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042 油断禁物

 ギルドで換金を終えてクエストを追加受注したソウは、西のフィールドへとやってきた。

 東よりも多くのプレイヤーを見かけるのはクエスト報酬の合計額の良さが関係しているのだろう。


「しかし、こうして見ると本当にEXジョブ持ちを見ないな」


 やはり、よく見かけるのは基本職のジョブである。ソウ自身、EXは戦闘向きでないことは理解しているが、それにしたってこうも見かけないとは思わなかった。

もし公式からジョブ取得の統計が出てきたら、面白い結果になっていることだろう。


「こうしてソロで狩りを続けているといつか目立ってしまうな」


 ソウはなるべく目立たないように、奥まった場所へ移動すると、敵を探した。


「おっ」


 運のいいことに、草むらで昼寝をしているワイルドホーンを発見。

 先手必勝ではあるのだが、こうも気持ちよさそうにしていると少し罪悪感が湧いてくるな。 

 ソウは新樹の短剣と水晶玉を取り出すと、ぐるりと背中側に回る。攻撃しても反撃を貰いにくい位置に居なければ、長い角の餌食になるだけだ。

 無防備な背中へ、ソウは短剣を突き刺した。

ぐにゅりと弾力のある肉の感触と共に、出血に似た赤いエフェクトが宙に散らばった。


「ウェエエ!」


 ワイルドホーンが飛び起きたため、ソウは即座に短剣を引き抜いて後退する。

 クリティカルが入ったのか、前よりHPが削れていた。

ワイルドホーンが闇雲に旋回したことで、遠心力を乗せた立派な角がソウの鼻先を掠めた。


「あぶな!」


 あと少し退くのが遅れていたら頭を払われていたことだろう。

 頭を振って落ち着いたワイルドホーンはこちらを認識した。すると、早速その巨体で突進を仕掛けてきた。

 ソウは慌てることなく、僅かに左へズレるとその場で跳躍した。右手すれすれに角が通り抜け、ソウは迫る頭を踏み台として更に宙へ舞った。それによって突進を回避し、背面へ着地する。

 ズドンと、木を揺さぶる大きな音が背後から聞こえてきた。

 振り返ると、太い木の幹に自慢の大角を突き刺して居るではないか。かなり深く刺さったようで、頻りに頭を振ってどうにか木から抜け出そうと試みているが、抜けずにいるようだ。


「素直に身を引けばいいものを……」


こういうところはゲームのAIなのだな、とソウは実感する。ゲームの敵は鈍感に設定されがちだ。例えリアルに酷似したWEOであっても、ゲームであると再認識出来る部分のひとつであった。

 その好機を逃すことなく、ソウは【剣の舞】を起動して無防備なお尻をザックザクと切っていく。

すると、バキッという嫌な音とともに、ソウは右側の宙へ飛ばされていた。


「がはっ!!」


 グワンと脳が揺れ、衝撃で視界が一瞬ブラックアウトした。

 ゴム毬のように何度か地面をバウンスし、フィールドの壁である木によってその身が受け止められた。

 

「つぅ…… 油断した」


快適さ故に途中から周りへの警戒を怠ってしまった。

 HPを見れば、一気にレッドゾーンへ突入している。

 今もやや視界が揺れているが、少しすればピントが合って来る。すると目前では物凄い勢いで木が近づいて来ていた。


「って、木ではない!」


 ソウは満身創痍の身体に鞭打って、その迫る木を避けた。

 ズザザザと地面を滑る音が木霊する。


「まさか、木を折るとは思わなんだ」


滑りの止まったワイルドホーンは、勢いをつけて此方へ身体を旋回させる。

 現在、ワイルドホーンの角には根っこ上で折られた木が突き刺さっている状態だ。

 あれほどの重量が前方にかかっているというのに、ワイルドホーンの移動速度が変わらないとはこれ如何に?

 突進される前に青ポーションで回復しておく。流石にこの状態で、ジャイアントキリングを維持する勇気は無かった。

 スライドを終えてこちらへ身を転じたワイルドホーンは、大きく仰け反ると着地と共に頭を振った。すると、刺さっていた木がするりと抜けてソウの元へと飛んできた。


「そんなコントロールいいのかね!」


 斜めに飛んできた木の隙間目掛けて移動すると、しゃがんでやり過ごす。

 背後では大きな音を立てて、木がポリゴン化していった。

 それで終わることなく、ワイルドホーンの突進がやってきている。

 さきほどの要領で躱すが、やはり敵の知能は高いらしい。少しずつ曲がってフィールドを大回りに動くことで、こちらが攻撃する隙を無くしてきた。


「こうなると隙を付けなくなるのだな」


 ソウは水晶玉を仕舞うと、イベントリから御用達の毒袋を取り出した。

 敵が突進を仕掛けてきたタイミングで、毒袋を顔面目掛けて投げつけた。ワイルドホーンは避けることもなく顔で受け止めた。

 ソウは左に走ることで突進の範囲から脱する。

 ワイルドホーンも無論ソウを追いかけるべく方向修正をするのだが、毒によって身体が思うように動かないため、またもや木に激突してしまった。

 こうなってしまえば、もうソウにとって怖い相手ではない。ひたすら動きの鈍い背中へ連撃を加えていく。

 そうして、ワイルドホーンのHPを削り切った。

 巨体がポリゴン化され、霧散する。

 

「ジョブレベルが上がったか」


 他にも、幾つかスキルレベルも上がったようである。

 ソウはコンソールを開いて、己のステータスを確認した。

 

 

・名前:ソウ 種族:ヒューマン 所持金:44100マーニ

・ジョブ:占い師lv24 盗賊lv13

・HP158 MP70

・STR:35 VIT:10(+3) AGI:46

・DEX:41(+10) LUK:23(+5)

・SP3

・EVP:0

・スキル 【未来視】lv2 【回避】lv9 【観察眼】lv6 【捨て身】lv5 【見切り】lv9 【跳躍】lv6 【滞空】lv4 【剣の舞】lv3

・称号 《ジャイアントキリング》 

・加護 創造神の祝福 風精霊の加護

・武器:水晶玉 新樹の短剣

・防具:旅立ちセット


 

「初期に比べると、大分成長したな」



 今回のSPはSTRに2、AGIに1振っておく。見れば見るほど、紙装甲である。水晶玉が無ければここまで上手くやって来れなかっただろう。

 本来の用途とは違いそうだが、これはこれでひとつの楽しみ方である。

 コンソールを閉じると、ソウは次の獲物を探しに散策を始めた。


「レッドヘロンを拝みたいところだな」


 それから適当に狩りを続けるも、レッドヘロンと遭遇することなく一日を終えたのだった。



 いつものラウンジで、琢磨たちは作業の傍ら雑談をしていた。


「えー、蒼ってば今度は精霊さんのクエストを受けてるわけ?」

「どうやらそうみたい。アジーラに居るって噂の水の精霊を探してるみたいだよ」

「あれって、都市伝説みたいなもんじゃなかったか?」


 購買で買ってきたスティック菓子をかじりながら、康太郎は言った。

 横から手を伸ばして、啓子は一本摘むと、ぽりぽりと食べた。


「せめて、何か言ってから食えや」

「いただきました」


 悪びれもせずに宣う幼馴染に、康太郎は渋い顔をしただけだった。


「それでいいのか」

「今更だ。それに一本食われたからって文句を垂れるほど狭心でもないんでね」

「じゃあ、もう一本いただきます!」

「それで終いな!」


 やれやれ、と横で黙々と作業をしていた鈴香は呆れて首を振るだけだった。

 鈴香も、水精霊の噂はよく耳にしていた。アジーラの街が繁栄したきっかけであり、住民たちの守り神的存在。漕ぎ手と雑談をしていると、よく耳にする話題だった。

 しかし、鈴香が聞く限り水精霊の居場所を誰一人知らないらしいのだ。掲示板でも密かな話題となっているが、情報は未だ現れず。だが、秘匿者がいる可能性は十分に考えられる。先週になって精霊のヘルプが解禁されたことが証拠であろう。精霊の情報はアジーラで初めて明かされたもので、聞いた時はそれは驚いたものだ。

 それでも、アジーラが解放されてからそれなりに経っての解放ということで、SNSでは大分騒がれたものだ。

 

「それにしても、精霊の情報ってほんと出てないわよね」


 うがー、と両手を伸ばして啓子が机に突っ伏した。


「それな。ここまでボロが出て来ねえなんて珍しいんじゃね?」

「余程秘匿が上手いか、SNS周りを避けてるか、かな」


 琢磨の推測は的を得ていた。少なくとも情報持ちである蒼はSNSを避けているひとりである。

 

「課題終わったから、私は帰るわね」


 そう言って、鈴香は帰宅の準備を始めた。

 それに対して、啓子が露骨に嫌そうな顔をした。


「えー、すずちゃん帰っちゃうの?」

「啓子、次講義でしょう? 私は残る意味がないもの」

「だね。じゃあ、また後で」

「先にログインしててくれ。講義終わったら速攻で向かうからよ」

「ええ。時間まで適当に進めておくわ」


 そうして、彼らはその場で一度解散したのだった。




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