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大乱のシーナ⑤

 森への明確な破壊行為と言えば、やはり伐採だろう。

 魔女の森はごく一部の地域を除き、伐採を禁止している。そしてそのごく一部は一般人が出入りできる場所ではない為、事実上の伐採禁止だ。

 つまり、森で木を伐ろうとすると魔女の制裁を受ける。



「なんで学習しないのかね?」

「誤情報が飛び交っているので……。

 人は自分の信じたい情報しか信じないんですよ。特に、追い詰められているときは」


 毎日毎日、森に斧を持って立ち入る馬鹿な難民が現れる。

 今の季節は夏だが、今のうちに木を伐って冬に使う薪などを確保しようという連中が押し寄せているのである。

 魔女の表情は、怒りを通り越して“無”になっていた。


 森に難民が行く理由は、魔女が「コレで情報を共有できる」と言ったスマホが原因だ。

 SNSに「魔女が寝ている時間なら大丈夫! 警告を受けたら戻って、警告が出ないタイミングで伐ればいいんだよ」という、嘘情報が流れてしまったのだ。

 情報を流した馬鹿は制裁済みだが、一度流布した情報は消えたりしない。

 そうしてありもしない「制裁のない時間帯」を探して、難民が森に押し寄せたのだ。



 魔女の制裁は、警告、威嚇、警告、制裁の順に行われる。

 このうち、威嚇は最初の警告に従っていれば行われないのでスキップもあり得る。


 そして同じネタで二度警告をした相手には制裁が待っている。

 警告されて逃げた相手が二度目の警告を受けてまた逃げて、三度目の警告は無いため制裁を受けるという流れができあがってしまった。

 三度目の警告が無い事は伝えられているにもかかわらず、「警告されたら逃げれば良い」と軽く考えてしまうのだ。


 もちろん、三度目が無いという情報は拡散済みなのだ。

 だがそれでもその情報を拾っていないのか、それとも真実から目をそらし偽情報だと思い込んだのか、あまり効果が無い。

 森での死者は順調に増え、制裁された愚か者は一月も経たずに千を超えた。

 そして一日当たりの死者は増える事はあっても、減る気配は今のところ、無い。



 北征王が森への出入りを禁止していても、難民はそれに従わない。

 そもそも、北征王は難民キャンプを何度も追い散らすなどして、魔女の意向を汲んだ行動をしていた。

 ただ単に、難民はそうするしか自分たちに生きる道が無いと思い込んでいるため、北征王にも魔女にも従わず、自分の意思(ワガママ)を優先しているだけだ。


 実際には他の生き方もあるのだが……彼らは彼らで捨てたくない物が多すぎるのだ。

 いくつか生き方からこだわりを捨てれば、故郷を本当の意味で諦めてしまえば、いくらでも生きていけるというのに。


 残念ながら人間は、生きるために必死にはなれない。

 ほとんどの人間は、生きたいように生きるためにしか必死になれないのだ。死という現実から目をそらし、現実を都合の良いように解釈し、我を通そうとしてしまうのだ。

 医者に「たばこを止めないと死にますよ」と言われても禁煙しないのと、本質的な違いは無い。


 中には生存優先でプライドも何もない人間もいるが、そんな人間はごくごく少数なのである。



 人間は進歩しているようで何も変わっていない。

 便利な道具があろうと、それを活用できていないのだった。

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