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朝霧の大地  作者: 北上大井
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俺は妹を探したい

「おにーちゃーん!かくれんぼしよー!」


妹が森の中の少し離れた場所から大声で俺を呼んだ。


あいつの名前はロード=デルテ。

名前の由来はなんだったかな、忘れた。

茶色の髪をした俺の可愛い妹だ。



いつの間にか俺はこの謎の世界での生活に適応していた。

転生先のこの世界で、俺は新しい人生をスタートすることになったのだ。

この世界のこと以外の記憶は、転生前のあのクソ女とのやりとりだけだ。





この世界で、俺は「ロード」という名を持つ家で生まれた。

いつの間にかクラインと呼ばれ、いつの間にか妹がいて、今もいつの間にか妹の遊びに付き合わされるハメになっている。


いつから意識があったのかは分からない。

ただ、夢かもしれないが母親にだっこをされながら見た何処かの丘の景色は覚えている。


夢だとしてもいつ見たのか分からないし、夢じゃなかったとしてもそれが事実かそうでないかを確かめる手段はもうない。



なぜなら








母親がいないのだ、この家族には。

自分に意識というものができた時には既にいなかった。

父に聞いたところによるとある日突然いなくなったらしい。


だがその話を聞いたとき自分でも意外なことにあまり驚かなかった。それもそうか、母親がいないことに慣れているのだから。


母親がいないことは他の同年代の友達をみてると少し寂しく感じる時もあるが、デルテの前でそんな弱い姿はみせられない。


兄として、父の次の代を担う未来の大黒柱として俺は生きていかなきゃいけないのだ。

母がいないとはいえどうってことはない。










…というのがこの世界の、これまでのルール=クラインとしての「本心」だ。朝霧大地としての「本心」は、記憶を取り戻して自分が死んだ理由を解明すること。そして、俺が感じている「やり残したこと」の正体を知ることだ。

それと、なぜあの時女の声が聞こえなかったのか気になる。


でも、やっぱり…


「ここは、あなた達のわかりやすそうな答えでいうと、天国と地獄の通過前といったら分かりやすいでしょうか。」

「死後の世界でも難聴のままっていうの聞いたことないけど」



俺は本当に前の世界で死んだんだな…


自分が何者か、どんな人が身近にいて、どんな人と仲良くて、何が好きで、何が嫌いで、色々な出来事があったりとか…




そういうのすべて、失ったんだ…



なにも、ないんだな…

あの女との会話を振り返る。

こうやって冷静に振り返ると、自分の置かれている状況がよーくわかる。

何も記憶がない。

この世界は自分にとって別の場所。

この家族も、どちらかというと他人の家族。


あの女の言葉は、俺に一生ものの絶望を与えた。


そもそも記憶を取り戻したところで

その世界では死んでいるのに何の意味があるのか

戻れないならその世界のことは忘れたままの方がいいんじゃないか


あの女との会話を振り返れば振り返るほど嫌な気持になってくる。






あれ?

そういえば少しあのクソ女の発言に気になることがあった。

どうでもいいかもしれないけど、違和感を感じる発言。



天国?地獄?

違う。これはなぜか知らないけどどういうものか知っている。そこじゃない。


死後の世界?これも違う。特にこの発言に違和感は感じない。


俺はあのクソ女と話してただけだけど…



なにか違和感が…



「おーーーーーーーーーーーい!!!!」


そんなことを考えていると耳元で馬鹿でかい声を出してくる奴が現れた。


「はやくかくれんぼしよーよ!!!」


デルテだ。なんとなくだがさっきより怒っている気がする。

しょうがないから、付き合ってやるか…


「じゃあおにーちゃん鬼ねー!」

「やるからには本気だ!かかってこいデルテ!」

「かくれんぼにそのノリは気持ち悪いよ!」

「う、うるせー!」


俺が二十秒目を瞑っている間にデルテは森の中に隠れた。

かくれんぼをするとしたら中々難易度の高い場所だろう。


しかし、デルテは馬鹿だ。このかくれんぼというゲームにおいて彼女は致命的な間違いを犯している…


かくれんぼ、それは

制限時間をつけなかったらいずれ鬼が勝てるゲーム。

「見つけるまでさがす」

そう、どこに隠れようといずれ見つかるのがこのかくれんぼという遊びだ。

馬鹿な妹だ。制限時間を付けなければ鬼が勝つに決まっているのに。


やはりおこちゃまの考える遊びはルールもまともに考えていないことからわかるようにすべて杜撰!あなだらけ!圧倒的あなだらけ!


「やれやれ…軽くひねってやるか…」


俺はデルテが少しは楽しめるように手加減しながら妹を見つけることにした。まぁ、三分もあれば見つかるだろう












日が暮れた。

いない。どこにもいない。

え、マジかお前。

やばい、妹がいない。かくれんぼとかそんなレベルじゃなくて犯罪方面を疑うレベルで俺は捜索を続けていた。

「おい!デルテ!どこだ!どこにいる!」

何者かに連れ去られたんじゃないかーーーーーー

本気で俺の脳裏にはその可能性ばかりが浮かんでくる。

「どこだ!おい!どこだよ!」


森の奥深くまで進むが、妹の気配は感じられない。

捜索を続ける



「あれ?」

無我夢中で森を突き進むと、木が異常に少ない場所を見つけた

走ってそこまで行ってみると



そこには



ボロボロになった家があった



「なんだこれ?」



なんで森の奥深くにこんなものがあるんだ?



ちょっとだけ、扉に触れてみる。

少し押してみた、開かない。

引いてみた。開かない。

もしかして扉と見せかけてシャッターとかそういう系?開かなった。



鍵穴らしきものは見当たらないのに、全然開く気配はなかった。



「めっちゃ気になる…」



俺はこの謎の家に興味が湧いてきた。

しかし、いまはそれどころではないことを思い出した。

「あ、デルテを探さないと!」




それからも俺はボロ家のことを忘れて無我夢中で探し回った。


途中迷子になったが、俺はなんとか見慣れたところまで戻ってきた。

何時間も必死に探したが見つからない。








「俺のせいだ…」


俺は自分ひとりの力で捜索することを諦め、父に正直に言って協力を依頼しようとした。



気が重い。大変なことを俺はしてしまった。

なんで言えばいいのだろう。




そんなことを考えてるうちに家に着いた。


扉を開けると、そこには…





「あっ、おかえりー!!!」

デルテが食器を洗っていた

「えっ」

予想外すぎる光景から思わず変な反応になってしまった。

「お、お前…かくれんぼしてたんじや…」



「あっ」



まじか、こいつ

俺お前のこと必死に探してたんだけど。


「隠れる場所に迷って、適当な場所に隠れてたんだけど、家に隠れたら最強じゃん!

って思って家に隠れてたらお腹すいてきちゃってかくれんぼのこと忘れてご飯食べてた…」



なぁ、おい…



さすがに怒るぜ?それは


「なぁ、デルテ…」

俺はデルテに優しいトーンで話しかける。



「結構怒ってるぞ?俺」


この後数十分はきつく説教してやった。

当たり前だ。俺がどれだけ心配したと思ってる。

あいつが連れ去られてどこかに消えてしまったら俺も父さんも滅茶苦茶悲しむ。

デルテが怖いことされると思うと、自分のことのように辛い。



「ごめんなさい…ほんとうに、ごめんなさい…」



俺が帰った時よりも数段階トーンの落ちた声が聞こえる。

どうやら結構反省してるようだ。もうこのへんにしてやるか



「なぁ、デルテ…」

俺はさっきとは違う意味を持つ口調で妹に再度話しかけた


「遊びとはいえ、勝ちたい。やるからには負けたくない。そういうところは俺もわかるよ。そういう負けず嫌いなところはお前のいいところだしな。」


デルテの表情がどんどん明るくなってきてるのが手に取るようにわかる。このお調子者め


「だけど、それはお前の悪いところでもある。勝つためなら手段を選ばない。俺が必死にお前を探すハメになることを考えなかった。それはお前の悪いところだ。」


デルテの表情はどんどん暗くなっていく。浮き沈み激しいなこいつ。


(しょうがねぇな…)


俺はデルテを軽く抱きしめて頭を撫でてやることにした。



顔は身長差があるせいで見えないけどさっきよりは明るい表情になってくれると嬉しい。



デルテは、俺の初めてできた大切な人の一人だ。絶対に、失いたくない。

俺は、俺の名前は朝霧大地だ。クラインじゃない。

それでも、クラインとして大切な人が目の前にいる。


クラインとしての俺を好いてくれる家族がいる。


なら、俺はクラインとして、兄としてこいつを守り抜く。

絶対に、何があっても。

お前の幸せを任せられるやつができるまで守り抜く。

それが、俺の、兄としての「使命」だ。






「怖い顔してる、おにーちゃん…」



デルテが少し怯えた目で俺を見つめてくる。

しまった、色々と考え込んでるうちに少し怖がらせてしまった。



「なぁ、デルテ…」

「な、なに?おにーちゃん…」


俺はデルテに指摘されたにもかかわらず強張った表情でデルテを見つめる






ぐう~~~~~

腹から音が聞こえてくる

「腹減った」




さっきまで真剣に妹のことを考えていたからか、それとも単純に飯を食べていなかったからか、安心したと同時に強烈な空腹感に襲われてしまった


「い、今作るね!座ってて!」


デルテが駆け足で台所に向かっていく。

我が家のご飯はいつもあいつが作ってくれている。


今日のご飯は…         カレーライスだ。










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