魔女の森⑨
「一体、一体なんで、あのような事を……っ!」
おおよそ一月ぶりに魔女の元を訪れたアズ。魔女との約定により、今日までここに来ることが許されなかったのだ。
そのアズは、魔女の顔を見るなり縋りつき、悲痛な声を上げた。
サウノリアに色々とちょっかいをかけていた連中。
そんな事をする彼らがいなくなればいいと、あの時アズはそんな事を考えていた。
しかし、中枢がマヒして国が割れたシーナ大央国という前例があったからこそ、それを願う事も無く穏当な手段で解決を図った。
だと言うのに、悲劇は繰り返された。
多くの企業から社長や代表取締役、その他の重要人物が欠け、大企業が大混乱に陥った。
株式などの事情により国よりも分断分裂が難しかったのか、子会社の離反などはあまり行われていないが、それでも無事とは言い難い。
そして混乱する経済は確実にサウノリアにも悪影響を及ぼしている。
もしも魔女がサウノリアを助けるために動いたのであれば、はっきり言ってしまうと逆効果でしかなく、考えの足りない行動なのだ。
経済制裁、経済封鎖はどうにかなったが、それ以外の被害が大きすぎた。
だからアズは、魔女に会う前に色々と考えた。
魔女はサウノリアを助けようとして、あんな事をしたのではない。
魔女の最優先は、一貫して森のためだ。そこは絶対にブレないと確信している。
ならば、これは森のための行動だ。
だけど、世界経済を混乱に陥れて、魔女にいったいどんな利益がある?
そうであるなら、サウノリアは魔女に見捨てられたのか?
答えは出ず、アズは眠れない日々を過ごすことになった。
「不思議な事を言うね、アズ坊や。
敵は殺す。いつも通りじゃないか。ま、殺さずに済むような連中であれば、殺しはしないけどね。
どこかの国では“馬鹿は死ななきゃ治らない”って言うし、連中が馬鹿だった、それだけさ」
嘆くアズに魔女が返したのは、いつもと変わらぬ飄々とした言葉だった。
アズの目から、涙がこぼれ落ちた。




