魔女の森⑤
アズの懸念などただの妄想だと言い切るかのように、企業側の用意した人員は魔女を刺激しないよう細心の注意を払って作業を行っている
当たり前の話だが、もしもここで人死にを出してしまった場合、企業側は大幅なイメージダウンとなってしまう。部下を死なせない事を第一に、古木の回収作業を行わせていた。
また、古木が高額商品だからといって、実際に作業する人間にそこまで多額の報酬が支払われるわけではない。作業者たちも自分の命を投げ出してまで危険な事をするつもりが無く、魔女の警告に素直に従うため、万が一も無かった。
自然に倒れた古木は順調に回収されていき、半年もすると、「目につく物は全部回収した」と企業側が言い切るのであった。
その間の、森での死者数はゼロ。
古木回収中の被害者は、一人としていなかったのである。
魔女の森から古木が大量に回収されたが、古木の値崩れは起きなかった。
企業にとって残念なことに、サウノリアに贈られたものが一番樹齢が長い木だったというのが一つ。
今回回収作業をした企業三社が談合し、市場へ流す量を調整しているのが一つ。
あとは、「魔女の森の木である」というブランド力が凄まじかったせいだ。
魔女の森は人が踏み入れることを躊躇する場所であり、木を伐採できない事は有名だ。
そんな魔女の森から得られた木材というのは、それだけで希少価値が凄まじい。ここで入手できなければ二度と市場に出てこないかもしれないという思いが好事家達を動かし、多くの資金がサウノリアと企業に流れた。
一時的な「魔女の森バブル」は木材業界で大きく騒がれていた。
その一方、魔女の森に入った人間から、森の情報が流出するという事件が起きた。
魔女自身はそこまで制限していなかった事だが、木材回収の、現場の映像というものがあり、それがどこからかネットに流されたのだ。
そして注目されたのは、フレームにわずかに映っていた「蝶」。
世界の、他のどこでも見かけないその蝶は、好事家達の欲をさらに刺激した。
特に蝶は収集物として人気が高く、一部のオークションでは人の人生が簡単に売り買いされるかのような金額が動く。
これは見逃してもらえるという事は無かった。
だが、しかし。
「倒木の持ち出しは許可したけどね。蝶まで寄こせと言ってもそっちの許可を出す気は無いよ。
そのついでに森を荒らされたら堪らないからね」
魔女は蝶の収集家たちの要望を一蹴。
そこまで許してやる気は無いと断言した。




