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008 モノシスの泉

 ポーション類は使用してないため補充は無しだ。少しでも費用は節約しておかねば。

 ソウは大通りに出ると教会へと向かう。

 教会の脇を通り抜けてしばらく行くと、メルダの言う通り分かりにくいが細い道があった。

 その先を進むとソウの2倍もの高さのある扉が出迎えてくれた。

 押すと開くのだろうか。

 そう思い、近づいていくと扉は自動的に開いた。

 昨日同様森に出られのだが、こっちは門あるのだな。何かこの森は特殊なのだろうか。門が設置されているということは巨大なモンスターがいるのかもしれない。今の実力では到底太刀打ちできないだろうが、それを見つけたらその時考えるとしよう。

 森を進んでいくと、ソウはなるほどと頷いた。

 このもの森の異常性をひしと感じ取れたのだ。

 

「プレイヤーの姿がないとはね」


 そうなのだ。今のところ、誰一人としてプレイヤーと巡り会っていないのである。

 また、ちらほらとホーンラビットや犬のようなモンスターと遭遇しているものの、戦闘にならないのも不可解であった。

 とはいえ、今はクエストとは関係ないので短剣の耐久値を減らさずに済むのはありがたい。

 相変わらずマップは先を示してくれないので、目先の道を目指す。

 闇雲に探すこと20分ほどだろうか。

 二股に分かれた道を左に曲がって進むと、ゲコッという鳴き声が聞こえてきた。

 

「カエルに似た声…… 泉が近い!」


 ようやくお目当ての水辺にたどり着きそうなソウだが、ここでふと昨日の【未来視】を思い出す。

 俺が泉に近づこうとしたら、何かに突き飛ばされて水に落ちるんだったな。

 だとすれば警戒しておくに越したことはない。

 鳴き声を頼りにソウは背後を気にしながら、慎重に進んでいった。

 木々を抜けた先には確かに泉があった。

 ちょうど泉を囲むように木々が生えており、太陽の光を浴びて水面が輝くさまはただただ綺麗の一言だった。

 直径10mくらいの泉の中央には小さな祠があった。


「やはり、何かが祀られているようだな」


 ゲコゲコとカエル型のモンスターがちらほらといる。手のひらサイズから現実のアマガエル同様かなり小さいものまで。また、奥には鹿のように立派な角を携えたモンスターが……なんだろうか馬みたいだがなんか違う。そういったモンスターがちらほらと見える。また、森の中同様こちらを敵視してこない。試しにアマガエルモドキの近くの地面に手を置いてみると、何の警戒をすることなく乗ってきた。

 目の前に持ち上げて視線を合わせてみるが、特に何かすることなくこちらを見てくるだけだった。


「ふむ、済まないね」


 そういってソウは手を地面に置くとぴょんと飛んで泉に着水した。

 思ったより脚力があるようで、30㎝ほど飛んだだろう。

 ソウは背後を見てみるが、何かが近づいてくる気配はない。

 改めて泉に目を向けると、【観察眼】が自動発動して件の亀を見つけた。

 祠がある小さい島の上で吞気に甲羅の天日干しをしているではないか。

 さて、正直なところこのように人に警戒することなくのんびりされていると、こちらとしても亀を討伐する気が失せてくるのだが……

 どうしたものか。ここで戦闘を仕掛けた場合、最悪ここにいるモンスターたち全員を相手にしなくてはならなくなる。そうなるとさすがに無事では済まないだろう。

 口元に手を当てて考えていると、ソウの頬に柔らかな風を感じた。

 途端、何かに押される感覚とともにソウの身体は浮いていた。


「はぁ?」


 【未来視】の結果が現実となり、ソウは風の力によって泉に落とされたのだった。

 水しぶきをまき散らす中、脳内ではジョブレベルアップとクエスト条件を達成したアナウンスが流れた。

 

 か、亀ー!!!


 どうやら着水時に亀を下敷きにしてしまったらしい。

 クリアしたものの、完全に事故で大変申し訳ない。

 とっさに風の来た方向を向くが、そこには何もいなかった。


「一体どういうことだ。何が俺を飛ばした?」


 ソウは水の中で立ち上がる。泉は脛の真ん中あたりまでしか嵩がなく浅い。

 とりあえず、不可抗力で倒してしまった亀に合掌しておいた。


「あらあら、びしょ濡れね。大丈夫?」

 

 鈴の音のような優しい声音がソウの耳を擽った。

 はっとして、声の方、祠に首を向けるとそこには一人の女性が祠の上に座っていた。

 ふわりとした柔らかそうな白のワンピースに膝ほどある長い金髪が這える。澄んだ翡翠色の瞳にソウを映し、少し困ったようなあらあらといった表情を浮かべていた。

 玉肌は太陽光を反射しており、全体的に光を放っているようにも見える。

 その美しさに、ソウは釘付けとなっていた。


「そんなに見つめられると照れてしまうわね」

 

 こちらをからかうように、女性はくすくすと笑った。

 彼女の行動一つ一つがとても幻想的に映るのは一体どういうことだろうか。

 というより、この世界の住人は突然出てくることが好きだな。そこまで人を驚かせたいか。


「その、祠に座るのは行儀が悪くないか?」


 我ながら絞りだして出した一言がこれとは。


「そうね。でもこれは私のために作られたものらしいので、大丈夫じゃないかしら」


 ああ、貴女を祀っているものだったのか。なら、対象者がどうしようと勝手というものだろう。


「それよりも、ごめんなさいね。小さい子が風を放っちゃったみたいで」


 そういって女性は頭を下げてきた。


「い、いや。こちらはどうということはないが、しいて言えば亀が一匹犠牲になってしまった」


 女性はこちらの足元を見て納得とばかりに頷いた。


「あらあら、本当ね。彼には済まないことをしたわね。でも今回は運が悪かったと思ってもらうしかないかしらね」


 自然の摂理といえばそれまでだが意外とドライだった。さて、そろそろ本題に移るとしよう。


「俺はソウという。あなたは?」

「あら、私を知らないということは…… そう、渡り人なのね」

 

 NPCは皆プレイヤーを区別できるシステムを搭載しているのだろうか。


「モノシスの泉の祠は私を祀るために作られたのよ。モノシスの住人であれば誰でも知っているもの。だからこうして近づいてくる人も少ないのだけれど」


 ああ、なるほど。モノシスがこの場所を神聖視しているのか。だとしたら部外者か、なにも事情を知らない渡り人と考えるのが妥当か。しかも俺はプレイヤー全員共通の旅立ちセット姿だ。渡り人と特定されて何ら不思議なことではなかった。


「ともなれば、神……さすがに小さすぎるか。妖精……いや精霊とでもいえばいいか?」

「はい、ご名答。私は風の精霊の一柱、フェリアよ」

 

 ふわりと宙に浮いたフェリアはその場でカーテシーを決めると微笑んだ。

 その光景にソウはまたもや言葉が出てこなかった。


「あらあら、可愛い子ねぇ」


 手を当ててくすくすと笑みを浮かべるフェリア。

 ソウはすっと視線を逸らした。大学生にもなってかなりみっともない様を晒しているのが恥ずかしかったからだ。

 なんだろうか、初めて会ったはずなのに既視感がある。疑問に思っていると、脳内にまたアナウンスが響いた。

 今度は何だ。

 ヘルプに『精霊』が追加されたという旨が見えるのは気のせいだろうか。

 よし、考えるのはやめだ。


「さて、ソウ。申し訳ついでなのだけれど、ひとつお願いを聞いてもらえないかしら?」


 わーお、独自クエスト2連荘。今日は一体なんなのだろう。キャラがバグっているが気にするんじゃない。


「貴方も気づいているでしょうけど、この森にいる子たちは穏やかな心を持った子ばかりよ。害を成そうとしなければ特に何もしてこないわ」


 先ほど水を飲んでいた鹿角の馬がいつの間にかフェリアの近くでくつろいでおり、彼女はその顎を撫でていた。


「なのだけれど、最近気性の荒い子が森にいるようなのよね。貴方にはそれを退治してほしいのよ」

 

 それって、もしやイベントボスのことじゃないか? ランダムエンカウントだからこの森にも出てきてもおかしくないし、出現時期も一致する。

 そんなことを考えていると、メルダの時同様のクエストウィンドウが出てきた。

 断るわけも行くまい。勿論YESをタップ。

 クエスト欄に風精霊のお願いが追加された。

 

「ふふ、頼もしいわね。でも背伸びしたい年ごろなのかしら? 無理はしないでね。貴方が傷付くのであればすぐに逃げていいからね。命を大事に、よ」


 この母親を相手にしている感じがすごい。なんというか、あああれだ。鈴香の母親がこんな感じなので、モヤっとした正体がようやく判明した。

 のほほんとしている母性の塊というか、常にこちらを心配しているという感じが一致しているのだ。

 フェリアは彼女ではないが、やりにくいにもほどがある。


「肝に銘じておこう。しばらくはレベル上げをするつもりだ」

「なら、向こうの森に行くといいわ。あっちには気性の荒い子が多いから」

「知っている。すでに行ってきた」

「あら、そうなの。なるべく早く戻ってきてね」

「善処しよう。ちなみに、この泉の水を分けてもらえないだろうか?」

「ええいいわよ。メルダに言われてきたのでしょう?」


 ご老体とすでに繋がりがあるのか……。なるほど。実はこの亀を倒すクエスト、割と面倒だったのだな。

 運が良かったというべきか、亀には悪いことをしてしまったが仕組まれていた可能性があるとしても、穏便にクリアできたので良しとしよう。

 許可を貰ったので、インベントリからポーション瓶を取り出して三本に水を汲むと栓をしてしまった。


「ではな」

「ええ」


 そう言って、ソウは泉を後にした。

 


 ソウを見送ったフェリアは優しい笑みを浮かべて言った。


「いってらっしゃい」



なんか、ユニーククエって憧れません?

ブックマーク、評価ありがとうございます!

部門別日間ランキングの末端に載っており驚いていました。今後も楽しんで頂けると幸いです。

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