013 装備は小まめに点検しましょう
戦闘することなく森を抜けたソウは無事装備屋へと辿り着いた。
扉をくぐって室内に入ると、今回はプレイヤーが店番をしていたようだ。名前は……オルグというのか。テレビの敵役でそんな名前の集団がいた気がするな。
そんなことを思いつつ、ソウはカウンターに近づいていく。
「おや、いらっしゃい」
「どうも」
軽く頭を下げて、ソウはインベントリから獣骨の短剣を取り出した。
「こちらの整備をお願いしたいのだが」
「はいよ。 ……おうおう、耐久値ギリギリだな。随分と無理をしたんだな」
「ああ、どうしても避けられなくてな。仕方なく戦ったらこの様だ」
そう言うと、オルグはほうと頷いた。
「あんた、イベント潜ってんだな」
「ああ、こちらとしては今戦うつもりはなかったんだが」
「ランダムだからな、こちらの都合なんて二の次だろうよ」
こちらの苦労が分かったのか、同情的な視線を向けてきた。
「ちょっと待ってな。すぐ直してやっから。それと、短剣がこの有様なら防具も厳しいんじゃねーか?」
「防具?」
言われてソウは防具にも耐久値があったことを思い出した。慌ててコンソールを開いて旅立ちセットをタップ。そこにはDV:8という哀れな数値が目に映る。
「あ、危なかった」
「なんでい、忘れてたんか。ついでだからそれも直してやる。金貯まったらちゃんと防具は新調しておけよ」
「そうしよう」
「なら、そこ入んな」
オルグが指すとカウンター横の壁に薄く線が引かれていき、線を中心に左右へ分かれた。
そんなところに部屋があったのか…… こういうところはSFまがいというか、近未来な技術感を出してくるのだな。しかしなんで部屋に?
「その顔は知らんらしいな。予備の防具が無ければ、お前は初期インナーの姿になるわけだ。誰が野郎のインナー姿見て喜ぶよ」
なるほど、納得した。確かに俺は予備の防具が無い。こういうところも現実と酷似しているのか。
「因みに、インナーで街をうろつくとどうなる?」
なんとなしに聞いた質問に、オルグは顔を顰めた。
「あん? 一応、インナーは公式装備だ。裸ではないから捕まりはしないが、お前は露出癖でもあるのか?」
「いや、もし防具が壊れた場合インナーでいて大事ないかの確認だ」
「そうならんように予備の防具というか、これを予備にして新しいの使えってんだ。緊急事態なら仕方ないだろうがよ」
「そうだな」
ごもっとも。
机と椅子だけが置かれた簡素な空間で、扉は先ほどソウが入ったほかに2ヶ所設置されていた。
武具の受け渡しもこの部屋で済ませられる設計か。
部屋の確認が終わったところで、ソウはコンソールからステータスを開く。先ほどの戦闘でレベルが上がったのだ。ポイントを振り分けなくては。
なんとレベルは倍の10になっていた。サブの盗賊も6といい感じに上がっている。また、今回は新たにEVPという項目が追加されており、150ポイントが与えられていた。
これはイベントポイントか。とりあえず置いておくとしよう。
振り分けられるSPは20。大幅な強化ができるな。とりあえずはSTRとDEXに振るとしてだ。今回はVITにも1振れるのか。とはいえ、1振ったところで紙装甲であることに変わりない。其れよりはLUCKに振る方が有用だろう。結果、STRに7、DEXに8、LUCKに5振った。続いてスキルだが、【回避】がlv6に上がっている。また、【捨て身】と【見切り】が生えていた。効果は、【捨て身】が武器を装備している状態で素手で攻撃するときに微補正。【見切り】は直前の行動を推測する行為に微補正。どちらも常在スキルだな。
また、《ジャイアントキリング》の称号も貰っていた。こちらはレベル5以上の相手と戦う時に自分のHPがレッドゾーンの時にステータスに補正が入るらしい。
「ふうむ、背水技が出てきたか」
または火事場スキルともいえるか。なんにしても使えるものだ。ありがたく頂くとしよう。
ステータス更新を終えて暇になったソウのもとに、丁度オルグがやってきた。
「おう、待たせたな。両方とも戻しておいた」
「ありがたい」
オルグから装備を受け取るとそれぞれスロットに嵌めていく。すると自然に装備が完了するのだ。獣骨の短剣はインベントリに送っておく。
「お代だが、300マーニだ。あるか?」
「ぎりぎりな。世話になった」
「おうよ」
短剣は無料だが、防具は違うのだ。事前に聞かなかった俺が悪いが払える額で助かった。オルグに300マーニを支払うと部屋を出て装備屋を後にした。ソウは金の補充をすべく占いギルドへ戻る。
ギルドにはメルダもフクロウも不在であった。ソウは大水晶に触れて、ホーンラビットとフォレストウルフの討伐・納品を完了させた。2300マーニが振り込まれる。
オルグにも忠告されたが目下は武器の更新が先だな。防具はその後。これだとスキル習得用のスクロールなんてまだまだ先になってしまうな。
魔法ギルドで売られているスクロールは基本魔法スキル1本でも5000マーニを超えているとかで、魔法師は阿鼻叫喚らしい。
「今日はこれまでだな……」
入金を確認したソウは2階の借り部屋に戻ってログアウトした。
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