魔女の森④
森の木を傷つけないようにヘリを使うといっても、そこまで簡単な話ではない。
ヘリは意外と燃費が悪いので、2~3時間しか飛び続けることが出来ない。距離に直せば300~500㎞程度で、往復することを考えるとカツカツであったりする。
魔女の森はかなり広いのだ。
そんな燃費の悪いヘリではなく、まずは小型のセスナなどを使い、古木の回収場所にあたりを付ける。
セスナであれば、物にもよるが、連続で1000㎞は飛んでいられるからだ。
調査であればヘリよりもセスナの方が効率が良いのである。
逆にヘリの強みはホバリングが出来ることで物資回収能力が高く、単純にセスナに劣るという事は無いのだが。
「良かったのですか?」
「構いやしないよ。一回連中が倒木を全部回収しちまえば、他の連中が入ってくる理由がなくなる。その方が平和だろうさ」
「いえ。それでも、また台風が来れば……」
「その時は、また連中を呼びつければいい。ついでに森に入ろうとする馬鹿どもをけん制してくれれば言う事無いね」
アズは魔女の真意が分からずに質問を重ねるが、その回答に何処か違和感を感じていた。
確かに、「お宝がある」と分かっていれば誰かが来るだろう。「お宝があるかもしれない」でも同様だ。
だから「お宝はすべて回収された」と言い切ってしまえば、人が来る可能性は低くなるのは分かる。
また、古木を回収するために選ばれた企業は、自分たちの邪魔をされないために、森の守り手として機能するだろう。
サウノリアに恩を売るのも、サウノリアが森を守るのに役立つから。
新しく「国」だけでなく「企業」を森を守る盾とするのは、ある程度納得できる考え方だ。
しかし、アズは魔女の思惑がそれだけではないという気がしてならない。
森に入る人間が増えれば、それだけ問題の発生率が高くなる。
懇意にする人間、組織が出てくれば、彼らへの配慮をしなくてはいけない。
それは魔女の厭う所だろう。
強権を発揮し利益のみを要求するという事もあり得るが、この魔女と長く付き合ってきたアズは、そんなことは無いだろうと思っている。
だから、一つの可能性を懸念してしまうのだ。
(魔女は、企業をわざと潰しにかかるかもしれない)
相手がただの人間であれば、欲をかいて魔女の禁忌に触れかねない。
そうして企業のトップを制裁対象にしようとしているのでは?
これはアズの勝手な考えである。
が、否定するにはこれまでの実績が実績のため、どうしても安心できないアズであった。




