大乱のシーナ⑥
最近、魔女が制裁を加えていたのは、主に「国王」「大統領」や「軍人」と言った「社会的強者」だった。
他にも「革命家」「人権派」などの一般人がいたが、彼らの場合も周囲からは「意識高い系」「高学歴」というレッテルがあったため、やはり彼らも「社会的強者」として扱われる。マスコミなども、その情報拡散力で強者扱いだ。
例外は革命家の子供ぐらいか。ただ、その時も殺された訳では無くカエルにされただけであった。
これまでの魔女の制裁は、「一般人から見て社会的強者に、それ以上の力で制裁を加える」という図式が成立していた。
それが、「難民」という「社会的弱者」に制裁を加えた事で、魔女の評価を著しく下げていく。
もちろん、魔女本人は何も気にしないが。
「なんとかなりませんか?」
「バラ線でも設置すればいいじゃ無いかねぇ」
「今はバラ線を設置すると、世界中から怒られるんですよ……。
それに、問題があるのはサウノリアではありませんから」
難民が毎日二桁死んでいくという状況。正しい情報の周知なども行われているが、現状は何も変わらない。
北征王が難民キャンプのあった場所に軍を駐留させて状況がマシになったかと思えば、別の地域で同じ事をするものが多数。イタチごっこである。
難民キャンプを追い払う北征王の対応に世界から非難が集まるが、「これは魔女の森で難民が死なないようにする唯一無二の手段であり、今後も続ける」と言ってしまえば簡単に否定できない。というより、間違った事は言っていない。否定するなら屁理屈だ。
そして最後に非難が魔女へと向かうのが一連の流れである。
サウノリアは魔女と共存する事を選んだ国家なので、魔女の評判が下がるのはよろしくない。
なので、事態の解決策は何か無いかと魔女に聞くが、魔女はつれない返事をする。あまり現実的な提案をしない。
なお、実際に有刺鉄線で柵を作ろうが、それでも難民は柵を乗り越えて森へと向かうだろう。彼らはその程度では止まらない。
その熱量をまともに生きる事に使えば事態は改善するのだが、彼らがそれに気が付く事は無いだろう。だから難民なのだ。
たとえ行く先が地雷原だと知っていても、何も恐れないで――恐れていようが――突っ込む習性を持っている。何とかなるものではない。
今回の件は、デマによって引き起こされた、難民が行う集団自殺をどうするかという話である。
「責任は取らせないといけないよねぇ?
くだらないデマで人を動かした代償は大きいよ」
面白半分で嘘情報を流した狼少年はすでに死んでいる。
だとすれば、今は誰が嘘つきで、誰を裁くべきなのか。
魔女の制裁は、もう一つ。
これまでに無い形を以て締めくくられる。




