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魔女の森⑥

 魔女の森は、長い間、人の手が入っていない特殊な森だ。

 外を見れば似たような人の手が入っていない場所もあるだろうが、それでもそんな未開の地はどんどん減っている。

 そう考えると、魔女の森のような“処女地”は何より重要である。


 もともと、多くのコレクターとは希少価値を求めている。“自分だけ”が欲しいのだ。手に入れることが困難な、そんな物ほど欲しくなるのだ。

 そして自分が初めて手に入れた(・・・・・・・・)という名誉を得たならば、どれほど気分が良いだろうか?

 蝶のコレクターたちは、自分たちが魔女の対面に立つことなく蝶を手に入れられないかと、サウノリアへ圧力をかけて行った。



「もう、どうすればいいんでしょうね?」

「直接交渉する気もない玉無しどもかい。アンタらも大変だねぇ」


 コレクターたちは、サウノリアにどうにかしろとは言うが、自分が魔女と交渉しようという気を持っていない。

 どうにかできるなら多くの報酬を出すし、どうにもできないなら罰を与えるといった具合に脅しをかける。

 そして魔女の下にいるという自覚のあるサウノリアは、魔女が嫌だと言っているとしか返せずにコレクターたちの制裁を受けているわけだ。コレクターはそのほとんどが大富豪であるため、シャレにならない額の損失が発生しつつあった。


 だからといって、魔女はここで妥協するつもりなど無い。

 サウノリアの苦境は分かるが、下手な妥協をすれば調子に乗って次の要求を仕掛けてくるのが目に見えている。

 できない事のラインは、何があっても動かさない。それが魔女のルールである。


 基本、テロリスト相手と何ら変わりない。実際に彼らコレクターがやっている事も、テロリスト(暴力的な奴)と何ら変わりない。金か拳かの差はあるが、相手の意思を無理矢理捻じ曲げようとしているのだから。

 アズはそれが分かっているからこそ、どうしようかと頭を抱えているのだ。



 アズにとって一番楽な解決方法は、もうコレクターたちを魔女が制裁対象にして一掃する事だ。

 暴力的な解決ではあるが、仕掛けてきたのは相手が先である。なにより、魔女の制裁は警告のうちに退けば死にはしない。選択肢はちゃんとある。


 ただ、それを期待したところで魔女が動いていない今を考えると、望みが薄い事も理解している。

 それを強要、ねだる事があればアズやサウノリアが魔女から切り捨てられることもなんとなく分かっているので、アズは魔女に何もお願いをしない。苦労人気質のアズだけに、退き際はわきまえているのだ。

 彼は痛む胃を押さえつつも、ギリギリの綱渡りをしていた。





 そして魔女は、思ったよりも相手がぬるいというか、迂遠な手を使ってきたことに辟易としていた。

 彼女の予想ではもっと直接的に動くと考えていたのだが、アテが外れた格好である。

 撒いた餌には喰らいついたが、仕掛け(・・・)に入るまでまだまだ時間がかかるか、そのまま逃げられそうな雰囲気であると。


「これ以上の餌は毒になりかねないがね。さぁ、どうしてくれようか」


 森の魔女の悪だくみは、次の一手を求めていた。


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