十字軍⑤/森の人②
魔女信仰集団『森の人』。
彼等は魔女の言葉を最優先し、魔女の意思に従い生きる者たちの集団。
などでは無い。
彼等の中は魔女に従う事で恩恵を得たいという者が多数存在し、あわよくば自身も死を超越したいと願っている。
信仰の形は人それぞれで、中には魔女を恐れてその力から逃れたいという思いを抱いている者も居るが――多数派は、魔女を利用したい人間達でしかなかった。
そして、そんな彼等が魔女の名を使って『新生十字軍』にテロ活動を仕掛けた。
十字軍の解散を求める声明が彼等から正式に発表されたので、ほぼ間違いないだろう。
「彼等は魔女の信者なのだろう!? だったらなぜ、我々を攻撃するんだ!!」
「魔女の公認を得る前なら分かる。今、我々を攻撃してなんのメリットがある?」
十字軍の彼等は、『森の人』のテロ行為に理解ができないと声を上げる。
彼等の活動は魔女の意思に沿うものであり、だからこそ不名誉ではあるが公認を得ていた。
ならば協調路線を取る事こそ魔女の意思に従う事であり、魔女の名を使ってまでのテロ行為はその意思に反する行いだと言えた。
『森の人』のテロ行為の目的が全く見えない。
「魔女の指示、と言う事はあり得るのか?」
ぽつりと、十字軍の一人が疑問を漏らした。
「そうか、確かにそれならば……」
「いや、魔女は不要な破壊を好まない。『白の守護者』の事件を忘れたのか?」
「ならばなぜ、我々が攻撃されねばならん!」
十字軍の人間は、基本的に魔女を信用していない。
魔女を疑う者が出るのは当然である。
しかし、敵である事とその在り方を認める事は同時に成立する。
魔女への不信が飛び交う中にも、魔女を庇う発言もあった。
「これを利用する事はできないか? 魔女への不信を煽るにはちょうど良い」
「魔女に彼等を止めさせれば良いのではないですか?」
「馬鹿を言うな。これ以上、魔女の力なんて借りたくもない。
それに、だ。魔女の言葉が本当であれば、後は我々が何か言わなくても勝手に動くだろう。
あの約束からは、まだ一年も経っていないからな」
そしてこの状況を利用できるとする一派。
テロをする『森の人』の考えは理解できないが、攻められる状況を最大限に利用するのは政治家の常套手段である。
テロリストとは交渉せず、テロとの戦いを前面に出して正義の旗を掲げる。そしてそれを行う『森の人』、延いてはその裏にいる魔女を非難する。
そして排除は魔女任せ。要求はしないが、必ず動くだろうという確信があった。
命の危険があるのは確かでも、それが十字軍にとって最大の利益を出す方法だ。
十字軍は魔女と『森の人』への非難声明を発表し、この解決に向けて全力を尽くすと断言。
テロには屈しない、そう言い切った。




