015 幼馴染たちの道中
ログインしたソウはまだ見ぬ西の森を訪ねた。
この森には墓地が置かれており、夜になるとアンデットモンスターが出るらしい。
今は夕方ということでそれらしい影はまだない。
これは先ほど街のNPCから聞いた話だが、どうやら街には結界が張られているようでアンデットが侵入できないようになっているとか。
全然気が付かなかった。
結界は古代の遺産らしく、人が感知することは難しいとのこと。
「今はフレーバーと思っておけばいいな」
後にイベントが発生しそうな内容だが、それはそれとして置いておく。
西の森は意外と人の手が入っているようで、かなり道が整備されている。その分モンスターの発生も少なく狩場としては不向きらしい。
ソウは西の森には湖があるとの情報をNPCから得たため、カエル系のクエストを終わらせられるのではという考えのもとこちらを狩場に選択したのであった。
西の森に入ってからはとりあえず舗装されている道を進んでみた。しかし、噂通りその間は特にモンスターと遭遇することなく西の森エリアを抜けてしまいそうになった。
ここを進むとアジーラへ続く道に出るらしいが、ソウはまだモノシスから出るつもりはない。
引き返そうかと思い、ふと視線を横に向けると木々の隙間から光が漏れていることに気付いた。それはゆらゆらと揺れており、また霞んで見て取れた。
「もしや、この先にあるのか?」
気になったソウは、脇道の草木を除けながら道なき道を進んでいった。すると、ソウの目の前に広がったのは水面に光を反射させた大きな湖だった。
「見つけたぞ、水辺!」
北の泉とは違い約三倍の面積を持っていたが、水面から岩が少し出ている以外は殺風景な印象を受けた。また、水際には目的のマッドフロッグも発見した。
更に、例の角馬の姿もあった。
「クエストを受けてくればよかったな」
水辺の情報ばかりに気を取られていたのでホーンホース討伐の発注を忘れていた。
こいつは水に浸かるのが好きらしい。覚えておかねば。
湖の浅瀬にある岩にはブラックタートルの姿もあった。精霊の森と同じく、岩部に集まって天日干しをしているではないか。
「本来であれば、ここで使いクエを済ませられるわけだな」
まんまとご老体の罠にはまったわけだ。その分の見返りはあったので今となってはどうでもいいことではあるが、少しばかり釈然としないものがあるのも事実だ。
ソウは短剣と水晶玉を取り出すと、近くにいたマッドフロッグと戦闘を行った。
ここらのレベルは5。格下であった。
先の戦闘でレベルアップをしたこともあって、STRを上げている。そのおかげでここの戦闘は苦ではなかった。
マッドフロッグを10体ほど乱獲したところで、水辺にいたモンスターたちはどこかに消えていた。唯一残っていたのはホーンホースだが、奴はカエルが狩られる中湖で悠々と過ごしていた。
ソウのビルドだと水に入っての戦闘は自身のアドバンテージを殺してしまうので危険である。向こうもそれが分かっているからこそ、ああやって水浴びに精を出しているのだ。泉の奴もそうであったが、奴らはこちらに警戒心を持たぬのだろうか?
そろそろ日が落ちてくる。そうなればアンデットの相手をしなくてはならないのが厄介だ。
「ふうむ。そろそろフェリアのところへ行くとするか」
イベント・クエスト両方に終わりが近づいている。早いこと済ませなくては。
西の森はそれほど実にならなかったものの、生息しているモンスターの情報がわかっただけでも十分だった。
次はあの馬を狩りたいものだな。
ソウは早々に切り上げると、北の森へ移動したのだった。
*
女神像の上部から水が噴き出し、重力に従って受け皿へと落ちていく。
宙を流れる水が夕日に反射して、キラキラと輝いていた。
それと同じように、長い黒髪を薄らと輝かせてそよ風に揺られている。
ベルカは、コンソールで現在時刻を見る。集合時間には少し早いが、待っていれば来るだろう。
確か今日はタロウがバイトで来られないのよね。
その代わりというわけではないが、ハヤブサが参加すると聞いている。
彼はレベルがまだ一桁と聞いているので、近場で彼のレベルアップを行ってから進む方向で話が進んでいた。
ベルカはぼんやりと街並みを眺めた。水の都というだけあってあちこちに水路があり、小さな船が細い水路の上を進んでいる。これがこの街の主な移動手段だ。モチーフはストックホルム辺りだろうか。
行った事が無いのでどこであっても構わない。ただゆったりとした雰囲気のこの街がベルカは好きだった。
「暫くは戻って来ないかしらね」
これからサートリスに向かうのだ。実は先日に旅立っていたのだが、道中のモンスターが異常個体であったために初見殺しにより全滅してこの街にリスポンしてしまったのだ。
昨日は仕方なく街でアイテムの補充をして終わりにしたのだった。
「ベルカ、おまたせっ!」
「お待たせ」
「お待たせしました」
少しして、スモポン、トー、ハヤブサの三名がやってきた。
「少し遅かったわね。どうしたの?」
「ベルカ聞いてよ。スモポンが課題を終わらせきれなくてさ」
「もう、その話はしないでって言ったじゃない」
「スモ先輩、お待たせしたんですから理由はきちんと言いませんと」
「はいはい、いいわよ。もう行きましょう? スモポンがすねる方が面倒よ」
それもそうだと頷くも、スモポンのみ納得できないと愚痴っていた。スモポンのボヤキは綺麗にスルーされ、一行はサートリスへと続く道を進むのだった。
10分ほど歩いたところで、ごつごつとした山道に出た。目の前には急な坂道が続いており、こんなところで戦闘をしようものなら落下のリスクを背負うことになる。
「広い場所に出るまではベルカのバフを使おうか」
「そうですね。【瞬足】」
【瞬足】は自身もしくはPTメンバー全員にAGIを上昇させるスキルだ。
「んじゃ、さっさと抜けますか!」
「気をつけなさいよ」
「わかってるって。今度はよそ見しない」
珍しいキノコを道中で見つけて追いかけた結果、崖が崩れて死んだこともあるのだ。それで落下死した経験が幾度となくある。運がいいというのはメリットだけではなく、悪い方にも作用する。内情を知らなければ、ベルカたちも羨望の眼差しでスモポンを見ていたことだろう。それなりに彼女は対価を払って生きている。
不意打ちで起こるためにこちらとしても用心しておかなくてはならない。
「う、うーん? あ、先輩方マズいです! チビテラが来ます!」
坂を駆けあがっている最中、上空を見ては首をかしげていたハヤブサが接敵したことを告げた。
その声に、三人は己の武器を取り出して構える。しかし、細く急な場所で戦闘をするのは流石に危険であった。
「走るわよ!」
「うん」「がってん!」「はい!」
4人は安全な広さのある場所まで駆け上がる。途中でハヤブサが弓を使い威嚇射撃をすることで接敵させずに距離を保つことができた。
休憩スペースのような広く平らな場所にたどり着くとスモポンとハヤブサが前に出る。その後ろでトーが木製の杖を、さらに後方でベルカが錫杖を構えた。メインアタッカー兼肉盾のタロウがいないため、この布陣となっている。
敵はプテラノドンを小さくして、ドラゴンチックな首を持つ、プチドラコと呼ばれるモンスターだった。レベルは33。スモポンたちと同レベルであった。愛称はチビテラ。
「今回はトカゲ相手だから、火でいいよね!」
スモポンはインベントリから火炎瓶を取り出して投げつけた。
「【ファイア・ボール】」
「【双射】!」
弓を構えたハヤブサと杖を掲げたトーがスキルを放つ。スキル【ファイア・ボール】は字のごとく、MP3を消費してこぶし大の炎を飛ばす魔法だ。杖の先から炎が発生し、火炎瓶に向かって飛んでいく。果たして、プチドラコの前で小さな爆発が起きて弾幕が張られた。
引き絞った弓から放たれた矢は2本だった。スキル【双射】はMP2を消費することで2本同時に矢を射出できる弓士が序盤で入手できるスキルだ。このスキルは一本辺りの威力が0.7倍になる代わりに矢の消費が1本でいいというメリットがあり両方ヒットすると単純計算1.4倍になるため、コスパが良く重宝されるスキルだった。正確には0.7倍の攻撃に敵の防御値を引かれた数値が入るため1.2倍ほどだがそれでも得であることに変わりない。
「ギョエッ!」
弾幕から突如現れた矢の片割れはプチドラコの眼球を貫通し、HPの1割を減らした。
「ナイスクリティカル!」
急所に当たりやすくなるスキル【鷹の目】、弓操作に上昇補正が入る【精密射撃】の助けもあって、ハヤブサは弱点攻撃が得意であった。何気に貴重なダメージ元だった。
「ギャ」
プチドラコが大きく翼を振ると弾幕が吹き飛ばされ、さらに透明な刃が飛んできた。
「【聖壁】」
それを遠目に見たベルカがぽつりとつぶやいた。
MP4を消費することで好きな対象の前に光の壁を生み出すスキルだった。
ハヤブサの前に光の壁が展開される。壁の出現にハヤブサが驚いていた。さり気にハヤブサの背後にスモポンも入ってきている。
光の壁に阻まれて風の刃は消滅した。
僧侶であるベルカは攻撃魔法を持たない。その代わりに仲間の回復や支援を担当している。
空のモンスターであれば、メインアタッカーは必然と弓士のハヤブサと魔法師のトーが担う。今回は盗賊であるスモポンもアイテムを駆使してサポートに回っている。
彼らの動きは盤石であり、わずかな時間でプチドラコのHPを削り切ってしまった。
「はい、いっちょ上がり!」
「わあ、レベルが一気に上がりました!」
「ハヤブサはまだ1桁だから、経験値おいしいよね」
「うう、申し訳ないです」
「力になってくれているから大丈夫」
寄生気味になっていると思っているのか、申し訳なさそうに項垂れるハヤブサ。とはいえ、彼らが言うように、レベルが低くともプレイヤースキルは十分で、彼らとともにいて全く違和感がない。そもそも、長年遊んできた仲でそんなことを今更気にする者などいなかった。
「ですね。さて、進みましょうか」
ベルカの号令で一同は登山を再開するのだった。
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