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045 不安の払拭

 ログインしたソウは、早速領主の屋敷へと向かった。

 領主の屋敷は北側ということで、占いギルドから近い位置にある。そのため、いつもよりゴンドラに乗っている時間が短かった。

 僅かの間で到着すると、漕ぎ手にお礼を言ってゴンドラを降りる。

 そんなソウの元へ、若い男性が声を掛けてきた。

 

「渡り人のソウ様でいらっしゃいますね? 私はアロス様にお仕えしております、ウォークと申します」


 そう言って、恭しく右手を胸に当ててお辞儀をしてきた。

 黒いスーツ姿で執事服らしくはあるが、名乗りからして使用人辺りであろう。


「ああ、ソウという。それで、君が館まで案内してくれるのかね?」

「はい。昨日お越しになられてはおりますが、アロス様が一応の為にと私を派遣した次第でございます」


 うろ覚えではあるが一応道は把握しているつもりだったし、こちらにはマップがある。そのため道に迷うことはない。

 しかし、気を利かせて道案内を付けてくれたようなので素直に同行させて貰おう。


「では、よろしく頼む」

「かしこまりました。では早速参りましょう」


 ウォークの後に続いて道を進んでいく。

 暫く歩くと、大きな屋敷の姿が目に入ってきた。


「そう言えば門番が居たのだったな」


 昨日はダーロンとともに来たためスルーしていたが、ウォークが来なければここでひと悶着あったかもしれんな。

 鉄格子の大きな門を難なく通り抜け、白く大きな屋敷の中へと入る。

 扉を潜ると、両手にずらっと使用人たちが並んでおり、一糸乱れぬ動きで礼を取った。


『いらっしゃいませ』


 ここまで歓迎されるとは思っていなかった。

 ソウが面を食らっていると、奥から笑い声が聞こえてくる。そちらを向けば、何とも前領主とは思えない麻の服を着たダーロンの姿があった。


「いやはや、驚いてくれたようでなによりじゃ。皆、ご苦労だった。下がって良いぞ」

 

『畏まりました』


 ダーロンの一言で、使用人たちはそれぞれの持ち場へ散って行く。その姿すら統一感があって、見ていて清々しいものがあった。

 

「ウォーク。お主も戻って良いぞ」

「畏まりました。では、ソウ様、失礼いたします」


 どうやら彼ともここでひとまずお別れようだ。


「ああ、助かった」


 彼は最敬礼を取ると、その場を去って行った。

 ただの渡り人に対して寛大過ぎやしないかね?


「さて、ソウよ。部屋に行こうではないか。もう少しすればアロスの仕事も落ち着こう。それまではこの老い耄れの相手をして貰おうではないか」

「ああ、承知した」


 それから待合室に移動して、暫くはダーロンと雑談をして過ごした。

 おかげでアジーラについての理解が深まったものの、ゲーム攻略という面から見ると関係が薄い気がする。しかし、こういう設定は何がキーになるか分からないので知っておいて損はない。

 そうして時間を潰していると、


「待たせたね」


 待合室にアロスが入ってきた。マナーレは一緒ではないらしい。

 疑問が顔に出ていたのか、アロスは苦笑した。


「妻は精霊に会う必要が無いからね。一応そう言う制約みたいなので、渋々納得してもらった」

「うむ。精霊と面会できるのは基本領主だけじゃ。お前さんは今回の働きがあったから特別じゃぞ」

「そうなのか」 


 領主を通してしか精霊と面会出来ないのであれば、自力では辿り着けなかった可能性があるな。やはり思い切って蘇生薬を使用したのは正解だったか。


「それで、精霊の元へ向かう日程についてなのだが、ソウ君は渡り人ということだったね?」

「ああ」


 アロスの確認に、ソウは頷いた。


「そうなると、こちらで過ごす時間に波があるのではないかね?」

「残念ながらそうなる。基本的に都合はそちらに任せるが、場合によっては移動中に睡眠を取る必要が出てくるのでそれを了承してもらえればこちらとしても助かる」


 時間帯によってはログイン自体出来ない可能性もあるが、出来るだけ合わせたいところだ。

 こちらの事情を告げると、アロスは一度頷いてダーロンを見た。


「父さん。水精霊のいる場所なんだけど、間違いないんだよね?」

「うむ。相違ない」

「じゃあ、当初の予定で問題なさそうだ。ソウ君、3日後の夜にまたここに来てもらえないだろうか?」


 3日後か。俺の予定は……大丈夫か。

 

「うむ、問題ない。しかし、夜でいいのか?」

「大丈夫。割とすぐに行けるようだし、それほど長く滞在しないだろう。きっと驚くよ?」


 なにやら含みのある笑みを浮かべて、アロスは言った。

 まあ、当日になれば分かる事であるから今は追及する必要はないか。

 思ったよりもあっさり決まったので、ソウは懸念事項について切り出した。


「ならばそれで決まりだな。話を変えるが、既に出した専用依頼についてはどうする予定なのだ?」

「それについては結論が出ていてね。本来の目的は達成したが、万能薬は所持しておいて損はない。もし渡り人たちが持ち込んでくるようなら、それ相応の報酬を払うことにしたよ」


 こちらが予想していたことを領主も考えていたようで、ソウは内心で胸をなでおろした。懸念事項のひとつが解消され、少しだけ身が軽くなる。とはいえ未だ多くの爆弾を抱えた身であり、それがいつ起爆するのかは未知数だ。


「あまり深くは聞けないけど、まさか占い師の君が万能薬を持ってくるとは予想してなかったよ」


 それは俺も予想外だった。


「何にしても礼を言うよ。これで僕の不安は無くなったからね」

「こちらにも都合があったので、ついでとは言え解決して何よりだ」

「大したもてなしも出来なくて申し訳ないが、時間だ。済まないが僕は仕事に戻らせてもらうね」


 やはり領主というものは多忙なのだな。

 話し合うべき内容はすでに終えたので、こちらとしても問題ない。

 互いに挨拶をして、ソウは領主の館を出た。

 出るときにダーロンが寂しそうな表情を浮かべていたのだが、話し相手は他を探して欲しい。

 それからソウはまだ見ていなかった装備屋に向かうべく、船着き場へと歩いてった。



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