036 狩場を探して
「やりづらいものだな!」
ソウは獣骨の直剣を振りかざし、薄い羽を切り飛ばした。断片から緑色の体液を模したエフェクトが飛び散り、絶ち切られた羽は空中で霧散した。
片翼を失ったトンボは飛ぶことが出来ずに地面へと落下する。こうなってしまえば此方のもので、ソウは動きの鈍いトンボの頭へ直剣を振り下ろして半分に切り裂いた。それが致命傷となり、ポリゴン化して光を放ちながら霧散した。
しかし、接敵を告げるアラートは未だに鳴り続けている。
「さて、次だ」
・ウォータードラゴンフライ lv22
こいつの攻撃は単調で、突進による噛みつきか尻尾での叩き。後は麻痺を付与する粉を撒いてくる事くらいだ。
粉にさえ気を付けて避けさえしていれば向こうから勝手に近付いてくれるので、比較的倒しやすい相手と言える。
リーチの確保もあって、今回は直剣を使っていた。
「次!」
コツを掴んだため、討伐の効率が上がっていく。
しかし、同レベルが相手だと経験値効率はイマイチだな。此処で切り上げるか。
ソウはトンボ達に背を向けるとフィールドを全力で走った。暫くして、かなりの距離を取れたため接敵のアラートが解除された。これが接敵範囲から抜ける為の常套手段らしい。雑魚敵であれば囲まれても最悪こうして逃げ切ることが出来る。これはボス戦で適用されない仕様であった。
ソウは振り返り、敵が追ってきていないか一応確認。トンボが飛んできている様子は無さそうだ。
「撒いたようだな」
全力疾走によって乱れた息を整えると、次の敵を探しに散策を始めた。
できればまだ見たことのない相手と戦いたいものだ。
その願いが聞き届いたのか、アラートが響いた。
対象は……あいつか。
遠くの方で名前とレベルが表示されているのを発見。
・ウォーターベア lv24
今度は少し上の相手であるが、望むところだ。
「2レベ差であればちょうど良さそうだ」
ソウは武器を新樹の短剣へシフトする。また、力業への対策は無論水晶玉だ。
見るからに力の強そうな相手だが、変異体程ではないだろうからソウのSTRでも十分に弾けそうである。
「グウォオ!」
「ふむ、そちらも気合いは十分のようだ」
立ち回りはキメラを参考にすればいいだろう。
太く逞しい腕が頭上より迫っているが、ソウは水晶玉を腕に当てて軌道を僅かに左へ逸らす。腕はかする事無く地面を叩きつけた。
「そんな呆然としないでくれたまえよ」
熊にとって当たりもしないのは想定外だったのだろう。硬直気味の熊へ容赦なく短剣で切りつける。
HPの減りは……5%といったところか。十分過ぎる。
それからも熊はソウへ肉薄して攻撃を試みるが、どれもかわされるか弾かれてまともなダメージが入らない。
「ムシャクシャする気持ちはよく分かるが、そのせいで攻撃が単調になるのはいただけないな。飛び道具をもって出直してきたまえ」
熊の背後へと回ったソウはがら空きの背中へ短剣で何度も切りつけた。
HPバーが消え、熊もまた霧散していった。
「まだレベルは上がらんか」
熊は戦いやすく、落とす経験値もそれなりだ。周回する旨味は十分にある。
「暫くはここでレベル上げだな」
ソウは次なる獲物を求めてフィールドを巡るのであった。
*
「おらぁ、こっちだよ!」
“MAX”タロウは大剣を振り下ろし、トガケの頭蓋をかち割った。クリティカルによって、トガケは跡形もなく霧散していった。
「次々!」
・ランドリザード lv36~39
トガケの群れはまだまだ迫ってくる。
大群に向けてハヤブサは弓を斜め上に構えた。
「【矢の嵐】!
弓なりに飛ばされた矢は1本。しかし、頂点を過ぎた辺りで矢は複数の分身を作り出す。それらは重力に従って、トガケたちに一気に降り注いだ。
唐突な矢の雨によって、瞬く間に砂塵と消滅のエフェクトが重なり弾幕を作り出した。
「CTと硬直入ります」
「おうよ!」
「バフを掛け直すわ」
「ありがとうございます!」
流石に全ての討伐は出来なかったようで、弾幕からトガケ達が抜けてきている。それらは飛んでくる火の玉によって駆逐されていった。
それはトーが持つ杖から放たれたものだった。杖の先に炎の玉が浮かび、放たれる途中で3つに分離していた。
「うん、【連続詠唱】は使い勝手がいいなぁ」
「それっていくつ重ねられるのさ?」
「最大3」
「消費MPは?」
「本来のMP消費より1割減」
「わーお、地味にお得!」
「便利だけど消費増えるなら使うの考えたよね」
二重の遠距離攻撃を潜り抜けてきたトカゲたちをタロウとスモポンの近接組で処理していく。
コンソールを開いて後ろで戦況を見ていたベルカは、声を上げた。
「あと120!」
「よっしゃ、後半戦じゃあ!」
クエスト:トカゲ大発生は250体のランドリザードを討伐するというシンプルながら骨の折れるものだった。必須条件はパーティーメンバー五人以上、メインジョブレベル30以上という縛り付き。報酬は普通にランドリザードを倒すよりも少ないというおまけもある。
ではなぜクエストを受けたのか。それはクリア後に出現するボスのためだった。
「あっ、トー! 抜けたのお願い!」
「はいはい」
やはり戦線でひとり抜けるのは辛く、前衛でも全てを裁き切れなかった。
トーは前衛二人の抜けた相手を中心に魔法で焼いていく。
「お待たせしました! 戻ります!」
大技の硬直が解けたハヤブサが戦線に復帰したことで、討伐速度が一気に加速した。近い奴らを処理すれば少しだけ楽が出来る。粗方減らしたところで、フィールド外からおかわりがやって来た。
「【オールヒール】」
ベルカが錫杖を掲げると、五人の身体が緑色の光に包まれた。減ったHPがほぼ全快する。それにより、トカゲ達はベルカに向かって進行を開始したようだ。
「いいヘイト管理ー」
「ほら、焼かれる前にずらかるぞ。あれに巻き込まれるのはごめんだ」
「はいはい、わかってますよーだ」
タロウとスモポンは射線から外れる位置へと移動した。ベルカの前に並んで立つトーとハヤブサは、迫ってくるトガケ達へ各々の武器を向ける。
「【双射】!」
ベルカはトーの肩に触れて、バフを付与。
「【マジックアップ】」
「ありがとう。【フレイムランス】!」
本来6本の【フレイムランス】は【連続詠唱】によって3倍となる。トーの前に炎の18本の槍が出現した。
「ファイア!」
掲げた杖を振り下ろすと、槍は一直線になったトカゲ達を丸焼きにしていく。
「あと4回行くよ!」
更に槍が追加されて放たれた。計80本の槍によって着弾の爆発と砂塵、死亡エフェクトが重なり盛大な弾幕が形成された。
「あと11」
「んじゃ、片しますか」
「だね!」
全員で残りをサクッと討伐し、クエストクリアのアナウンスが響いた。
大群を相手に切り抜けたことで安堵したときだった。
アラートが鳴り響き、ズシンという音とともに地面が揺れる。音源を辿ると、フィールド外から大きな影がこちらに向かってゆっくりと歩いてきているのが分かる。音が近くなり、それの全貌を見ることが出来た。
身長10メートルは優に越えているだろう。二足歩行の大きなトカゲであった。土気色の肌はゴツゴツとした岩のようであり、尻尾はもはや岩が連結されていると言って過言ではない。
「ゴォォォ!」
咆哮によって地面が波打った。
・ロックリザード亜種 lv50
これが、彼らの求めていた相手である。
「うおお、でけーなぁ」
「まさに怪獣」
「ゴ◯ラみたいですね!」
ロックリザードは掬い上げるように腕を地面に擦り付ける。
すると、タロウ達に向かって抉れた地面の破片が飛んできた。
「うぉっ! まじかよ」
「【聖壁】」
咄嗟にベルカは光の壁を生成し、眼前で破片を塞き止めた。
「ベルちゃん、ありがとっ!」
「そんじゃあ、行きますか!」
コキっと首を鳴らしてタロウは飛び出した。
「ああ、もう! この早漏め、ちょっとは落ち着きなさい。行ってきます!」
「全く…… 気を付けて」
幼馴染たちの格上との戦いが始まったのだった。
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