装備は不可となっている。

 見た目は素材となっているワイルドベアを意識してか、太めでごわごわした手足を連想させる籠手と長ブーツでまとめられている。腰はワイルドさを出したのか、短パンにパレオに似た布が巻き付けられてる。上半身はこれまた毛皮をふんだんに使った鎧だ。全体のメイン色は茶色で、所々に水色のラインが通っていた。ここに水属性らしさが感じられる。

 【未来視】の結果が不穏過ぎて、今回はスルメイカに無理を言って何とか間に合わせてもらった。お値段なんと60万マーニ。この3日間全て金策につぎ込んだが、結局半分にも満たなかった。しかし、緊急性が高いため己のプライドを捻じ曲げて残りは後日支払いという形で受け取った。


「では、行こうかの」


 勝手に落ち着いたところで、ダーロンはひとり歩き出してしまった。そんな彼の背中をソウとアロスは一瞥し、揃ってやれやれと首を振った。本当にマイペースな人だ。

 先行するダーロンの後を二人は追った。

 領主の館から北上していくこと数分。人通りのない場所にソウたちは立っていた。


「ここは?」


 目の前には水路があるが、両脇は壁でどう見ても行き止まりである。

 

「この先におるのじゃよ」


 そう言うと、ダーロンは胸元に手を突っ込むと引っ張りだした。出てきたのは銀チェーンのネックレスだ。その先には青色の石がついており、月明かりに照らされて鈍く光っていた。

 彼はその石を両手で掬うように持つと、その場で片膝をついて水路に向かって掲げた。

 すると、ダーロンたちの足元が光り輝き、青い線が動いていた。それを目で追っていると、次第に大型の魔方陣が形成され、3人を囲んだ。

 そして、ソウの視界が一瞬ブラックアウトを起こす。それは一瞬のことであり、すぐに視界は元に戻った。

 しかし、映し出された光景は水路ではなく、ごつごつとした岩肌であった。


「ここは……」

「ここが、水精霊のおる場所じゃ」


 ダーロンが告げる。

 なるほど、転移か。ともなると、いくら街で入り口を探しても無駄なわけだな。本当に、領主へ話を持ち掛けて正解であったな。

 ソウは岩肌に触れる。装備のため感触は分かりにくいが、かなり硬い。また、所々に生えているのは馴染みのある水晶であった。紫に輝くそれが、この空間の主な光源であった。

 そして、ソウが視た結果と似ていることから、【未来視】の裏付けが取れたことになるだろう。


「となると、災難はこれからだな」

「うん? 何か言ったかい?」


 これから起こるであろう面倒にため息を吐くと、その様子を見ていたアロスが首を傾げていた。

 

「ほれ、さっさと向かうぞい」


 気付けば、遠くからダーロンの声が反響してきた。

 またもや勝手に先行していらっしゃる。本当に元気なご老体だ。

 アロスを見ると、彼も苦笑を漏らしていた。蘇生薬によって活力も回復してしまったのではないだろうか。そう考えると、少し申し訳ない気もする。


「大丈夫だよ。昔の父さんを見れて、僕としては安心だ。正直、いつお別れが来てもおかしくない状況でもあったしね」


 こちらを見透かしたかのような返答に、ソウは呆れた。

 

「気遣い、感謝する」


 もう、突っ込まないと決めたので素直に礼を言って、二人は歳の割にはしゃいでいるダーロンの背中を追っていくのだった。

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