魔女の森⑩
「国ってのは、国民の利益を最優先しなきゃいけないもんだが、どうしたって自分の利益を優先する馬鹿がいるのさ。
ま、言いたくないがね、アタシに殺されるより、国を裏切るより、仲間の信頼に背くより、目の前の利益の方にしか目がいかない奴がいるんだ」
魔女は笑顔を引っ込めると、寂しそうに語る。
「知っているかい、アズ坊や。
人と人の関係は、何をしても十年持たない。十年ありゃぁ、別のナニカに変わるのさ。
それで、人が大勢いれば、そのうちの幾つかは、確実に腐った臭いがする」
人は感謝を忘れる。
人は恐怖を忘れる。
個人間なら可能でも、国との関係であれば、絶対に裏切られない関係など、無い。
だから最近までサウノリアともまともに話をしようとしておらず、アズが来るまで魔女は独りだった。
「だからね、潮時なのさ。アズ坊や自身は信用しているけどね、サウノリアは信用できない」
魔女は借りていたスマホをアズの前に置くと、アズに帰るようにと言う。
アズの目から、また涙があふれ出る。
今度は哀しかったからではない。情けなかったからだ。
試されていたのだ、サウノリアが。
そしてサウノリアは、魔女に信じてもらえなかった。
信じたいという希望を、自らの手で消してしまっていたのだ。
――だからもう、お別れなのだと。
国にいる裏切者などごく少数だ。
アズ本人に何か非があったわけではない。
意識の統一された一枚岩の組織など滅多に存在せず、国とは多くの意見が集まるものだ。
魔女に言いたい事はたくさんある。
だけど、そんな言葉を、魔女はとっくに知っていて。
心を動かす可能性など無い事が、ほんの数年一緒にいただけのアズでもよく分かる。
一ヶ月前、サウノリアは魔女との不仲を周囲に発表した。
その時は偽りだった言葉が、いまこの時、真実となった。




