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012 イベントボス遭遇! 2

「こちらだ、瓜坊」


 ソウは突進してくるワイルドボアを避け……切れずに掠ってダメージを受けるがお返しに水晶玉のボディーブローをお見舞いした。

 ついでにその反動を利用して半回転。一瞬背中合わせになるがすぐさま距離を取ってワイルドボアを視界に入れる。

 

「【未来視】なんぞ使っている暇がないな」


 幾度となく突進を避けていることで向こうの動きにも慣れてきたソウではあるが、【未来視】を使えるタイミングを未だ見出せていない。

 慣れとは恐ろしいもので、ソウはワイルドボアの突進を見切れるまでに成長していた。

 ただの突進であればもう完璧に避けられる。が、まだ攻め手にかける状態が続いていた。


「あの牙が厄介なものだ」


 さらに厄介なことに首の可動域が広いのだ。異常に発達した牙はワイルドボアが頭を振ると連動して撓り、地味に伸びてくる。現実は存在しえないなんちゃって生物であるが、これはゲームだ。理不尽が満載でも割り切るしかあるまい。

 こちらが完全に背後を取らなくては安全に攻撃を仕掛けられないでいる。向こうもさすがに学んだようで、完全な隙を作らなくなっていた。


「むう、集中力が途切れてきたな」


 かれこれ30分は経っていることだろう。

 敵のHPを残り6割ほどまで減らせることができた。

 

「これではあと1時間は必要だな」


 疲労も込みでのどんぶり勘定だ。

 今回は諦めて短剣を捧げる覚悟で挑むことを改めて決心する。

 

「さて瓜坊よ、また踊ろうか」


 ワイルドボアは低く鳴いてこちらを威嚇してくる。前足を何度も浅く蹴り、いつでも突っ込める態勢を維持していた。

 

「しかし、そうそうに水晶玉ガードが使えない相手とは。苦労するものだ」


 ソウはこの状況を楽しんでいた。これまでのレベル上げは慣れてしまえばただの作業だ。攻撃を受け止め、回避し隙を突く。

 戦闘スタイルそのものに変化はないが、メイン防御の受け止めることができない縛りプレイをさせられている。それはつまり、

 

「討伐に工夫が必要。結構なことだ」


 単調でない。それだけでもゲームを攻略する中で楽しみを見出せるものだ。

 ソウは次の突進で試したいことがあり、向こうの出方を窺っていた。

 この硬直時間は有効に使うべきだろう。

 決してワイルドボアから視線を逸らすことなくコンソールを呼び出すと、素早く短剣をタップ。現在の耐久値を確認した。


「残り42か。ぎりぎりだな」


 獣骨の短剣を順手に持ち替えてコンソールを消したタイミングとワイルドボアが突進を仕掛けてきたタイミングが一致した。

 ソウは慌てることなくカウントを始めた。


「3、2、1……今!」


 ソウは顎を引いて後ろに倒れる。


「ブルッ!!」


 ワイルドボアはソウを見失って困惑した声を上げるが、一度突進すると急には止まれない。そのままソウの上を通り過ぎてしまう。


「動物の腹は柔らかいものだが、果たして?」


 ソウはその肥えた腹へ短剣を突き刺した。

 これまでとは違い、確かに刃は肉を突き破った。さらに突進の力を利用してただ腕を固定しておけば自身で自傷してくれる。

 鮮血をモロに浴びてしまうがそれは許容範囲。すぐに消えてしまうので我慢していればいい。

 ワイルドボアがソウの上を通り抜けたところで素早く身を起こすとHPを見た。

 残り4割。

 今の一撃で2割削ったことになる。これまでで一番のダメージだった。


「次だ」


 もうこの手段は使えないだろう。次にやれば踏みつぶされるのが落ちだ。

 ワイルドボアは恨みがましい視線をソウに向けてきた。

 そして、次にワイルドボアの取った行動はソウの予想を超えたものだった。

 ワイルドボアは前足だけを曲げて一度沈むと、蹴り上げて上半身を浮かせる。切った腹をこちらに見せた後、体重を乗せて地面に両前足を付けた。

 するとどうだろう。地面が大きく撓んで揺れた。


「なっ!」


 やってきた衝撃に、ソウはバランスを崩してしまう。

 それが隙となり、気付けば目の前には白い牙が迫っていた。


「しまっ」


 咄嗟に水晶玉を噛ませるが、後悔する暇もなくソウは痛みを伴って宙を舞っていた。胃がシェイクされて口から胃液が逆流してきた。

 こんなところまでリアルにせんでもいいだろうに!

 無様に地面へ打ち付けられ、さらにダメージが入る。車に引かれるとこんな感じなのだろうな。

 全身に痛みが広がっているのがわかる。立ち上がるのも億劫になるほどだ。しかし、ここで立たなくてはただ踏みつぶされてリスポンしてしまう。これまでの苦労が水の泡だ。

 現実よりはマシなのだ。ソウは自分に言い聞かせると腕に力を入れて立ち上がった。


「やってくれる」


 恐らく、HPトリガーが発動した。これから奴の行動で初見が混じってくることだろうな。

 敵は目が血走っており興奮状態にある。その後は確かに突進の速さは増しているが、動きが単調になっている気がした。


「これは、逆にチャンスか?」


 ソウは水晶玉を一瞥して次の手を決めると、大回りをしてワイルドボアと距離を取る。


「この辺だろう」


 ソウは移動している最中に水晶玉を地面に叩きつけて少しだけ埋めた。

 ちらりとワイルドボアを見るが、向こうはただ身体の位置をこちらに合わせてくるのみで近づいてこない。突進の準備をしているのだろう。

 ワイルドボアと向かい合うように位置取ると、左手で挑発するように手招きする。


「ブルッ!!」


 本日一番の怒号を立てて、ワイルドボアは突進してきた。

 それを見たソウはニヤリと悪い笑みを浮かべると少し身体をズラして位置を調整。


「転べ」


 宣言通り、水晶玉を踏みつけたワイルドボアはバランスを崩して地面に落ちるとこちらに滑ってきた。ソウは巻き込まれないように頭の方へ駆け足で移動すると、短剣を逆手に持ち替える。

 牙に巻き込まれないように位置を調整して、そして……


「ここだ!」


 腕を振り下ろすと、短剣は丁度ワイルドボアの目を貫いた。


「ボォアアアッ!!!」


 片手で耳を抑えつつ、ソウは短剣を捻って肉をかき混ぜる。ぐちゃぐちゃとした嫌な音まで混ざり、不快さが増した。

 さらに体重を乗せて短剣を押し込んだところで、ワイルドボアはポリゴン化して消滅した。ソウの視界にwinの文字が浮かぶ。

 

「うしっ‼」


 支えを失ってソウは転倒した。HPは減らなかったが、すでにレッドゾーンでワンチャン死ぬ可能性もあった。

 ただ、今そのようなことを考えられるほど気にしてられなかった。

 イベントボスを討伐したことと各種レベルが上がった旨が脳内にアナウンスされた。


「ふう、何とか倒せたか……」

 

 大の字に寝転がり、ソウは広がる空を見つめた。薄い雲が浮かび、緩やかに漂っていた。やはり現実と相違ない光景であった。

 イベントリから青ポーションを出して口に含む。やはりただの水だった。

 飲み干してHPが全快したことで瓶が消えた。

ソウは起き上がるとまずは水晶玉を回収すべく歩き出した。

 微妙にテカっている場所を見つけ、そちらに向かう。まるでさっさと回収しろとばかりに光っている水晶玉を持ち上げてイベントリにしまう。

 短剣の耐久値はすでに10を切っていた。


「とりあえずお前は整備だな」


 この状態で戦闘続行する勇気はない。ソウは短剣もしまうと一目散にモノシスの装備屋を目指すのだった。


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