十字軍④/森の人①
新生十字軍のような存在は、シーナ大央国の末路を見れば、その必要性が分かろうというものだ。
魔女はあくまで森の為に動くのであり、それ以外を下に置いているからだ。
最悪、魔女は他国を滅ぼしてでも森を守るだろう。
政治家達はその事だけは否定はしない。
これはどの国の政治家――政治屋では無い――でもそうなのだが、やはり自分の国を一番において動くからこそ、彼等は政治家たり得るのだ。
そうでない者が居たとすれば、それはただの売国奴だと言われる。もしくは自己利益を最優先の悪党か。とにかく政治家失格である事は間違いない。
……意外とそう呼ばれる政治家が多いというのは、どの国でも否定しきれない事実であるが。
彼等にとって一番の問題は、魔女が森から出てこれない事だ。
これは大いにマイナスで、通常の政治家であれば話し合いによる利害調整など、戦闘行為を除く手段で物事を解決するのだが、魔女にはそれが出来ないからだ。
下手な交渉をすれば森から出入り禁止を言い渡されそれで終わる。
それに、魔女は森の外から物が持ち込まれる事を嫌う。
家電があれば生活がもっと良くなる。しかし、魔女はそれらを一切欲しがらない。生活に利便性など必要ない、望んでいないのだ。
こうやって科学技術の恩恵を完全否定する魔女と何を以て交渉に臨めば良いかと言われたところで、まともな答えは返ってこない。
魔女の森は住人が一人なので、彼女の意見一つが森の住人の総意であり、決定事項だ。意見が割れる事が無いというのはなんともやりにくい。政治家の掲げるもう一つ、「国の発展」というキーワードが一切意味をなさない。
ある意味では無く完全に、魔女と政治家は相容れない生き物なのだ。住む世界が違いすぎる。
そして最終手段、物理的排除もできない。
戦争も外交カードの一つなので、普通ではない政治家は戦闘行為、戦力を使った脅しもする。
だが魔女に敵う戦力など世界中のどこにも存在しない。論外だ。
彼等にできる事と言えば、自国の世論を味方に付ける為の運動だけ。
下手な真似をして殺されては意味が無いので、地道に動き続ける。
魔女の方もそれを望んでいたので、今度は関わらないでおこうとそっとしておいた。
ただ、十字軍の彼等には別の災いが降りかかる。
魔女信仰を掲げる団体、『森の人』。
彼等が十字軍に妨害活動を行い始めたのである。




